2009年2月4日水曜日

東芝の発表した太陽電池戦略、3つの点で要注目


出典:http://www.toyokeizai.net/business/strategy/detail/AC/03e13f53968dfa7d6fd8cbf7a5ec6751/
 東芝が、電力・産業用の太陽光発電システム事業を2015年度に売上高約
2000億円規模へ育成する中長期計画を公表したことで、株式市場でも注目
を集めている。

 前08年3月期時点ですでに売上高8兆円弱に達している東芝にとって、7
年後に約2000億円という事業規模そのものはさほど大きいとはいえない。
だが、「東洋経済オンライン」では、今回の東芝の太陽電池戦略は3つの点で
評価できると考える。第1には東芝そのものにとって。第2には重電セクター
にとって。そして第3は「日の丸ソーラー勢」全体にとって、である。

 第1の東芝にとっては、太陽電池分野への取り組み姿勢を明確としたことが
評価できる。近年の東芝は原子力発電に傾注してきた。「買収前は国内向けに
重点を置いていたが、それでは生き残りが難しいと考え、買収に踏み切った」
(西田厚聰・東芝社長)として、06年には米国ウェスチングハウス・エレク
トリックを傘下に収め、NAND型フラッシュメモリとともに原子力発電を
「戦略的集中投資」の対象と位置づけてきたのである。その一方、二酸化炭素
排出量低減のための研究開発や事業展開としては、「原子力発電や火力発電向
けに経営資源を投入してきたため、太陽電池や風力発電などへは手が回らなか
った」(西田社長)という事情もある。そこへ今回、社内カンパニーである電
力流通・産業システム社に「太陽光発電システム事業推進統括部」を1月1日
付で新設し、グループ横断的に太陽電池分野を育成する方針を打ち出すことに
したのである。同分野への世界的な関心の高まり、将来性や可能性などを考え
れば納得できる動きといえるだろう。

 第2の注目点としては、重電セクターにとっての意義だ。これまで太陽電池
分野では、発電素子(セル)生産大手であるシャープ、京セラ、三洋電機とい
った家電や電子部品を手掛ける関西勢にばかり脚光が当たっていた感がある。
だが、今回の東芝の戦略は、重電各社による太陽電池分野への寄与の可能性を
あらためて注目させる契機となりうる。従来から明電舎が「発電素子は生産し
ないものの、それ以外の各種装置で太陽電池分野へ寄与する」という事業形態
を推進してきが、東芝も同様の事業形態を採用するものとみられる。

 西田社長はこう語っている。「たしかに、当社はシリコン半導体の集積回路
では世界第3位級の企業。ただし半導体集積回路の企業が必ずしもシリコン基
板系の太陽電池の生産も手掛けているわけではない。しかも、すでにシリコン
基板系の太陽電池の生産を手掛ける企業は世界に数多くあるうえ、その光電気
変換効率も約20%にまで到達している。そうした状況下で、今から東芝がシ
リコン基板系発電素子の生産を開始する必然性は小さい。むしろ、当社には、
たとえば天候の変化に発電量が左右されがちという太陽電池の短所を補いうる、
安全・長寿命な蓄電池である新型二次電池SCiBなどの技術がある。そうし
た技術で太陽電池の普及に貢献したい」。

 今後、太陽電池が住宅用のみならず産業用・電力用として活用されるととも
に、日立製作所、東芝、三菱電機、富士電機ホールディングス、明電舎という
「大手5社」をはじめ重電各社が活躍しうる各種装置の市場が拡大していくこ
とを、今回の東芝の戦略は示唆している。

 第3に、太陽電池分野に携わる日本の「日の丸ソーラー勢」全体にとっての
意義も大きい。シャープ、京セラ、三洋電機、三菱電機をはじめとする日本の
発電素子各社は、政府による導入支援策が一時途絶した05年ごろから、ドイ
ツや中国など外国勢の追い上げにより相対的な地盤沈下を余儀なくされてきた。
だが、長期にわたる高い光電気変換効率の持続などが要求される電力・産業用
の需要拡大は、信頼性にまさる日の丸ソーラー勢が巻き返す好機といえよう。
その電力・産業用へ東芝が各種装置で本格参入することは、太陽電池市場拡大
の側面支援となる。

 また、発電素子各社にとって、東芝そのものも大きな販売先となりうる。現
時点では東芝が国内外のどの企業から発電素子を調達するかは定かではない。
ただ、東芝では電力・産業用の太陽光発電システムの市場規模に関し、今08
年度は約1.2兆円であり、15年度には約2.2兆円へ拡大すると想定して
いる。その2.2兆円市場のなかで、東芝は事業規模約2000億円、つまり
市場占有率約1割獲得を目標に掲げていることになる。当然ながら、日本の発
電素子各社にとっても、東芝向けは大きな商機となりうるのだ。

 太陽電池をめぐるサプライチェーンのなかで、日本勢は原材料となる珪石・
金属シリコン・多結晶シリコンなどの「川上分野」では宿命的な弱みを持つ。
だが、一方で発電素子や直交変換装置などの「川下分野」における技術的蓄積
は世界首位級だ。今回の東芝の電力・産業用の太陽電池戦略は、そうした日の
丸ソーラー勢の川下分野における強みに、さらなる厚みを加えうる動きといえ
るだろう。




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