2008年5月19日月曜日

湾岸産油国がクリーンエネルギー開発に力を入れ始めた

http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20080514/156616/
2008年5月19日 月曜日 田中 保春
ひと昔前なら想像できなかったことだが、近年、湾岸産油国が代替エネルギーへの関心を強め、開発・投資が相次いでいる。グローバルな環境意識の高まりや、国の持続的発展をにらんだエネルギー保障の観点から、「単品経営」からの脱却を図ろうとしているのだろう。アラブ首長国連邦(UAE)のように、国家として戦略的に取り組む国も出ている。世界最大の原油確認埋蔵量を保有するサウジアラビアも、地球環境問題、国内のエネルギー問題など諸般の理由から代替エネルギー活用に向けての新たな模索が始まっている。
●グローバルな環境政策との強調
 2006年にサウジアラビアは、「石油は『特定の先進国により選択された』環境政策の被害者」になるかもしれないとの懸念を表明し、クリーンエネルギーと経済発展のバランスが必要だとの声明を出した。 原油収入に大きく依存するサウジアラビアにとって、先進国の環境政策がサウジアラビアの持続的な経済成長に悪い影響を及ぼす懸念があり、先進国との協調が必要になっているのだ。 また、持続的な国の成長にとって、自国のエネルギー保障は非常に重要な課題であり、それはエネルギー資源が豊富な湾岸産油国といえど同じである。人口増加率の高い湾岸産油国では電力供給が今後さらに必要だ。また自国民の雇用機会創出のためにも、国内のエネルギー資源は次世代の財産として効果的に活用していく必要がある。 最近のように需給のファンダメンタル(基礎的条件)を超えて原油価格が高騰している状況では、原油を増産したからといって必ずしも価格が下がるとは言えない。よって、代替エネルギーを最大限に活用し、エネルギー源の選択肢を増やすことが必要になってきている。 また、湾岸産油国にはクリーンエネルギーを生み出す「未利用資源」が豊富にある。アラビア半島は、日照時間が長く、太陽放射線も非常に強い。また、風の強い海岸地帯も多い。自然条件から言うと、代替エネルギー資源は非常に豊富なのである。従来は砂塵(じん)などで発電効率が低かった太陽光発電も、技術革新により発電効率が向上してコストも下がっている一方、石油やガスによる発電コストは上がっているため、代替エネルギーによる発電の経済性が上がっている。 長期的な国家戦略をにらんだ、電力政策の視点もある。湾岸産油国の電気料金はこれまで極めて安価だったが、これは将来にわたって保障されるわけではない。その時のためにも、エネルギー多様化は不可欠だからだ。
●国家的プロジェクトや新規の投資が活発化
アラブ首長国連邦(UAE)は、太陽エネルギーの活用と実際の具体化という点では、湾岸産油国の中で最も進んでいる。よく知られているのが、アブダビ国際空港近郊に建設予定のゼロ炭素グリーン・シティー、都市を開発推進しているアブダビのムバダラ開発の子会社であるアブダビ・フューチャー・エナジー(マスダールMasdar)だ。 そのほか、アブダビでは2007年10月にシール・バニー・ヤース島(Sir Bani Yas Island)に湾岸産油国で最初の風力発電プラントを建設した。この実証結果次第で、ダルマ島(Dalma Island)などにも風力発電プラントをさらに建設する計画を立てている。 また、マスダールは3.5億ドル規模の太陽光発電プラント(500メガワット)を建設し、2009年の操業開始を予定している。今年3月にはスペインのエンジニアリング会社セネルグループとの合弁による集光型太陽熱発電事業を公表している。総額8億ユーロを投じ、スペイン国内3カ所での発電事業を計画中だ。 ドバイでは、ドバイ水電力庁(DEWA)が、総額10億ドル規模の風力発電ファームの研究をしており、ドバイのエネルギー需要の10%を風力エネルギーで賄うことを目指している。実際、太陽エネルギーの実用化ではドバイが先行しており、アパート冷房やホテルの給湯システムに既に活用されている。 今年4月には、ドバイの投資会社が国内外の代替エネルギー企業への投資にも乗り出している。ちなみに、UAEではフジャイラでも風力発電プラント建設が計画されている様子だ。 カタール政府でも、「カタール・エネルギー都市」と総称し環境負荷の少ない都市づくりを推進している。バハレーンに建設中の2棟建てのバハレーン世界貿易センター(Bahrain World Trade Center)では風力発電のための風車が装備されており、外観も非常にユニークだ。3基の風力タービンで、同センターの電力需要の約11~15%を賄う計画である。 このように開発・投資は相次いでいるものの、実用化はまだ道半ばである。国際エネルギー機関(IEA)の国別統計(2005年)を調べてみると、数字上では湾岸産油諸国において代替エネルギーが積極的に活用されている様子は見られない。サウジアラビアでは、砂漠、山岳地など遠隔地で交通信号や照明などに太陽光発電が活用されているものの、全体からするとほとんどゼロに近いレベルである。しかし、UAEでの積極的な開発状況から考えても、いずれはクリーンエネルギーの「活躍」が徐々に数字上も見えてくることだろう。


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