出典:http://business.nikkeibp.co.jp/article/pba/20081210/179796/?P=2&ST=news
2008年12月12日 金曜日 日経ビジネス
ネクストエナジー・アンド・リソース 製造 世界に通じるモノ作り。本誌はこれまで高い技術と生産能力を持つ日本企業を多く描いてきた。その対象はトヨタ自動車やソニーといった大企業に限らない。規模が小さく、知名度が低くても、産業界に欠かせない製品や部品を作る中小企業が全国に数多くある。
このシリーズでは本誌の人気コラム「小さなトップランナー」から優れたモノ作りの現場を紹介した記事を連続で取り上げる。
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2008年6月30日号より
家庭用に電気を供給する太陽光発電装置だが、家の解体後に廃棄される。
シャープ、三洋製など中古の太陽光パネルを回収し、リサイクルを始めた。
住宅1軒分で150万円程度という低価格が受けて、売り上げを伸ばす。
(宇賀神 宰司)
太陽光発電装置の導入を2020年までに現状(約40万棟)の10倍、2030年までに40倍にする──。
7月7日から北海道で開催予定の「洞爺湖サミット(主要国首脳会議)」。地球温暖化問題を話し合うこの世界会議を前に、福田康夫首相は「福田ビジョン」で低炭素社会に向けた具体的な目標を打ち出した。
二酸化炭素を排出しないクリーンエネルギーとして注目される太陽光発電。家庭向けの電源としても有効だ。
太陽光発電の普及が進めば、買い替えなどで装置の廃棄も増える。
「太陽光発電装置に使われる太陽光パネルは製品寿命が長い。回収すれば再販できるはず」
環境に優しい製品のリサイクル。そんな先を読んだ環境ビジネスを手がけるのが、ネクストエナジー・アンド・リソースだ。
シャープ、三洋製を低価格で
太陽光パネルのリサイクル販売に商機を見つけた伊藤敦社長(長野県の本社で)(写真:堀 勝志古、以下同)
南アルプスと中央アルプス、2つの山脈を東西に控える長野県駒ケ根市。山間にあるネクストエナジーの倉庫には数千枚の太陽電池パネルが積み上げられている。これらはすべてリサイクル品。住宅の建て替えや農業用ハウスの取り壊しなどで不要となったパネルを全国から買い集めた。製造元はシャープ、三洋電機、京セラなど。
「パネルは性能試験と清掃を施し、早ければ1週間で出荷する」と伊藤敦社長(39歳)は話す。
太陽光パネルは製品寿命が長い。期待年数で20年、製品によっては40~50年は使えるという。一方、住宅は30年程度で建て替えることも多い。伊藤社長は、十分に使えるパネルが住宅の建て替えによって廃棄されている現状を目の当たりにしてきた。
そこで思いついたのがリサイクルだ。インターネットのホームページで不用品の回収と販売を告知したところ予想以上の反応があった。
事業開始から2年8カ月。月間でパネル500枚を売り上げる。規模は決して大きくないが「入荷情報をネットで告知すると、30分もすれば全国から問い合わせが来る」(伊藤社長)と語る。設営工事は販売地域の契約工務店などに依頼している。
中古の太陽光パネルを1枚ずつ検査して、販売価格を決める
人気の秘密は新品パネルの半額程度という価格。大型の太陽光パネルは幅1m、高さ1.6mほどあるが供給できる電力量は200ワット程度。平均的な住宅 1軒分を賄うには20~30枚ものパネルが必要になる。新品パネルの場合、光エネルギーを家庭用電力にする変換機などの周辺機器や設置費も加えると250 万円程度になる。
一方、リサイクルパネルを使えば諸経費を加えても150万円程度。そのため新品なら少なくとも15年はかかるという費用回収期間も約9年で済む。
太陽光パネルを1枚単位で売るという市場も開拓した。住宅全体の電力を賄うのではなく、携帯電話の充電、TVや庭園灯など限定的な電力供給のためにパネルが欲しいというのだ。
実は新品の販売では、こうした要求には十分応えられなかった。一般的に販売店では住宅用に10枚以上のパネルをまとめて設置している。それに比べ単体での販売は売上額も低く、取り扱いをしない販売店がほとんどだったからだ。
一方、リサイクルでは住宅から回収したパネルの枚数と、それを設置する住宅のパネル枚数とでは異なることがほとんど。大型施設の解体で一挙に6500枚のパネルが放出されたこともある。そのため、端数となったり、住宅用には使いづらいパネルを単体販売に回すことができる。
伊藤社長は「パネル1枚当たり2万~5万円程度で買える手軽さが受けている。キャンピングカーや船舶に取りつけたり、ポンプの駆動電源に使ったりと用途は様々。今後もこの市場は拡大が見込める」と語る。
値付けと保証に一日の長
いち早く太陽光パネルのリサイクルを事業化したネクストエナジー。他社の参入もありそうだが「他の事例は聞いたことがない」(伊藤社長)と言う。この商売の要は、仕入れたパネルに適正価格をつけることにある。
事業化に際して、伊藤社長は太陽光パネルメーカーが製品テストで使う検査装置を導入した。リサイクル品の出力能力を測り、検査数値の80%以上の発電保証をつけて、販売価格を設定する。保証期間は1~5年に及ぶ。
今までに評価したパネルは1万枚以上。独自の査定と保証システムを確立した。これがネクストエナジーが顧客に支持される理由だ。
しかし、ここまでの道のりは決して平坦なものではなかった。
伊藤社長がネクストエナジーを設立したのは2003年12月のこと。家業の建設会社で始めた次世代エネルギー事業を本格化させるため、独立した。
まず手がけたのは、小規模事業所向けの風力発電と小水力発電。しかしうまくいかない。水力は小型でも国土交通省から水利権の許可が必要になる。風力は小型の場合、安定して電力を得るのが難しい。そのため導入が思うように進まない。
起業したものの事業黒字化の見通しが立たない。売り上げ確保のためシャープの太陽光発電装置の販売特約店となる決心をした。しかし、伊藤社長は「太陽光発電はやりたくなかった」と本心を明かす。太陽光発電は訪問販売を中心とした営業モデルが既に確立し、販売店間の競合も激しい。一方、ネクストエナジーは技術者の集まり。営業担当者は1人だけでノウハウも少ない。当然、販売実績は低かった。
その打開策がリサイクルだった。建設会社での経験から再利用可能なパネルが廃棄されていることを知っていた。「価格さえ安ければ太陽光発電を導入したい」という顧客の声も聞いていた。しかも競合はいない。
太陽光パネルの回収・販売を電話やFAXを使い全国の太陽光発電装置の販売店や工務店、解体業者に呼びかけた。販促のためインターネットの検索サイトを利用。宣伝費を支払い自社のページが上位に表示される形で、知名度を高めた。その甲斐あって営業力不足を補いネット販売を軌道に乗せた。
創業から4期目となった2007年6月期に黒字化に成功。2008年6月期は売上高3億8000万円、経常利益は1000万円となる見通しだ。
今年4月からは「環境付加価値」の買い取りサービスを加えた太陽光発電装置の販売を始めた。
環境付加価値は、太陽光など自然エネルギーによる発電量に応じて決められる。その量を金額換算し、ネクストエナジーが顧客から買い取る。それで顧客は運営コストを下げられる。買い取った付加価値は証券化して企業間で取引されている。
エコブームに乗るネクストエナジー。今後は、営業や設営拠点を全国に広げたり、補修能力を強化したりすることも課題となる。
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