2009年3月31日火曜日

発表されたばかりの日本版固定価格買取制度とは?


「固定価格買取制入門」(産業技術総合研究所 太陽光発電研究センター 化合物薄膜チーム 櫻井 啓一郎・著)より


出典:http://eco.nikkeibp.co.jp/article/column/20090309/101030/
2009年03月11日発電マン 代表取締役・岩堀 良弘
 2009年2月24日、二階俊博経済産業大臣が記者会見を行い、太陽光発電システムの助成制度について大きな方向転換が発表されました。太陽光発電の普及を促すための新制度の導入を検討すると発表したのです。今回の発表では「新制度」という表現をしていますが、これは固定価格買取制度(FIT)のことです。ただ、ドイツなどで採用されている制度とは若干の違いもあり、そういう意味では“日本版固定価格買取制度(FIT)”といった趣であります。

 今回は予定を変更して、この内容について解説したいと思います。

 今回発表された日本の新制度を解説する前に、固定価格買取制度(FIT)とはどういう制度なのか見てみましょう。
固定価格買取制度(FIT)とは?
――ドイツの場合
 フィード・イン・タリフ(Feed-in tariff:略してFIT)といわれるこの制度は、日本では「固定価格買取制度」と呼ばれています。

 将来的に有望ではあるけれど市場においてはコスト高で脆弱な再生可能エネルギーを普及させるための助成制度の一つで、設備で発電された電力を通常よりも高い価格で電力会社が買い取り、しかも10年~20年といった長期に渡って買い取ることを保証する制度です。助成制度には、設置に対する補助金、RPS法、余剰電力買い取り、などいくつかありますが、そのなかでも導入の効果が非常に高い制度とされています。

 一言で「固定価格買取制度」といっても、この制度は設計の自由度が高く、買い取り価格や期間など、その運用の仕方は国によって様々です。すでに多くの国がこの制度を導入して実績も出ているので非常に確実性の高い方法だといえます。

 固定価格買取制度の枠組みを決定付けるいくつかの要因について、ドイツのケースを見てみましょう。

(1)買い取り価格
 再生可能エネルギーで発電された電力を通常の電力単価を上回る価格で電力会社(ドイツの場合は送電会社)が買い取ることを法律で義務付けています。エネルギーの種類によって異なる買い取り価格(これを「タリフ」といいます)が決められています。太陽光発電の場合は通常電力価格の3倍~4倍程度で買い取ることが保障されています。

(2)買い取り期間
 最初に決められた買い取り価格(タリフ)で、その後20年間買い取ることを保証しています。最初に決めた価格が20年間も続くので、設置事業者は収益の見込みが立ち、投資家は安心して投資ができます。つまり、資金を非常に集めやすくなるのです。

(3)買い取り電力の範囲
 ドイツの場合は発電事業者と送電事業者が独立していて、送電事業者は発電された電力の全量を買い取ることを法律で義務付けられています。

(4)買い取り価格(タリフ)の推移
 制度が導入された初期は買い取り価格(タリフ)は高めに設定されます。まだ設備費が高額な初期段階で導入した人ほど、高い買い取り価格(タリフ)を得られるようにするためです。普及が進んで量産効果により設備費用が安くなれば、それに応じて買い取り価格(タリフ)が低くなるように設計されます。(図1参照)
 また、次年度以降いくらで買い取られることになるかを予告しておきます。来年の導入では買い取り価格(タリフ)減ると分かれば、「できるだけ今年中に導入しよう」という動機付けになります。
(5)対象となる事業者
 水力、太陽光、風力、地熱、バイオマスなどの再生可能エネルギー事業者が対象となります。個人・企業は問いません。

(6)費用の負担は誰が?
 ドイツでは買い取り価格が上がった分は、全国民が広く負担することになっています。ドイツの場合、各家庭で1カ月約3ユーロ(円換算約370円:2009年3月時点)程度電気代が上昇しました。

 この制度のいいところは、再生可能エネルギーの設備を導入しようとする者(個人または企業)にとって、発電した電力の買い取り単価と買い取り期間が保証されるため、元を取るまでの期間がほぼ確定され、それゆえ安心して投資ができるということです。またドイツの場合、買い取り保証期間が20年と長期に渡るので、最初の10年以内でほぼ設備費が回収でき(もちろん設置条件で違いますが)、残りの10年で利益が確保できます。投資リスクが読めるので、多くの資金が流れ込み、その資金が産業を発展させ、さらに雇用を生み出すという好循環を作り出しました。

 この制度は国から見た場合、タリフを管理・調整することによって普及をコントロールしやすく、導入目標を達成しやすいという特徴があります。また、投資に対する費用対効果が最も高く、無駄が少ないことが確認されています。

 デメリットとしては、費用負担を電力料金に上乗せするため、発電設備を設置していない人への負担が大きいということです。

日本の新制度(経産省案)との比較検討
買い取り価格、期間、電力の範囲
 今回経産相によって発表された新制度の内容について、日本経済新聞に掲載された記事をもとに、上記のドイツの固定価格買取制度と改めて比較検討してみます。

 まずは記事を見てみましょう。

 「二階俊博経済産業相は24日の閣議後の記者会見で、太陽光発電の普及を促すための新制度を導入すると発表した。家庭や企業が太陽光で発電した電力を、電力会社が約10年の間、当初は従来の2倍程度の1kW時あたり50円弱で買い取る仕組み。今後、具体的な制度設計に向け、関係業界などと調整を進める。電力やガス、石油各社に非化石燃料の導入を義務付ける新法に盛り込み、今国会に提出する方針だ。2010年にも実施する。
 二階経産相は同日朝、経産省内で森詳介電気事業連合会会長(関西電力社長)と会談し、新制度の導入方針を伝えた。森会長は「協力したい」と語ったという。
 新制度は家庭など電力利用者が太陽光でつくった電力について、自宅などで消費する以外の余剰分を電力会社に買い取ってもらう内容。既に発電装置を設置している利用者と制度開始から3~5年に設置する利用者が対象。買い取り価格は太陽光発電の普及に合わせて、年度ごとに下がる。」
(日本経済新聞 2009年2月24日夕刊より抜粋)



(1)買い取り価格
 買い取り価格は1kW時あたり従来の2倍の約50円を想定しています。
 日本の現状は、買電と売電がほぼ同じ価格ですから、2倍の買い取り価格というのは大きな進歩といえます。私が言うところの「発電貯金」に振り込まれる金額が単純に倍になるということですから、設置者のメリットはかなり増えます。つまり今まで毎月5000円の振込みがあったとしたら、それが1万円になる訳ですから、これは大きいです。ただ、ドイツの3~4倍に比べればまだまだ弱いのは否めません。

(2)買い取り期間
 買い取り期間は10年間としています。ドイツの20年に比べて半分です。現状、何の保証もなくボランティアで買い取ってもらっていることを思えば、10年間確実に買い取り保証がされるのは、設置者からすればずいぶんリスクが軽減されます。ただ、今回の措置では「10年で元が取れるか?」と考えると甚だ疑問です。今年度の補助金を使ったとしても設置費の1割程度しか負担してもらえませんし(自治体の補助金額により地域差があります)、設置の条件が相当良いところでないと10年で元を取るのは厳しいのではないでしょうか。また2倍買い取りの範囲が「余剰電力」に限っているため、自家消費分の比率によって償却期間にそれぞれの家でかなりの差が出ることになります((3)で詳しく解説します)。
 しかも、10年の期間以後はどうなるのかということについては、経産省案では何も言及していません。ある設置者からは「10年経ったら買い取りを拒否されるのではないか?」という不安がすでに寄せられています。10年の期間以後についても何らかの保証を示してあげないと、政府の望むような急速な普及にはつながりにくいと思われます。

(3)買い取り電力の範囲
 ドイツの全量買い取りに対し、経産省案では“余剰電力のみ”を買い取る案となっています。1日の発電量のイメージ図を見ながら説明しましょう。
今回の案はあくまで余剰電力のみを2倍で買い取るという形になっています。つまり図の(B)緑の部分のみです。(A)黄色の部分は売ることはできず、自家消費に回すしかない訳です。この場合、余剰電力が多い人にはメリットが大きいですが、自家消費が大きく余剰電力が少ない場合は、ほとんど恩恵を受けられないということになります。

 首都圏など土地が狭く屋根面積も比較的小さい地域では、1.5kW~2kW前後の小出力の設備も少なくありません。それらは出力が小さいため余剰電力も少なくなります。しかも出力が小さいと設置コストも割高です。つまり「小さな家ほど損」という訳ですが、余剰電力のみの買い取りだと、その不公平感がさらに強まることになります。

 小出力の設備の場合、「1kWあたりの設置価格が70万円以下」という現在の補助金の条件からも外れる可能性が高く、助成金難民といった状況にさえなりかねません。
日本の新制度(経産省案)との比較検討
価格推移、対象事業者、費用負担者
(4)買い取り価格の推移
 買い取り価格――ドイツでいうところのタリフ――は、太陽光発電の普及に合わせて、年度ごとに下がることになっています。初めに設置導入した人ほど買い取り価格を高くし(その価格が10年間続きます)、後から導入する人ほど買い取り価格が低くなることは、普及促進にとって大切なことです。次年度に買い取り価格が下がることが分かっていれば、早めの設置の動機付けになります。やはりドイツのようにどれくらい下がるかを予告する方が、さらに効果的といえるでしょう。
 今回の案では既に発電装置を設置している利用者にも買い取り価格が適用されることになっており、過去果敢にリスクを取って太陽光発電を設置した人にも恩恵が行き渡る形なので、この点は評価できます。
 ただ制度開始から3~5年までに設置する利用者が対象となっている点に関しては、少し設定期間が短いのではないかと感じます。あまり短期間に多くの需要が集中し、流通の対応ができないほどのバブル状態になった場合、後の反動も大きくなります。あくまで需要動向を見ながら場合によっては7~10年でソフトランディングするような、柔軟な対応が必要ではないでしょうか。

(5)対象となる事業者
 対象は個人・企業となっていますが、(3)のところで見たように企業の場合、ほとんど余剰電力が発生しにくいので、メリットは限定的です。そもそも企業の場合は電力料金単価が住宅用よりも安く設定されていて、その安い業務用電力料金の2倍といった価格設定では導入意欲は沸かないのではないでしょうか。やはり住宅用並の買い取り価格を適用しなければ、普及効果は少ないといえます。この部分に関してはまだこれから検討するようですし、十分議論の必要があると思います。
 また、今回の案では再生可能エネルギーのうち、太陽光発電に限定しており、他の再生可能エネルギー(風力・バイオマス・地熱など)は固定価格買取制度(FIT)の対象になっていません。FITは自由度の高い制度ですので、エネルギーの種類によって買い取り価格(タリフ)を変えるなどなんらかの対策を検討していただきたいものです。

(6)費用の負担は誰が?
 買い取り価格が高くなる分は、広く浅く全国の電気利用者が負担する形となっています。その結果、1カ月の電気代が一般家庭で数10円から100円程度上がると想定しています。
 買い取り価格がドイツほど高くなく、また余剰電力のみの買い取りであるため、利用者への負担は最小限に抑えられています。
 確かにこれぐらいの金額ならば比較的負担感は少ないと思いますが、たとえ少ない額でも電力料金に上乗せするのですから、経費の透明性を高め、投資が無駄にならないよう監視することが絶対に必要です。またそもそもの制度説明を十分に行い、国民の合意を得る努力も必要です(地球環境イニシアティブ「やるぞ!日本!Yes100円」など、 NGO団体らによる活動も始まっています)。




 ドイツが大胆な固定価格買取制度(FIT)を導入して再生可能エネルギーの爆発的な普及を図ったのは、1に経済・雇用対策、2にエネルギー保障が目的でした。1、2の達成を目指して太陽光発電が普及すれば、温暖化対策にも自動的に貢献します。

 環境と経済は相容れないというのは幻想に過ぎず、完全に両立することがドイツの例で証明されたのです。しかも、今この新しい産業分野で世界的な遅れを取ることは、今後数十年に渡る数十兆円という大きなビジネスチャンスをみすみす逃すことになります。

 今回経産省が思い切った方針変更をしたのも、このことが分かったうえでの判断だと思います。それならば、中途半端な政策ではなく、本当に日本がこの分野でトップを走る環境を整えるような、日本独自の政策を立てるべきでしょう。

 もちろんそれが固定価格買取制度(FIT)である必要はなく、効果のある制度なら何でもよい訳です。しかしながら現在の世界の情勢、各国の実績を見て判断すれば、固定価格買取制度(FIT)が最も費用対効果が高いことは明白です。

 底の見えない不況から一刻も早く脱出するためにも、即効性のある制度をスピーディに導入することが望まれます。




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