http://www.blwisdom.com/pr/isemi/64/
東京大学 生産技術研究所教授 山本 良一 氏
産業革命期以前に比べ、地球の平均気温が+1.5℃で、多くの生物種で絶滅が危惧され、地域により大雨、干ばつが極端に増加。+2.0℃では海水面の上昇で沿岸地域2600万人が住む場所を失い、日本でもマラリア流行が懸念、食糧不足が深刻となる・・・日本が誇る世界最速レベルのスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」が予測した+1.5℃到達は2016年。目前に迫っている地球温暖化の影響に対し、今すぐにでも企業と私たちが始めなければならない取組み、サステナブル(持続可能)な社会づくりについてお話いたします。
はじめに
ご紹介いただきました、東大の山本でございます。こういう機会を与えていただきまして大変ありがとうございます。きょう私がお話したいのは気候変動の問題でございまして、通常考えられているより危機が大変間近に迫っているのではないか、この問題を解決するのはやはり技術革新、とくに環境技術革新に頼るほかはないのではないか、ということを申し上げてみたいわけでございます。
まず20世紀後半はどういう時代であったかを振り返ってみたいわけでありますが、ご存じのように人口が激増したと。1950年25億2千万が、2000年には60億8千万と2.4倍に増えたわけであります。しかし、人口の成長率は若干減少してるわけでありますが、このまま行くと2050年にはだいたい90億ぐらいの人口が予想されております。すでに65億を突破して、1秒間に2.3人ずつ人口が増えるという、大変恐ろしい時代をわれわれは生きているわけでありまして、きょう1日でも20万人人口が増えるわけです。1年で7600万ぐらいの人口がいま増えているわけです。人口が増えるということは、当然大量の資源エネルギー、食料が消費される。あるいは土地が使用されるということを意味するわけであります。
20世紀後半はどのように資源エネルギーが大量に消費されたか?このデータを見ますと、石油は1950年に対して2000年時点での石油消費は7.27倍に増え、天然ガスは14.54倍、石炭は3.64倍、発電容量は21倍に増えているわけです。そのほかの鉱物、天然資源も人口成長率を大きく上回って伸びていると。すなわち、一部の人々が大変物質的に豊かになっていると。ところが、全世界的に見ますと、貧困の問題は解決されていない。
同時に、環境がいまきわめて劣化しているわけであります。今年アメリカ商務省の政策局の推計によりますと、日本時間2006年2月26日9時19分に世界人口が65億を突破したと。さらに中国、インド等の急激な経済成長のためにアジアに新たに豊かな中流層が出現している。野村シンガポールの推計によりますと、日本を除いて2009年までに4億人の中流層が出現すると。それぞれ年間可処分所得が3千ドルということを考えますと、日本円にしてなんと120兆円の新たなマーケットがアジアに出現すると。これら中流層の人々が豊かな国と同じように高額な家電製品、あるいはバイク、ローンで住宅、自動車等の購入に走れば、これが与える環境へのインパクトはきわめて大きくなる。したがって、先進国だけではなくて、アジア太平洋のあらゆる国でエコイノベーション--環境技術革新、あるいは環境に配慮した製品・サービスの普及が急務となっていると考えられるわけであります。
『タイム』という雑誌がございますが、『タイム』は4月に特集号を組んだわけです。これは地球温暖化問題の特集号でありまして、それになんと書いてあるかというと、"Be Worried, Be Very Worried"と書いてあるわけです。これは「心配だ、大変心配だ」という意味ですが、何が心配かと言いますかと、このアジアの巨人の環境影響が今後巨大になるということを懸念しているわけです。
言うまでもなく、アメリカをはじめ、ヨーロッパ、日本の経済は大変なサイズになって、先進国の環境に及ぼす影響もすでに巨大なわけですが、このアジアの急激な経済成長によって、その環境影響が今後巨大になると。たとえばインドの温暖化効果ガスの排出量は2025年までに70%増えてしまう。中国の温暖化効果ガスの排出量の、今後25年間の増加分はすべての工業国の増加分とほぼ同じになるであろうと。中国の2050年までの電力需要は2600ギガワット、これは今後45年間にわたって毎週300メガワットの発電プラントを建設し続けていくことに相当する。これは大変な状況にいまわれわれが直面しているということを意味します。
いろいろな推計によりますと、中国の温暖化効果ガスの排出量はおそらく数年以内にアメリカを抜くであろうと。インドがそれに続くであろうというふうに考えられているわけでありまして、現在、京都議定書をどう目標を達成するかで議論が盛んでございますが、アジアの巨人を除いて、地球温暖化の問題の解決はとうていあり得ないということは自明でございます。
さて、地球温暖化の問題でございますが、これに関しては、国際的には三つの基本的認識がいま広く受入れられております。もちろんいろいろな問題はまだ残っております。第一番目、地球温暖化が急速に進行している。二番目、少なくともこの30年間の地球温暖化の主な原因は人間起源であると。すなわち、温暖化効果ガスの排出であり、森林伐採等の地球の表面の改変によると。三番目、この温暖化の進行によってマイナスのインパクトが大きくなると考えられておりまして、産業革命以前に比べて、平均表面温度は1.5℃を突破すれば、大量の生物種が絶滅しかねない。2050年までに100万種類の生物が絶滅すると考えられているわけです。さらに2℃を突破する事態になれば、数十億の人間、人口が様々な気候リスクにさらされる。つまり犠牲になるかもしれない。この三つがいま世界の共通の認識になりつつあるわけです。
これをサポートする様々なレポートが公表されております。2001年にIPCCの「第三次レポート」がございましたが、2004年には「北極圏の気候影響評価」、さらには私どもが昨年まとめた「サステナビリティの科学的基礎に関する調査」、それから今年イギリスで出版されました「危険な気候変動を回避する」というレポート、さらに4月には米国の議会に対する「温暖化レポート」がアメリカで刊行されておりますし、アメリカのナショナルアカデミーからも「過去2000年間の地球表面温度の再構成」ということで報告書が出ております。近々には先月イギリスから「スターンレポート」というレポートが公表されまして、「温暖化の経済学」ということで、このままわれわれが温暖化の問題を放置すれば、世界のGDPの20%の経済的な損失が予想される。いま直ちに取り組めば、世界のGDPの1%で対策コストは済むという、そういうレポートが出ているわけでございます。
さて、この地球温暖化の問題は大変複雑な問題でございまして、様々な疑問がございます。その様々な疑問に対して、一つひとつ科学者が回答した、そういうレポートも出ております。したがって、私は総括しますと、現在の科学的知見では急激な温暖化が起きていることはまぎれもない事実であると。この証拠は後で皆さまにご紹介したいと思います。そういうことで、様々な人為的な地球温暖化の進行を認めて、それを憂慮する声明が続々と出されております。たとえば京都議定書を離脱した米国のお膝元から、たとえばナショナルアカデミー・オブ・サイエンスとか、ジ・アメリカンメテオロジカル・ソサイエティ--これはアメリカの気象学会です。そういう学会から地球温暖化が急速に進行しているということを憂慮する声明が出ていると。
さらに昨年12月にはアメリカの25名の著名なエコノミストがブッシュ大統領に書簡を送って、京都議定書への復帰を求めたわけです。その25名のうちに3名のノーベル経済学賞を受賞したエコノミストがいたと。今年に入りまして、86名のキリスト教指導者がやはりブッシュ大統領に書簡を送って、早急な地球温暖化対策を求めたと。昨年6月には日本を含めて、主要11ヶ国の学術会議の会長の連名による共同声明が出されております。とくに有名な声明は2004年2月18日に60名を超えるアメリカの指導的な科学者、医学者が現在のブッシュ政権による地球温暖化政策など、政策形成において科学的な知見が十分反映されていない、歪曲されている、あるいは誤って用いられていることを憂慮する声明を出したわけです。
私が注目しておりますのは、この2年間にこの声明に署名したアメリカの科学者の数は今年の8月時点でなんと9千名を超えたわけです。この9千名の科学者のうちには49名のノーベル賞受賞者が含まれている。ということで、この現在のブッシュ政権の科学的な知見を十分踏まえない地球温暖化対策は科学者から完全に拒否されていると、私は断ぜざるを得ないわけであります。
人間活動が原因の地球温暖化が起こっている
そこで人間活動が原因の地球温暖化が起っていると。過去1千年間の空気中の炭酸ガス濃度の増加を表わしているグラフを見ると、19世紀、20世紀に急速に地球の表面温度が上昇していると見えるわけであります。
ところが、これは2001年に公表されたものでありますが、その後大論争が巻き起こりました。それはなぜかと言いますと、このデータの、とくに過去800年間のデータの分析の仕方に問題があると。それに対してアメリカはナショナルアカデミーの中に特別委員会を設置しまして、独立の委員会でコトの真偽を確かめようということで、その最終報告書が今年の6月に公表されたわけです。これは独立した研究グループの結果をまとめてプロットしているわけですが、過去1100年間の地球の表面温度に関する研究の成果を分析しますと、少なくとも過去400年間の気温変化については、これは非常に確信を持って現在の地球の平均温度は一番高いということが断言できると。
ところが、過去1100年間について言うと、過去においては観測データが十分ございませんので、すべてこれは再現データと言いますか、科学的な根拠にもとづいて推測したデータでございますので、研究グループによって若干差があると。だいたい9世紀から10世紀にかけて、とくにヨーロッパでは若干温暖な時代を迎えたと。さらに400~500年前は若干寒冷な時代が、とくにヨーロッパであったということは、これはグラフを見ても明らかでございます。2001年にIPCCのレポートで公表されたような、真っ平らな、一方的な寒冷化というデータではないと。これが今回の米国ナショナルアカデミーの結論でございます。
さて、大気の総重量は簡単に計算できまして5282兆トンです。炭酸ガスが体積分立で100万分の1、すなわち1ppm増加すると、いったいどのくらいの重量になるかは簡単に計算できます。すなわちCO2が1ppm増えたとしますと、その重量は大気の総重量に炭酸ガスの分子量44、空気の平均分子量29で割ったものを掛けて、それに10の-6乗を掛ければいい。答は80億トンになるわけです。ですから炭酸ガスが1ppm増えるということは、空気中に80億トンの炭酸ガスが溜まっていることを意味するわけです。そうしますと、産業革命以降、大気中に余分に蓄積した炭酸ガスの重量が計算できます。産業革命以前は280ppm、現在は380ppm、引き算しますと100ppm余分に溜まってしまったわけですね。ということは80を掛けると、なんと8千億トン余分にわれわれは空気中に炭酸ガスを溜めてしまったと。これは大変なことなわけです。
現在の状況はどうかと言いますと、NASAのハンセンのデータを使いますと、CO2の年間排出量は275億トン、1秒間に872トンが空気中に放出されている。これは体積にすると、496,000m3。ですから昼夜を置かず、毎秒毎秒872トンの炭酸ガスがいま空気中に出ていると。それで年間吸収してくれる量は、つまり海、森林が吸収してくれるわけですが、だいたい120億トン程度しか吸収してくれないわけです。そうすると、吸収されないで、空気中に残っていく炭酸ガスは排出量の約60%にいま達しつつあると。165億トンだと。80億トンで割り算しますと、CO2の濃度の年間増加率は2ppmになります。そうすると、現在388ppmですから、あと10年で空気中のCO2濃度が400ppmに到達するということになると。もちろんメタンガスとか、ほかの温暖化効果ガスがありますが、それをCO2に換算すると、だいたい100ppmというわけでありますから、あと10年でCO2換算の温暖化効果ガスの濃度は500ppmを突破するという事態を迎えると。これは容易ならざる事態であると。
炭酸ガスの問題は、とくに深刻なのは大気中に長く止まるということであります。研究者の計算によりますと、いっぺん空気中に放出した炭酸ガスを除去するメカニズムはきわめて時間を食います。その結果、いま放出した炭酸ガスが100年たっても30%大気中に残る、500年たっても15%残る、5000年たっても10%残ると予想されていますので、私たちはまさにこの5000年後の世代を見据えた環境経営、あるいはサステイナブルな経営をやっていかなければいけないということが、科学的に明らかになったわけであります。
現在の気候変動は自然変動が原因なのか、あるいは人為的な変動なのかということは、長年論争されてきたわけですが、現在では少なくともこの30年、あるいは50年をとると、人為的な温暖化効果ガスの排出がその主な原因であるということに研究の結果が収束しつつあるわけであります。とくにほぼ決定的と思われるデータが公表されているわけでありまして、それは海洋の温暖化であります。表面から1000メーターぐらい深いところまでの海水の温度の分布、その年次変化を解析しますと、人為的な温暖化が起きなければ説明することができない。したがって、この海洋の温暖化の研究から人為的な地球の温暖化が現在進行しているということはほぼ間違いがないと。これは昨年の2月のアメリカのスクリプト研究所のチム・バーネット先生たちの結果でありますが、そう結論されているわけであります。
このアメリカの研究グループの予測によりますと、アンデスの氷河は10年以内に消滅する。中国西部の氷河の3分の2は2050年までに消滅する。20年以内にアメリカの西部で大規模な水危機が発生することが予想されているわけです。したがって、スクリプト研究所のチム・バーネットのグループは京都議定書に直ちに復帰せよということを言っているわけです。これが最近50年間の温暖化のほとんどは人間活動に起因しているという、コンピュータシミュレーションによってシミュレーションをした結果であります。ただ、この地球温暖化の科学的な解明はこれからも続くわけでありまして、まだいろいろな未解明の問題があるのは事実であります。
さて、温暖化が進行しますと、様々なインパクトが生ずるわけであります。イギリスから公表された「危険な気候変動を回避する」という本を読みますと、何度上がると何が起るかということが詳細に分析されております。1.5℃が一つのポイントですが、これはグリーンランド氷床の全面融解につながって、海面水位が上がっていくと。もちろんグリーンランドの氷が全部解けきるのには1000年とか2000年必要なわけですが。それから1.5℃を突破すると、やはり100万種類以上の生物が絶滅する、2℃を突破すると、数十億の人口が気候リスクにさらされる、3℃を突破する事態になれば、これはもう気候の崩壊だというふうに考えられているわけです。
気候リスクを回避するための気候ターゲット2℃
気候ターゲット2℃と。ですから地球の表面温度の上昇を2℃以下に抑制すると。これがヨーロッパの長期政策目標でございます。それはパーリーたちの研究に拠っているわけです。たくさんの研究者が気候変動によるインパクトを研究しておりまして、それをまとめますと、気温が1.5℃から2.0℃ぐらい上昇していきますと、水不足、マラリア、飢餓、沿岸洪水にさらされる人口が急激に増大すると。2050年の時点で2℃上昇したことを考えますと、なんと29億4千万人が災難に遭うと。2050年には90億の人口ですから、そうすると人口の3分の1、3人に1人がこの気候変動の影響を受けてしまう。これは耐えられないと。したがって、温暖化の問題を真剣に考えなければいけないということに、いまなっているわけです。
このままでは気候ターゲット2℃を突破するのは必至である
しかしながら、このままでは気候ターゲット2℃を突破するのはもう必至の情勢であると。ポツダム研究所のヘアとマインスハウゼンが2004年に、今後いろんな場合を想定して計算をしているわけですが、このブルーのカーブをご覧になっていただきますと、排出量をゼロにしても、実は地球の表面温度は上がっていってしまうわけですね。それから下がっていくと。直ちにわれわれが森林の伐採をやめ、化石燃料を使うことをいっさいやめたとしても、地球の表面温度が上がっていってしまうのはなぜか?それは地球の表面に過剰な熱エネルギーが貯えられているわけです。ほとんどは海に貯えられておりまして、それが空気に伝わってくる。ですから、これからある時点を過ぎると、この2℃ターゲットをいかに抑制することが不可能になるかがわかるわけでありまして、ポイント・オブ・ノーリターン、引き返すことができない時点があると、いま言われているわけです。
気候モデルによって、同じ社会経済の発展のシナリオを仮定して計算しても、各国の研究所によって気候のモデルが少しずつちがいまして、地球の表面温度の上昇がそれぞれ若干ちがうという問題がありますので、確率的な計算が行われております。2℃突破の確率はCO2の濃度で400ppmに達すると上限値で57%と。ですからあと10年たつと、2℃を突破する確率が50%を超えるという事態になると。これが現在の気候科学が教えるところなわけであります。このデータをもとにして、世界の多くの政治家、科学者がいま大変心配を始めているわけでありまして、人類の空前絶後の政策転換をわれわれはやらなければならないのではないかと。われわれに残されている時間はあと10年もないというのは、こういう研究をもとにしているわけであります。
昨年2月、イギリスで発表された論文でございますが、ヨーロッパの研究者の研究によれば、社会経済がどのような発展をするかによって異なるわけですが、地球表面温度が産業革命以前と比べて2℃を突破するのは2026年と2060年の間であると。すなわち、早ければあと20年後に2℃を突破してしまう。つまり30億とか、数十億の人々が犠牲になる、そういう気候破局が近づいていると。そういう研究が発表されているわけです。
そういうなかで、わが国を考えますと、日本の社会ではあまり科学的な議論が活発にされていない。日本国内には、いわば地球温暖化地獄の警告派も少なければ、地球温暖化懐疑論者も日本国内では少ないわけです。これは大変まずいと。そこでこの本で、私どもは日本の研究者の一番精密な研究結果を紹介しているわけであります。これは過去50年間、将来150年間の気候のシミュレーションを行ったわけであります。これは1950年です。これは1989年、1989年というのはアメリカを熱波が襲った年であります。1998年、これは過去130年間の観測史上で二番目に暑かった年であります。一番暑かったのは実は2005年です。昨年が観測史上もっとも暑い年であった。おそらく今年は昨年を抜くかもしれないと、いま考えられているわけです。2016年になりますと、このくらい暑くなって1.5℃を突破すると。2028年には2℃を突破すると、いま予測されているわけです。2040年には2.5℃を突破、2052年には3℃を突破すると。
ということで、地球シミュレーターという、4~5年前は世界で一番高速なコンピュータであったものを用いて、もっとも精密な気候モデルで計算すると、1.5℃突破は2016年である、2℃突破は2028年ですから、それで皆さんに思い起こしていただきたいのは、ポイント・オブ・ノーリターンなのです。つまり、車はすぐに止まれないということと同じように、地球気候システムの温暖化はすぐには止まれない。すなわちタイムラグがあるわけです。巨大な熱的慣性がある。そうすると、2016年に1.5℃を突破するというのは、今年が1.5℃突破のポイント・オブ・ノーリターンかもしれないことを意味するわけです。あるいは2℃突破が2028年ということは、あと10年たつと2028年の2℃突破をわれわれが、もう回避することができなくなるということを意味するわけです。ですから、気候科学(クライメットサイエンス)をわれわれが信用するかぎり、非常に大変な気候破局というか、環境危機が間近に迫っていると考えざるを得ないということになるわけです。
急激な人口増加の一方で、他の生物種の絶滅が加速化している
人口が急激に増えているわけですが、一方、ほかの生物は絶滅に追いやられているわけです。これはだれも本当のことはわからないと思いますが、UNEP、WWF等の研究によると、10年間でほかの主要生物中1千種は個体数を40%減らしている。年間1万種類が絶滅していると計算されているわけです。これは生物学者のウイルソンがまとめた表ですが、これは20世紀に絶滅した動物、植物の集合写真、主要なものです。だからこれらの種はもうわれわれは会うことができない。ですから、生物種の大量絶滅のポイント・オブ・ノーリターンは今年かもしれないという、恐るべき事態にわれわれはいま直面しているわけです。
言うまでもなく、私たちの文明というものは様々な生物、生態系が提供するエコサービスにわれわれは支えられているわけです。ですから、温暖化をわれわれが回避できなければ、まさにわれわれの文明の基礎を突き崩すことになる。われわれは自分たちの足下を掘っていると。こういう疑いが濃厚になっているわけです。イギリスの「危険な気候変動を回避する」という本の中には、「他の生物を絶滅から守るためにはどうすればいいか。気温上昇1.5℃以下、昇温スピードは10年間で0.05℃以下にしなければいけない」ということが提唱されているわけです。
私達はポイント・オブ・ノーリターンを越えてしまったか?
われわれはもうポイント・オブ・ノーリターンを超えてしまったのではないかということをラブロック先生が言い出したわけです。「人類はもう地球温暖化の引き返すことのできない時点を通り過ぎてしまった。熱暴走が始まった。今世紀中にも数十億の人間が犠牲になる。原子力にわれわれは頼らざるを得ないのではないか」ということを今年言い出したわけです。
これは日大の水谷先生のまとめたものですが、2月には「ザリベンジ・オブ・ガイア(ガイアの復讐)」という本が出版されているわけです。もちろん、この気候シミュレーションは予測です。しかしながらその予測が当たってしまうと考えられる様々な地球温暖化を加速する要因があるわけです。たとえば北極海氷が減少しますと、太陽光線の反射が減りますから、温暖化が加速される。あるいは温暖化の進行によって、森林の葉っぱが枯れて、サバンナになり、あるいは砂漠化すると、炭素の吸収源から森林が放出源に変わってしまうと。シベリアの凍土層が解けると、そこからメタンガスが吹き出てくると。メタンガスは炭酸ガスに比べて23倍の温暖化効果を持っている。
一方、冷却効果のほうはあまり考えつかないわけです。有名な冷却効果は雲なんですね。温暖化によって水蒸気がたくさん発生して、雲がたくさん発生してくると、雲が太陽光線を反射して地球を冷却化する。ところが雲は地球を温暖化する方向にも効きます。したがって、雲が全体として地球を冷却化するのか、あるいは温暖化させるか、このへんはいま論争中のテーマでありまして、多くの研究者は全体としては若干冷却化させるのではないかというふうに考えているわけです。これはまだ研究の余地がたくさん残されているわけであります。ラブロック先生が言うように、「温暖化が温暖化をさらに加速する」というメカニズムのほうが圧倒的に多いわけです。ですから、いったん温暖化が始まってしまうと、これは熱暴走に移る可能性もある。
そういうなかでアメリカの元副大統領のゴアさんが本と映画を出版したわけです。「人類は時限爆弾の上にいる。もし全世界の科学者の言うことが正しければ、主要なカタストロフィーを避けるための時間はもう10年しかない」と言っているわけです。この「不都合な真実」という映画はすでにヨーロッパ、アメリカでは公開されて、大変好評だそうですが、日本国内では1月の20日から公開されると聞いています。実はこの本の中に衝撃的な写真が紹介されています。人工衛星から撮った夏のグリーンランドの写真で、赤で示したところが夏、グリーンランドで氷が融解している場所です。1992年から2002年、2005年というふうに急激な融解が始まっている。表面が大量に解けて、これが岩盤と氷床の間に入り込んで潤滑剤の役割を果たしていると。アメリカの研究グループの研究によりますと、これはメーン大学の研究者による人工衛星による観測ですが、グリーンランドの東海岸では氷河の流動速度が1日38m、年間14kmに達して、20年ぐらい前の3倍に達していると。すなわち氷河が川のように流れ出している。まさにこれは海面上昇に直結する事態にいまなっているわけです。 もちろん、アル・ゴアの本および映画に関しては、温暖化懐疑論者から批判が起きています。私がチェックしたかぎりでは、アル・ゴアの映画および本に対して、26点の批判が寄せられておりますが、いちいち分析しますと、私は4つの問題は批判派のほうが若干根拠があると。たとえばCO2の濃度と地球の平均表面温度との関係、ハリケーンカトリーナの問題、すなわち個々のハリケーンが地球温暖化の影響だということはアル・ゴアは言ってないわけですが、温暖化の進行に伴ってハリケーンが強大化することについては、まだ専門家の意見は二分されているわけです。まだ決着がついていない。それから侵入生物種の問題、大気正常化法の影響が2年間の間に氷床コアで観察されるかどうかは、これはまだ決着がついていませんので、ゴアさんがすこし勇み足と。4点ぐらいであります。ですからゴアの映画のほとんどの部分は科学的に真実である、あるいは十分科学的な根拠を踏まえていると言ってもよろしいかと思います。
さてそういうなかで衝撃的なニュースが9月に発表されたわけです。9月15日に、これはアメリカの「インデペンデント」だと思いますが、北極の海氷が2005年10月から2006年4月にかけて、なんと72万平方キロという、トルコの面積、あるいはアメリカのテキサス州の面積に匹敵する面積が解けて消えてしまったと。これは大変な事態なわけです。これは二つの研究にもとづいているわけですが、2004年、2005年と従来に比べて40倍融解消失が加速化している。北極海氷の全面積は530万平方キロ、それが半年間で70万平方キロ消失するということは、簡単に計算してたった8年間で北極からすべての氷が消えてしまうと--サマーシーズンですね。これは恐るべき事態にわれわれがさしかかっていると考えざるをえないわけです。
そこで2006年冬、今年の冬、また70万平方キロ消失するような事態になれば、来年の春はアラート態勢に入らざるを得ない。大変なことが起きていると考えざるをえないわけです。それでこの問題については日本の科学者とカナダの科学者の共同研究が行われて、「ネイチャー」に論文が載っております。海洋研究開発機構の島田先生たちの研究でありますが、結論は「自然変動では説明つかないと。やはり温暖化によって温められた太平洋の水が北極圏に流入して、いま北極海氷の劇的な減少が起きている」という説明がされているわけです。
皆さんにぜひご覧になっていただきたいのは、宇宙航空研究機構のホームページに掲載されている、今年の9月10日時点の北極海氷であります。真ん中に見えるのは観測機械の限界で、その部分は観測できないために穴が空いているように見えますが、あそこはたぶん白い氷で覆われている。つまり、北極点なわけですね。皆さんに見ていただきたいのは、左上にぽっかり穴が空いているところがございます、カナダ側。あれが巨大なポロニアに穴が空いちゃっている。だから、いまこの瞬間も北極海氷中に巨大なポロニアが現れて、あそこに太陽光線が差し込んで、さらに温暖化を加速しているという状況になっているわけです。
9月25日にはNASAのジェームス・ハンセンがもっとも新しい観測結果を公表しました。これは過去30年間、すなわち1975年~2005年にかけて地球の表面がいったい何度温度が上がったか?全世界平均では約0.6℃温度が上がったわけです。20世紀全体、1900年~2000年にかけて全世界の表面温度は0.6℃上がっているわけですから、まさに最近のこの30年間で温暖化は3倍に加速しているという結論が得られたわけです。
さらに驚愕すべきデータが10月に公表されました。これは京都新聞のみならず、いろんな新聞で報道されていますが、アメリカとロシアの科学者の共同研究の結果、シベリアではとくにこの4~5年、急激に表面の凍土が解けて、浅い湖が出現している。湖の面積はフランスとドイツを合わせたぐらいの面積である。場所によっては、そこからメタンガスが放出されている。メタンガスは最大58%増えているというデータです。ところが、大変ナゾがありまして、空気中のメタンガスの濃度はこの数年変化してないんですね。ですから、これはメタンガスが出ても、すぐ分解されて炭酸ガスになっているか、またほかの何かメカニズムがあるか、これは現在、鋭意研究がなされつつあるわけです。
今まで述べてきたことから、もはや一刻の猶予もならない段階にわれわれが入りつつあるというふうに考えざるをえないわけであります。昨年のG8サミットを含めて、全世界的には科学的な根拠にもとづくと、一人あたりの炭酸ガスの温暖化効果ガスの排出量を現在の5分の1から4分の1にしていかなければいけない。
日本は京都議定書とアジア太平洋パートナーシップを同盟させる坂本龍馬となれ
日本は京都議定書とアジア太平洋パートナーシップ陣営の両方に属する唯一の国家でありますから、この問題においてリーダーシップをぜひとるべきであると。
あと残すところ15分になってしまったわけですが、このサステナビリティの革新的問題はなにかということを考えますと、これは資源エネルギー環境の大量使用が問題なわけです。ですから解決策は経済発展と資源エネルギー環境の分離--ですから経済は発展させるわけですが、資源エネルギー環境の使用量を減少させる。それを分離、デカップリングと呼んでいるわけです。
どうするかと言いますと、資源の効率上げる、エネルギーの効率を上げる、環境効率を上げる、そういうトータルな資源生産性を向上させる。これが環境技術革新と呼ばれているものであります。二番目の問題は製品のサービス化が提唱されているわけです。これは製品を購入する、製品を販売するのではなくて、製品をサービスに置き換える、サービスを提供する、ソリューションを販売する。これを英語ではプロダクトサービスシステム、あるいはエコサービスと言っていますが、これをやらなければいけない。つまりサステイナブルなビジネスモデルを鋭意開発して、社会に提供してく必要がある。三番目は満足する文化、サフィシェンシーカルチャーの普及と税制、財政を全面的にグリーン化する必要がある。これが多くの研究者がこの20年間の間に考えついた解決法なわけです。
環境効率、資源生産性の飛躍的向上のための戦略につきましては、これはまさにエコデザインをやる必要があるわけです。日本経済はGDPが年間約500兆円程度。この500兆円を生み出すために資源を20億トン投入して、炭酸ガスは13億トンぐらい出して、廃棄物は4億5千万トンぐらい出しているわけです。これをどうやって私たちはグリーンなエコノミニーに変えていくか。それは経済の規模はなるべく維持しながら、資源投入を、たとえば半分に減らす、炭酸ガスの排出も半分に減らす、廃棄物の発生も半分に減らすと、そういう戦略をとればいい。
そこで研究者は効率、あるいは資源の生産性を何倍にすべきかということで、いろんな議論を展開してまいりました。答は4倍、10倍、16倍、20倍……私は8倍と言っているわけですが、だいたい2050年までに社会全体で10倍ぐらい環境効率とか資源効率を高めていく必要がある。そのキーワードはエコデザインという考えで、製品を設計・デザインする最初の段階からリサイクルする、あるいは処理する最終段階まで、これを製品のライフサイクルと呼んでおりますが、このライフサイクル全体にわたって環境効率が最大化するような設計・生産・循環が必要であると。これをライフサイクルデザインとも、あるいはライフサイクルエンジニアリングとも、あるいはライフサイクルマネジメントともいま呼んでいるわけです。
このエコデザインの原理につきましては詳細な研究がされております。これはオランダの事例ですが、リサイクルされた材料をつかう、省エネ設計をするとか、そういうエコデザインの原理が有効であると。エコデザインは4段階で発展する。
エコプロダクツを制するものは世界を制する
サービスが普及した状況をつくりだすと。これがわれわれのファイナルゴールであります。こういう状況が当り前にならなければ、われわれは脱温暖化社会、あるいは循環型社会をつくることができない。
昨年の展示会に小池大臣がいらっしゃったときの写真です。また、先月公表された600ページの厚さの「スターンレビュー(スターン報告書)」で、温暖化の経済学についての分厚い報告書です。実はきょう私がご紹介したのは、この「エコマテリアルハンドブック」で、これはなんと800ページの分厚いハンドブックで、エコマテリアル、エココンポーネント、エコデバイス、エコプロダクツを日本の総力を挙げて紹介しているわけでありまして、まさに環境ソリューション--物質的なソリューションはこうあるべきだということを主張しているわけです。ですから「スターンレビュー」に対して、わが方はこの「エコマテリアルハンドブック」だと。
きょう皆さんにぜひ強調したいのは、このエコサービスなわけです。いかにビジネスモデルを環境配慮型にしていくか。エコサービスは、たとえばシェアリングとか、リースとか、メンテナンスとか、管理業務とか、そういうものがあるわけで、もともとは電力を販売する代わりに、快適な室温の提供を販売した。これはスウェーデンのイエテボリエネルギー社。洗濯機を販売する代わりに、洗濯回数や重量に応じた選択機能を販売する。これはスウェーデンのエレクトロラックス社。車の塗料を販売する代わりに車の塗装サービスを販売するもの。もともと一番古いのは1960年代にロールスロイスがエンジンを売るのでなくて、単位時間あたりのエンジン使用を販売すると。そういうビジネスモデルをつくり出したわけです。
アメリカではサービサイジング、ヨーロッパでは製品サービスシステム、エコ効率の高いサービスとか、様々な呼び方がされているわけですが、最近アーノルド・タッカーというヨーロッパの研究者がこれを8分類に分けております。純製品と純サービスの間に8つのサービスがあると。ホワイトたちの分類は非物質サービスと物質サービスに分ける。私自身のもあります。
これはタッカーの議論ですが、環境影響を社会全体で減らすためにはどうすればいいか。これは生産活動あたりのインパクトを減らす、製品の生産効率を高める、製品の使用頻度を高める、家計支出における製品の割合を減らす、家計支出そのものを減らすということになっているわけですが、5つのデカップリング戦略が提唱されております。
私の研究室では、実はこのNECさんの子会社のNECリースのパソコンのリースに関する分析をしております。そこで用いたライフサイクル・アセスメント手法は日本が開発した環境影響評価法でありまして、私たちは製品のライフサイクル全体で様々な物質の投入、あるいは排出を全部計算しますと、あとは標準的な手法によって環境の影響値を社会が受ける被害のコスト、外部使用コストとして計算ができる手法を持っているわけです。
これは積水化学さんの再築システムの家でありますが、新築の住宅と再築システムを比べると、50%環境影響値が下がっていると。これがNECリースのパソコンリースの分析で、リースというエコサービスの提供によってどのくらい環境影響値を下げることができるか。これはノートパソコンのインベントリーデータですが、当然回収率に依存するわけですが、回収率を上げるとトータルの環境影響値を減少させることができる。パソコンについても回収率を増加させ、リサイクル、リユースのシステムが十分に整った場合は、複写機と同程度のリサイクル効果が得られるという結果であります。
このエコサービス、つまりサステイナブルなビジネスモデルをこれからわれわれは発展させなければいけないわけですが、それでは日本国内でどのくらいのエコサービスがいま開発され、市場に提供されているかと言いますと、私の研究室で学生に調べてもらったところ、少なくとも300くらいのエコサービスがいま提供されていると。それで日本のエコサービスを分類しましょうということで考えだしたのが、この表でございまして、エコサービスというのは物質関連サービスと非物質関連サービスに分けられる。このエコサービスをつくり出すプリンシプル(原理)を考えると、機能販売、製品寿命の延長、リサイクル、廃棄物の処理、環境負荷削減技術の導入、再生可能資源がつくり出す環境浄化、コンサル、管理、金融、認証と。それぞれのサービス原理を組み合わせることによって、実は新たなサステイナブルビジネスモデルが創り出せることを考えているわけです。
たとえばシンプルなサステイナブルビジネスモデルを考えますと、カーシェアリングとか、清掃器具のレンタルサービス、石川島播磨のジェットエンジンのメンテナンスサービス、エコハンド、風力発電事業、グリーン電力認証サービス。また複雑なサステイナブルビジネスモデルを考えますと、これは複数のエコサービス原理でそういうサステイナブルビジネスモデルを提供しているわけでありますが、たとえば松下電器さんの蛍光灯のリース--これはBtoBだけですが、「あかり安心サービス」とか、使用済み自動車部品の中古販売、イトーキのオフィスエコロジーマネジメントサービスとか、エスコ事業とか、日立のエネルギーソリューションサービス事業とか、そういうふうに分析されるわけです。
きょう私の申し上げたかったことをまとめさせていただきます。従来は今世紀の後半に起ると、たとえば2070年、2080年ぐらいに北極の海の氷は夏は全面的に解けてしまうであろうと今まで予想されてきたわけです。ところが、この最近の観測結果を見ますと、劇的な北極海氷の減少、あるいは山岳氷河の消滅、さらにはグリーンランドは年間2400億トン、南極大陸は1500億トンの氷が消失しているのではないかという人工衛星の観測結果が出てきたり、温暖化が3倍に加速している、あるいはフランスとドイツを合わせたような、巨大なシベリアの凍土が解けた浅い湖が出現してメタンガスがボコボコ出ているとか、ただならない情勢にいまわれわれが入りつつあると。これは容易ならざる事態であると考えざるをえない。
したがって、私たちは全力を上げて、この地球温暖化の問題、脱温暖化社会、あるいは循環型社会の建設に取り組む必要があるのではないか。日本は非常に優れた環境マネジメントの能力、さらには環境技術革新の開発力、様々なエコプロダクツ、エコサービスを持っているわけでありますから、まさに日本が世界に貢献できる絶好の機会がいま訪れているというふうにも考えられるわけでございます。
そういうことで、事態は大変急を告げておりますが、われわれにはこの問題を解決できる十分な能力もあることを強調させていただいて、私のお話を終了させていただきます。どうもありがとうございました。
(2007年3月12日公開)
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