2008年12月9日火曜日

風力・太陽光は期待通りに働くか?


世界で使われているエネルギーのうち約80%を化石エネルギーが占める。近い将来、寄与の割合を伸ばす可能性のある技術は原子力である(出典:世界国勢図会2004年より作成)


出典:
2008年11月20日(木)公開自然エネルギーでは化石エネルギー利用を減らせない 地球温暖化問題への対応策として、世界全体で使用されているエネルギーの80%を占める化石エネルギーは、最終的に、ほぼすべて二酸化炭素(CO2)になる。したがって、その使用を減らさない限り、CO2の排出は削減できない。そこで脚光を集めているのが、原子力エネルギーと、再生可能エネルギーとも言われる自然エネルギーである。これらのエネルギーが、化石エネルギーの代替となりうるかどうか、その現実的可能性を検討してみたい。

 まず断っておきたいことは、対象とするエネルギー資源が地球上に存在することと、人間が利用できることとはまったく別の問題だということだ。

 例えば、地球内部にあるマントルの熱エネルギーは、現在人間が使っている化石エネルギーとは比較にならないほど大きい。しかし、この熱エネルギーによる地熱発電を大量・急速に普及させるような技術は、現在のところない。湯水のように資金を投入し、環境影響に目をつぶれば、実現できる可能性はあるかもしれない。しかし、現実的でないことは明らかだ。後で触れるが太陽エネルギーや海中のウランも同様で、広く薄く分布している資源の利用も、技術的・経済的なハードルが非常に高い。

 エネルギーの構成比を見ると、世界全体で使われているエネルギーの大部分は石油や石炭、天然ガスである。その比率は約80%で、世界も日本も変わりはない。最近のIEA(国際エネルギー機関)の統計では、世界全体で見ると、在来型バイオマスが全体の約10%を占めるが、日本では使用が非常に少なく、代わりに、原子力が世界平均よりも少し多い。世界的に見ても、主なエネルギー源は化石資源である石油、石炭、天然ガスの三つに加えて、在来型バイオマス、原子力、水力であり、注目度の高い風力や太陽光は全部合わせても1%以下である。

 一方、原子力は現在、日本では10%以上、世界全体でも10%近くに達しており、化石エネルギーに次ぐポテンシャルがあると考えている。この割合を20%程度に高めることは、技術的な問題というより、社会が許容するかどうかにかかっている。より高い安全性の確保と燃料の再処理の技術的な課題が鍵だ。すでに実証され、広範に利用されている原子力は、化石エネルギーを補完する十分なポテンシャルがあると考えられる。


■化石エネルギーの割合が8割を占める


GDPが伸びるとエネルギー消費も増加する IEAおよび日本エネルギー経済研究所によると、2030年のエネルギー需要は、現在よりも5~6割増えると予測されており、総エネルギー需要で化石資源の占める割合は、あまり減らないとされる。

 地球温暖化の進行を少しでも遅らせるには、省エネや利用効率の改善などにより総需要を抑制すると同時に、化石燃料の占める割合を減らすことだろう。しかし、これらの努力によっても、世界における化石燃料の使用を大幅に削減できないのが現実だ。このことを前提に対策を考えるべきである。

 先進国の化石エネルギー需要は、省エネ、節エネ、原子力の利用によって、2030年頃までに頭打ちか、漸減する可能性がある。しかし、急激に削減しようとすれば、エネルギー多消費産業が途上国に移転して炭素リーケージが起きるだけの結果になりかねない。また、過剰な対策により、かえって無駄なエネルギー消費を引き起こす可能性がある。

 もともと、途上国、新興国の化石エネルギーの需要増加を抑制することは困難だ。BRICsの経済発展は目覚ましいが、それ以外の途上国の経済も成長の歩みを速めている。例えば、アフリカのGDP(国内総生産)は平均でも約5%の伸びだという。GDPの増加は、エネルギー消費の増加とほとんどイコールだ。さらに、途上国、新興国の産業や社会のエネルギー消費効率は先進国に比べると低い。とすれば、現状では化石エネルギーの需要低減につながる要素はほとんどない。世界全体で相当頑張っても、2030年には、化石エネルギー消費、したがってCO2排出は、今より相当増えるであろう。

 自然エネルギーの一次エネルギーに占めるシェアを見ると、在来型バイオマスを除くと、水力でようやく2%程度。それ以外は非常に少ない。比較的多い風力でも約0.3%、太陽光発電は、それよりも一ケタ少ない0.03%以下である。日本の場合は風力も太陽光発電もそれぞれ約0.1%だが、いずれにしても、化石燃料に比べると圧倒的に小さい。

 在来型のバイオマスは、薪や炭、動物の糞などで、途上国が主に使っているエネルギー源である。IEAの推計では、在来型バイオマスの占める割合は約10%になるという。在来型バイオマスは、エネルギー効率、あるいは、エネルギー密度などから見ると、非常に質が悪く使いにくいエネルギー源であり、先進国ではほとんど利用されていない。途上国の場合も、経済発展にしたがって使用量は減少し、化石燃料や原子力などにシフトする可能性が高い。結果として、在来型バイオマスの需要は減少傾向に向かうだろうと考えられる。

実力不足の新エネルギー 代替エネルギーのポテンシャルを考える際に考慮しなければならないことは、時間というファクター、つまり時間軸である。50年先、100年先で考えればポテンシャルがないとはいえないが、10年単位で考えた場合、20年後に全体のエネルギー量の10%が自然エネルギーに置き換わる可能性はおそらくないだろう。筋のよい自然エネルギーの技術開発を進めることや普及の努力は、どちらも必要だし重要なことだが、今世紀前半で全体に占める割合は大きなものにはならないと思っている。経済性や技術的な問題においても、化石エネルギーの代替として考えるには、かなりハードルが高く、自然エネルギーの量が飛躍的に増えるとは考えにくい。今は緩やかな普及と、精力的な基盤技術の開発に取り組むべきである。

 経済発展のためには安定した電力供給が必要になってくる。しかし、在来型バイオマスは発電効率が悪く、電力の安定供給の点からは、経済効率からいっても大変使いづらいエネルギー源である。一方のバイオエタノールなどの非在来型バイオマスは、長期的に取り組むべき研究開発課題ではあるが、現状の社会システムで急速に普及させることは困難だろう。穀物をすべてバイオエタノールに転換しても現在の全消費エネルギーの5%以下にしかならないこと、セルロースからバイオエタノールを製造するプロセスの技術的経済的課題の解決に、まだ見通しが立っていないことを考慮すべきである。

 日本の場合、新エネルギーのカテゴリーで最も大きな部分を占めるのは「その他」という項目であり、具体的には熱利用だ。いちばん貢献度が高いのは太陽や風力ではなく、パルプ産業の廃液など、産業廃棄物の燃焼熱の利用である。

 一方、風力エネルギーは自然エネルギーのなかでは有望だ。確かに、枯渇することがなく、総量としてもかなり期待できる。太陽光発電と比較すると面積あたりの発電量が大きいことがメリットだが、それでも、化石燃料と比べるとエネルギー密度はかなり低い。大規模な発電設備が必要なうえ、その設備のあるところから、消費地へ電気を運ばなければならないという輸送の問題が相当大きくなる。かつ、メンテナンスも相当大変になるだろう。また、規模が大きくなれば、自然環境や生態系への影響も大きくなるので、そのアセスメントが必要になるだろう。風車のブレードなど材料の強度や材質など技術的問題も増えてくると思われる。

ソーラーは間尺に合うのか? 風力と並んで期待の高い太陽光発電は、家庭での設置に対する補助金が来年度から復活する。地球に注ぐ太陽エネルギーの総量は、人類が使うエネルギーの1万倍もあり、砂漠一面に太陽電池パネルを敷き詰めれば化石エネルギーが要らなくなるなどという極論もある。しかし、大規模に発電しようとすると、多くの問題が浮かび上がってくる。エネルギー量が十分だとしても、経済的に許容できる範囲に収まるかどうかは、別の話だ。

 例えば、砂漠全体にパネルを敷き詰めることが現実にできたとしても、それをした途端、メンテナンスの問題が生じる。土木会社にいた友人がイラクで横断歩道橋を作った際、階段にエスカレーターを付けたいという話が持ち上がった。クライアントからの要求なのでむげに断ることもできず、エスカレーターを付け試運転をした途端、砂ぼこりのために一瞬にして動かなくなったという。そのような土地から集電して日本に運ぶのは、非現実的だ。屋根に太陽光パネルを付けたり、太陽熱を使ったりすることは悪いことではない。しかし、大量に消費される社会全体のエネルギー問題の解決には、当分の間、大きな貢献はしないと考えている。

 一方、海水中にあるウランの総量は、ウラン鉱山にあるウランの100倍から1000倍と言われている。しかし、先に触れたマントルエネルギーのように、集めて使うことは非常に難しい。つまり、地球全体で量があるからと言って、薄く広く分布しているものの現実的な利用は、非常に難しいのだ。

 今、補助金によって太陽発電を5倍、10倍にしたところで、化石燃料全体の削減にはあまり貢献できないし、現状ではコストもかかる。そのコストはすべて国民が負担するのである。ただし、時間をかけて基盤技術をじっくり開発していくことには賛成だ。拙速に進めてもよいことはない。長期的な視野をもち、戦略的に開発を進めるべきだと思う。その戦略のなかで、非在来型を含む化石資源の有効利用技術の開発と、それらの途上国、新興国への移転は重要かつ急ぐ課題であると考えている。


>>2008年12月4日(木)公開の後編に続く

御園生 誠 氏 (みそのう まこと)
独立行政法人 製品評価技術基盤機構 理事長

専門は触媒化学・化学環境学。グリーンケミストリーの立場から合理的な環境問題対策を説く。

1966年東京大学大学院工学系研究科博士課程単位取得退学。1983年東京大学工学部合成化学科教授、1999年工学院大学工学部環境化学工学科教授。日本化学会会長、触媒学会会長、日本学術会議会員などを歴任。2005年より現職。

著書『持続可能社会へ向けた温暖化と資源問題の現実的解法』(丸善 2008)、『化学環境学』(裳華房 2007)など多数。


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