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【日本を救う小さなトップランナー】
日経ビジネス
製造 クリーンベンチャー21 ベンチャー経営
世界に通じるモノ作り。本誌はこれまで高い技術と生産能力を持つ日本企業を多く描いてきた。その対象はトヨタ自動車やソニーといった大企業に限らない。規模が小さく、知名度が低くても、産業界に欠かせない製品や部品を作る中小企業が全国に数多くある。
このシリーズでは本誌の人気コラム「小さなトップランナー」から優れたモノ作りの現場を紹介した記事を連続で取り上げる。
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2008年9月22日号より
次世代エネルギーとして開発競争が進む太陽電池。
シャープや三洋が投資を増やす中、注目を集めるベンチャー企業がある。
松下を飛び出した創業社長は、発電効率を高める技術で市場を拓く。
(白壁 達久)
次世代エネルギーとして、世界的な開発競争が進む太陽電池。国内では三菱電機が8月、2011年度までに太陽光発電システム製造設備に約500億円を投資する計画を発表。シャープも今年3月、2010年3月までに720億円を投じ、薄膜太陽電池の工場を新設すると発表している。
シリコン使用量を抑え、薄くて軽く、曲げることができる球状シリコン太陽電池を持つ室園幹夫社長(本社で)(写真:今 紀之、以下同)
大企業が先行者利益を獲得すべく、人材や資金を積極的につぎ込む激戦の舞台で、キラ星のごとく登場したベンチャー企業がある。京都市南区に本社を置くクリーンベンチャー21(CV21、室園幹夫社長)がそれだ。
CV21は今年6月に量産を始めたばかり。しかし、その独自技術には定評がある。「球状シリコン太陽電池」と呼ばれるもので、使うシリコンの量が、従来技術の板状シリコン太陽電池に比べて5分の1程度にまで減らせると言われる。資源高騰によるシリコン争奪戦に対応できる“夢の製品”なのだ。
球状シリコン太陽電池の基礎技術は、1970年代に米国で確立されていた。しかし、製品の歩留まり率が低く、本格的に量産する企業は少なかった。CV21は歩留まりを高める技術を開発し、量産化にこぎ着けた。
現在は京都市内の工場で、太陽電池パネル(1枚のサイズは縦5cm、横15cm)を月産2000枚程度作っている。今年中に本格的な量産に移り、3万~4万枚へと大幅に増やす見込みだ。
売上高(2008年3月期)は4億2888万円だが、投資がかさみまだ赤字。量産してからは、太陽電池の設置に手厚い補助金が出る欧州で、商業施設向けを中心に販売を伸ばしている。
室園社長は「2010年3月期には90億円の売り上げと黒字化を目指す」と鼻息は荒い。
「松下の撤退」を受けて起業
創業は2001年5月。室園社長がCV21を起業したきっかけは、勤務先だった松下電池工業の「太陽電池事業部の廃止」にある。
1971年に松下電器産業へ入り、関連会社である松下電池工業で太陽電池の研究にいそしんだ。90年には太陽電池事業部の技術部長に就任。「これからはエネルギー問題が一層叫ばれる」。そう信じて研究に邁進した。
しかし松下電器は、松下電池工業の太陽電池事業部の大幅縮小を2001年に発表し、翌年には廃止してしまった。時代は「破壊と創造」を掲げた中村邦夫前社長による「V字回復」に入る前。事業の選択と集中が迫られる中、太陽電池事業部は廃止という厳しい決断を下された。大幅な黒字が見込めず、主要材料にカドミウムを使用していたため環境問題に適合しないことが理由にある。
このまま松下に残って別の研究をすべきか――。悩んだ末、室園社長は2000年に松下を早期退職した。球状シリコン太陽電池の開発をあきらめきれなかったからだ。
米国のある企業が開発した球状シリコン太陽電池について、以前からその存在と可能性、課題などは知っていた。松下では手がけられなかったが、室園社長は個人的に、製造コストなどの面から事業化のために欠かせない技術を研究していた。そして室園社長は、会社を起こして球状シリコン太陽電池の開発に取りかかる。
「集光型」でシリコン量5分の1
CV21が独自に開発した球状シリコン太陽電池は「集光型球状シリコン太陽電池」というもの。従来の球状シリコン太陽電池は、太陽電池の機能を持たせたシリコン球を板の上に並べたものだった。しかし、それでは板状の太陽電池に比べてシリコン球を並べた際に隙間ができ、10%程度の集光ロスが発生していた。
一方、CV21は直径1mmのシリコン球をアルミニウムでできた直径2.2mmのすり鉢状の基板に埋め込む「集光型」を開発。アルミ基板は反射鏡を兼ねており、差し込んでくる太陽光をすり鉢状の基板が乱反射させてシリコン球に集める仕組みだ。これにより、板状シリコン太陽電池と同等の出力を保つことに成功した。
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シリコン球を1794個並べて、1枚の太陽電池セルを形成する。従来の板状シリコン基板に比べて、使うシリコン量を5分の1に抑えられるという。
実は、太陽電池業界で最も深刻な問題が、このシリコンの確保なのだ。太陽電池ビジネスの急成長からシリコン需要が高まり、世界の太陽電池メーカーがシリコンの確保に走った。昨年、7年間世界生産シェアのトップを保ち続けたシャープが、ドイツの企業に抜かれた。その原因はシリコンの安定調達に失敗したからと言われるほどだ。
CV21はシリコンの使用量を少なくしたため、1枚の太陽電池が240円程度に抑えた。板状シリコン太陽電池に比べて2~3割の価格引き下げに成功したという。
メリットはそれだけではない。薄いアルミで作った基板であるため、軽く、さらに曲げることができるという利点がある。板状シリコン太陽電池は硬く、真っすぐであるため、使用に適する場所が限られてくる。一方、湾曲が可能な球状シリコン太陽電池は、あらゆる面での搭載が可能になる。
「自動車の形状に合わせて表面を覆うことも可能だし、建物のデザインを損なうことなく太陽電池を張ることだってできる」と室園社長は胸を張る。
昨年の太陽電池シェアでシャープを抜き世界一となった独Qセルズと、猛追する同3位、中国のサンテック・パワーの2社の成長が著しい。サンテック・パワーは過去5年間で、売上高は約100倍、営業利益は約220倍へと急成長を遂げている。
実はこの2社、CV21と創業時期がほとんど変わらない“同期”である。
「外国勢の積極的な投資と技術開発のスピードはすごい。今の日本の仕組みではそんな会社が生まれるように思えない」と室園社長は嘆く。CV21も15億円を投じ、2009年末までに京都府木津川市に新工場を建てる予定。欧州の需要に応えるためだという。
今後、豊富な資金を元手に研究を進める巨大なライバルにどう立ち向かうのか。室園社長は「人で勝つ」と言い切る。「世界の巨大企業と戦う緊張感を生で感じられる中で開発を進めるのと、巨大な研究所で一研究員として過ごすのでは得られる経験が違う」と、室園社長は興奮を隠さずに今の仕事のやりがいを語る。
優秀な技術者ほどベンチャーに入ればもっと鍛えられる。室園社長の言葉に感銘を受けたかつての部下ら約20人の松下出身者がCV21へ来た。
しかし、CV21の競争環境は常に厳しい。球状シリコン太陽電池の分野には京セラなどの大企業が控えている。従来型の板状シリコン太陽電池では、三洋電機が電気への変換効率を23%以上(CV21の球状シリコンは10~11%)に高める技術にメドをつけた。さらにシャープや三洋は、シリコン使用量を従来の100分の1に抑える新たな薄膜太陽電池の開発を進めている。太陽電池メーカーの主役を誰が担うのか。一刻も早い量産の拡大が求められている。
成長する市場で、薄さや軽さを生かして独自の地位を築けるか。CV21の戦いは、ベンチャーの縮図と言える。