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http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20090213/131849/ 革新的な大規模太陽エネルギー発電プロジェクト。近い将来、家庭へ電力を
供給するかもしれない。
米国ではこの20年、太陽エネルギーを利用する大規模発電の市場は暗闇に包
まれていた。しかし近い将来、この暗闇に光が差す可能性がある。10を超える
新興企業が、米国南西部の広大な砂漠で、それぞれの太陽発電プロジェクトを
計画しているのだ。各プロジェクトを合わせれば、発電規模は少なくとも5ギ
ガワットに達する。125万世帯以上に電力を供給できる量だ。
カリフォルニア州は再生可能エネルギーの利用割合に関する基準が厳しく、
電力会社は来年までに発電量の20%を再生可能なエネルギー源で賄わなければ
ならない。さらに、太陽エネルギー関連のプロジェクトに投資すると30%の税
額控除を受けられる制度が、最近になって延長された。太陽エネルギー関連の
企業がプロジェクトを進めやすくなったというわけだ。
しかし、現在計画中のプロジェクトが利用しようとしている新技術は、信頼
性や発電コストについて、いまだ十分に実証されていないものが多い。電力会
社に供給する規模のプロジェクトでは、メガワット単位で発電を行う。住宅の
屋根や会社の屋上でキロワット単位の発電をすればいいソーラーパネルとはわ
けが違う。
こうした新プロジェクトは、税額控除をはじめとする優遇措置を活用し、基
準となるガスタービン発電にできるだけ近いコストで電力を生む必要がある。
ガスタービンでは、1キロワット時当たり15セント以下で発電できる。
プロジェクトに取り組む新興企業は、さまざまな設計を採用している。膨大
な数の太陽電池で太陽エネルギーを直接電力に変える企業もあれば、鏡で光を
1点に集めて水を沸騰させ、その蒸気で従来のタービンを動かす集光型太陽熱
発電を行う企業もある。各社とも、電力会社が利用する新しい大規模太陽エネ
ルギー発電の標準方式の立場を獲得しようと、しのぎを削っている。
しかし、電力会社は新興企業への金銭的な援助を意図的に抑えている。技術
的な主導権を互いに争わせることが狙いだ。「技術的なリーダーの座を懸け、
激しい競争が起きている現状を、電力会社は分かっている」と、米 Bright
Source Energyの最高財務責任者(CFO)Jack Jenkins-Stark氏は言う。同社
はカリフォルニアの砂漠で900メガワット規模の発電を目指している。「誰が
リーダーになるか、まだ不透明なことも、彼らは分かっている」
カリフォルニアの電力会社Southern California EdisonとPacific Gas and
Electric(PG&E)は、新興企業との間に、プロジェクトが資金を調達して成功
したときに、作られた電力の大部分を購入するという契約を結んでいる。太陽
エネルギー関連の投資に対する税額控除が2008年10月に延長されたため、電
力会社はこの制度を利用することもできる。しかし、両社とも資金調達は新興
企業に任せている。プロジェクトに必要な資金は数十億ドルに達する可能性が
ある。
「多様化が重要だ。1つの技術だけに執着したくない」とPG&Eの広報担当
Jennifer Zerwer氏は言う。
技術はまさに多様だ。各社が独自のシステムを開発している。
カリフォルニア州サンノゼのSunPowerは、ラスベガスにほど近いネリス空
軍基地で、米国最大の太陽光発電施設を稼働させている。設備は住宅の屋根で
使っているものと同じ太陽電池から成り、14メガワットを発電できる。同社に
よると、この太陽電池は太陽エネルギーの22%を電力に変えることができると
いう。SunPowerは、カリフォルニア州サンルイスオビスポ郡に250メガワッ
ト規模の発電所を計画している。農場だった1900エーカー(約770ヘクター
ル)の土地に 80万枚のソーラーパネルを広げる計画だ。
Southern California Edisonは米First Solarが開発した薄膜のパネルを多く
の商業施設の屋上に設置し、全体で250メガワット規模となる発電システムを
作ろうとしている。薄膜技術のおかげで高価なシリコンを必要とせず、安価な
ソーラーパネルを製造できる。ただし、薄膜は発電の効率が悪く、最高の技術
でも太陽エネルギーの10%しか電力に変換できない。狙いは、既存の建物の使
われていない屋上を利用し、電力の使用者の近くで発電することだ。こうすれ
ば、遠隔地で発電する場合の大きな障害となる送電線新規敷設が不要になる。
このほか、太陽エネルギーを1点に集めて蒸気を作り出し、その蒸気で発電
機を動かして電流を生む方法もある。この技術は今でこそ多様化しているが、
いずれも20年前にカリフォルニア州のハーパーレイクに作られた発電所に起源
を持つ。発電所はイスラエルのLuzが建設したもので、太陽エネルギーを利用
した世界初の大規模発電所だったが、この会社は倒産してしまった。
Luzは1990年に350メガワット規模の発電システムを完成させた。しかし
ちょうどその頃、プロジェクトに競争力を与えてくれていた固定資産税の優遇
措置が終了に近づき、化石燃料の価格が下がっていった。システムの設計は、
湾曲した鏡をずらりと並べ、前を横切るパイプに光を集め、パイプの中の油を
加熱するというものだった。この油が水を沸騰させ、その蒸気で発電機を動か
した。
17年後、スペインのAcciona Energiaが2億6000万ドルを投じ、64メガワ
ット規模の発電所Nevada Solar Oneを完成させた。米国に大規模な集光型の
発電所が作られたのは、Luz以来のことだった。AccionaのシステムはLuzの
ものとよく似ている。しかし、1970年代の後半にLuzを立ち上げたArnold
Goldman氏は、2004年にBrightSource Energyを設立し、今度はタワー式の
設計を採用した。
BrightSourceはカリフォルニア州バーストーに最初の発電所を作ろうとし
ている。9万枚の鏡を円形に配置し、太陽の光を中央のタワーに集める仕組み
だ。タワーの上部には、ドイツのSiemens製の100メガワットの蒸気発電機が
ある。同社のJenkins-Stark氏によると、タワー式のシステムは蒸気を摂氏
500度まで加熱でき、300度までしか加熱できない Luzの方式より効率がい
いという。
米eSolarもBrightSourceのものに似たタワー式の集光システムを開発して
いる。ただし、こちらは46メガワットと規模が小さい。eSolarのシステムは
数百メートル四方のモジュールからなり、都市近郊の小さな空地にも設置でき
るため、容量の小さな送電線にたよって遠距離から送電せずにすむ。上級副社
長のRob Rogan氏は、安価なモジュール方式の設計のほうが投資家を引き付け
られるとも期待する。「実証されていない技術を用いる数百万ドルのプロジェ
クトに投資したいと思う人は限られている」と同氏は話す。
これらの新興企業はまだプロジェクトに着手していない。ただし、いくつか
の建設が2010年に始まる可能性はある。新興企業も、その電力を購入するカ
リフォルニアの電力会社も、プロジェクトに掛かる費用を明かそうとしない。
資金の問題だけでなく、プロジェクト企業は、作った電力をカリフォルニアの
都市部に運ぶ方法も考えなければならない。米連邦議会で議論されている景気
刺激策に、高電圧の送電線の予算110億ドルが盛り込まれる可能性がある。今
は、皆がその詳細を心待ちにしているところだ。