2008年5月14日水曜日

「米国経済を救うのは環境技術バブル」富豪投資家の主張

http://wiredvision.jp/news/200805/2008051423.html2008年5月14日
「米国の金融システムは混乱状態にある。世界市場も同じような状態だ……。一体何が起こっているのか? われわれはこの混乱から抜け出せるのか? その手立ては? 将来、われわれの子どもたちは洞窟で暮らすことになるのだろうか?」『New Yorker』誌が主催するカンファレンス『Stories From the Near Future』(近未来の物語)で8日(米国時間)、同誌の記者Nick Paumgarten氏は、痛ましいほどに当を得たこれらの質問を、資産運用会社の米Fortress Investment Group社の社長、Michael Novogratz氏に投げかけた。Novogratz氏は、『Forbes』誌が発表する「米国の資産家400人」で、317位にランクインする富豪だ。だが、これらの問いに、Novogratz氏は楽観的な見解を示した――老いた後で、水の奪い合いが起きる世界に暮らしたくない人々を大いに安心させる見解だ。Novogratz氏によれば、現在の景気後退はドットコムバブルの崩壊に似ているという。世紀の変わり目にインターネットを襲った経済危機は、第2世代のウェブサービスが台頭したことで解消された。そして今、Novogratz氏が称するところの「グローバリゼーション1.0」は停滞状態に陥っているが、これは、途上国で新たに誕生した中流階級層において初期の購買力が飽和したからであり、今後「グローバリゼーション2.0」の到来によって回復し、すべてはうまくいくという。ただし、それには1つ条件がある。今いちど、富を生み出す経済バブルが起きることが必要なのだ。そしてそれは、新たなエネルギー源や環境関連技術の分野から起きるはずで、それ以外にはあり得ない、とNovogratz氏は主張する。「石油価格が高騰する今、必要なのはグリーンな革命だ。米国経済の次の牽引役は何か。それは環境関連技術だと私は思う。この分野には巨大な成長のチャンスがある。環境汚染を解決するからではない。それがエネルギーに関連する技術だからだ。ガソリンは今後、1ガロンあたり10ドルにまで値上がりするだろう」とNovogratz氏は語った。私は講演を終えたNovogratz氏を探した。Novogratz氏は、チケットが1人2000ドルもするカンファレンスの出席者たちに取り囲まれ、米ドルはこれからどうなるのか、何に投資をすればいいのか、という質問を受けていた(最初の質問に対する答えは私には難しくて分からなかったが、後者の質問に対しては、Novogratz氏はブラジル経済に強い期待を示していた)。経済的な自己利益の追求と、汚染による影響との間に、Novogratz氏がどのような線引きをしているのか興味があった私は、気候変動が経済にもたらす影響についてNovogratz氏に見解を求めた。Novogratz氏は非常に楽観的に考えているようだった。気候変動は予測のつかないものだが、おそらく今後10年間は特に影響はないだろうと同氏は答え、さらに言葉を続けた。「30年、40年、50年の間には、人々を不安にさせるような出来事が起こるかもしれない。しかし、気候変動に直接結び付けられるような、これまでにない出来事が起こらない限り」、気候変動が経済的要因となることはないだろう、と。紛うかたなき富裕層に属するNovogratz氏と、科学ジャーナリストである私との違い、と言ってしまえばそれまでだが、それにしてもこの見解は少し鷹揚にすぎるのではないだろうか。Novogratz氏は、最悪のシナリオが実現することはないと考えているわけだが、実際には、もっと短期的な予測ですら、人々を不安にさせるに十分なものだ。『気候変動に関する政府間パネル』(IPCC)は最新の報告書(PDFファイル)の中で、地球の温度がわずかでも上昇すれば、何億もの人々が水不足に陥るほか、農作物の収穫高に影響する干ばつ、洪水や暴風雨による被害の増加や、自給自足の農民や漁民への局地的な「悪影響」が発生したり、さらには疾病の増加が起こる可能性があると警告している。(また別の見方をするならば、現在の食糧危機は、実際には食料が不足していないにもかかわらず発生している(日本語版記事)。この状況に、広範囲にわたる干ばつや洪水の季節が加われば、事態は急速に悪化する。)短期的な予測でさえもこうなのだ。長期的な予測は、それよりはるかに恐ろしい――そして、裕福な人々がそれほど裕福でいられる理由の一端は、彼らが数十年先のことまで考えているところにある。そういった人々が環境関連技術を、温室効果ガスによる汚染を削減するためのものではなく、経済的利益を最大限に上げるためのものとして見ることは、誤った二項対立を生み出す。つまり、経済的利益は環境汚染と深く結びつき、利益と環境保全は絶対に相容れないという二項対立だ。今はそうではなくても、将来的には確実にそうなる。そしてその将来は、思ったよりも早く訪れるかもしれない。筆者注記:Novogratz氏は、石油価格の高騰で深刻化する現在のエネルギー危機について、「これに対する政治家の正しい対応は、『慣れよ』と言うことだ」と述べている。Novogratz氏は特に、Hillary Clinton上院議員などが支持する「ガソリン税の一時徴収凍結」[車の利用が多い夏季にガソリン税の徴収を控えるという減税案]を厳しく批判しており、「これまで聞いた中で最もばかげた考えだ」と酷評している。注記その2:環境と経済の問題についてさらに関心のある人に、エンジェル投資家Eric Janszen氏のインタビュー記事(日本語版記事)『「環境技術を軸に経済の再編成を」著名投資家インタビュー』をご紹介する。Janszen氏もまた、環境関連技術だけが米国経済を救えると考えている。[日本語版:ガリレオ-向井朋子/合原弘子]WIRED NEWS 原文(English)


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