出典:http://eetimes.jp/article/22694/
図1 産業技術総合研究所が開発した色素増感太陽電池パネルと新材料
(a)色素となるMK-2分子の上下に伸びるアルキル鎖が電子寿命を延ばすため、
取り出せる電流を増やすことができた。(b)セルの寸法は12cm×10cm、電極
部分が、10cm×8cmである。(c)MPImIから成るイオン性液体は粘性が低く、
電子の移動を妨げない。
産業技術総合研究所は、材料コストを下げるために太陽光を受光する色素を
変更し、寿命を延ばすために電解液をイオン性液体とした色素増感太陽電池を
開発した(図1)。効率は7.6%(5mm角のセル)である。
色素増感方式では、色素が可視光を吸収し、電子をTiO2(二酸化チタン)に
受け渡すことで起電力が発生する。効率に優れるSi(シリコン)太陽電池とは
異なる優位点がある。色素を変えることで吸収する波長特性を変更できること、
低温で製造でき、さらに塗布製造プロセスを採り得ること*1)、デザイン性に
優れること、などである。
現在の色素増感方式は、発明者であるMichael Grätzel氏が用いた材料に沿
った開発が進んでいる。すなわち、Ru(ルテニウム)錯体を色素として用い、
電子を失った色素に電子を受け渡すために、I−(ヨウ化物イオン)を溶かした
アセトニトリルを電解液として用いる場合が多い。
I−は色素に電子を渡してI3−(三ヨウ化物イオン)に変化する。セル全体が、
TCO(Transparent Conducting Oxide)陰極とPt/TCO陽極にはさまれた構造を
採り、TiO2粒子は陰極側から電解液側に飛び出すナノポーラス構造を成して
いる。
「太陽電池で求められる特性は、効率、耐久性、コスト*2)の3つである。
今回材料を変えることで、耐久性が高まり、コストが下がった」(産業技術総
合研究所 太陽光発電研究チーム有機新材料チームで研究員を務める原浩二郎
氏)。一般に色素に使われているRu錯体は貴金属のRuを含むため、カルバゾー
ル色素の1つである「MK-2」とI−の組み合わせに置き換えた。
MK-2を選んだ理由は、電子の再結合が起こりにくいためだとした。従来研究
されていた有機物「クマリン色素」では、可視光により励起された電子が、
TiO2中を伝わるうちにI3−と再結合してしまうため、Ru錯体に比べて電子寿命
が1/10に減っていたという。寿命と電子密度によって取り出せる電流量が決ま
るため、クマリン色素では取り出せる電流が少ないという問題があった。MK-2
は、4本のアルキル鎖によって、分子自体がTiO2上に整列するため、電子の再
結合が起こりにくいという。MK-2とアセトニトリルの組み合わせでは8.3%
(5mm角)の効率を達成できている。これはRu錯体とアセトニトリルの組み合
わせ(9.2%)に近い値だ。
次に、電解液を変更した。アセトニトリルは揮発性が高く、60〜100℃に達
することがある太陽電池には不利である。このため、「太陽電池の寿命が100
時間程度に短くなる」(同氏)。さらに物質自体が毒物及び劇物取締法の劇物
に指定されていることなど、必ずしも電解質として最適な材料ではない。そこ
で、イオン性液体を用い、寿命を2000時間に伸ばしたという。ただし、一般に
イオン性液体は粘性が高いため、電子が移動しにくい。そこで、イオン性液体
の中でも粘性が低い「MPImI」(イミダゾリウムヨウ化物)を選んだという。
冒頭に挙げた効率7.6%はMK-2とMPImIを組み合わせた場合である*3)。
【注釈】
*1)製造コストをさらに引き下げるため、全塗布製造プロセスを可能とする
擬固体電解質も開発した。ゲル化剤と併せてイオン性液体を擬固体化した場合
の効率は5.5%である。
*2)産業技術総合研究所は、2008年3月、効率11%の色素増感太陽電池を発表
した。「ただし、効率を高めるためにタンデム構造を採っており、色素増感の
コストの1/2を占めるTCO電極の数が倍増してしまう」(原氏)。
*3)Ru錯体とMPImIを組み合わせた場合、6.2 %まで効率が落ちる。
0 件のコメント:
コメントを投稿