2008年8月27日水曜日

太陽電池、市場拡大に2つの壁-補助政策と知財を味方にできるか




出典:http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20080825/168768/
2008年8月27日 水曜日 大西 孝弘
住宅用太陽電池の買い控えが始まっている。

 きっかけは、皮肉にも太陽電池の普及を掲げた政府の地球温暖化対策(福田ビジョン)だった。福田康夫首相は主要国首脳会議(洞爺湖サミット)直前の6月に福田ビジョンを発表。温暖化対策として太陽電池の導入規模を2020年までに現状の10倍、2030年に40倍に引き上げる目標を盛り込んだ。

 7月に閣議決定された「低炭素社会づくり行動計画」では、太陽電池のシステム価格を3~5年後に半額にできるよう、技術開発と導入支援策を強化することを明記した。

 これを受けて来年以降、2006年度に打ち切られた太陽電池の導入補助が復活する見通し。詳細は今後明らかになるが、太陽電池を導入する個人に対して、一定の補助金を給付する制度が有力だ。現状で250万円程度の住宅用太陽電池の購入価格が下がるのは確実視されている。

日本の住宅用太陽電池の導入件数は、2005年度の7万2825件をピークに急減し、2007年度は4万9425件にとどまった。福田ビジョンはそのテコ入れを狙ったものである。

 だが、いずれ安くなるならその時を待つのが庶民感覚というもの。ホンダの太陽電池子会社であるホンダソルテックの数佐明男社長は、「前年度よりも設置件数は減るだろう」と指摘する。太陽電池の販売を手がける日本エコシステムの金子秀純社長も、「2008年度の上期は前年度を上回ったが、購入のキャンセルが入り始めた。下期は買い控えが広がるだろう」と予想する。景況感の悪化による新築着工件数の落ち込みも、太陽電池導入のマイナス要因となりそうだ。

政策が市場拡大の起爆剤に
 国外に目を向けると状況は一変する。海外では需要が活発化しており、2007年は世界全体の市場規模が前年比150%の1兆円に達した。

 日本と海外の状況が異なるのは、政策の違いに起因している。欧州各国では「フィード・イン・タリフ」という制度を導入し、事業所や家庭で発電した電力を、電力会社が市場より割高な価格で買い取ることを義務づけている。

 ドイツの場合、1キロワット時当たりの電力料金が0.18ユーロ(約28円)であるのに対し、太陽光発電の買い取り価格は0.38~0.54ユーロ(約 60~84円)。買い取り価格は毎年5%ずつ引き下げられるものの、20年間にわたって買い取りが保証される。今の買い取り価格なら約10年で初期コストを回収し、それ以降は利益を見込めるため、個人や企業がこぞって太陽電池を導入した。

 その流れを的確に捉えたのが、ドイツの太陽電池メーカー、Qセルズだ。欧州各国でフィード・イン・タリフが導入されると、大胆な経営判断で原料確保と増産に成功し、市場参入後のわずか6年でシャープを抜いて世界首位に駆け上がった。

 これに対して、日本ではフィード・イン・タリフのような政策に対して、買い取り義務を負う電力会社が「消費者が支払う電力料金が高くなる」ことなどを理由に強く反対している。

 最終的には、8月末の各省庁の概算要求で補助制度の詳細が明らかになるが、太陽電池システムの購入費を補助する従来型の制度にとどまる公算が大きい。この方式では将来、補助額が増えることも予想されるため、ユーザーは購入のタイミングを見計らうのが難しい。補助額に応じた需要変動が大きいため、メーカーにとっても投資しづらい。日本エコシステムの金子社長は、「先の事業展望を描ける思い切った政策を導入してほしい」と訴える。

コストダウンに特許の壁
 国の政策とともに、太陽電池メーカーを悩ませているのが、原材料価格の高騰である。各社はコスト削減を進めているが、道のりは険しい。

 現在主流の結晶シリコン型においては、主原料であるシリコンの需給が逼迫し、価格が高騰している。そこで、各社はシリコンを使わない「色素増感型」の研究開発を強化している。色素が太陽光を浴びて出す電子を利用して、植物の光合成に近い形で発電を行うものだ。太陽エネルギーを電気に変換する効率は結晶シリコン型より低いが、低コストで生産できる特長がある。だが、ここにきて、色素増感型のコスト競争力にも疑問符がつき始めた。

コストダウンの1つの壁になっているのが特許だ。色素増感型の主原料である色素の特許をオーストラリアのダイソルが保有している。様々なタイプの色素があるが、同社の色素は量産化に向いているという。国内では特許の制約があって特定の販売代理店からしか購入できない。色素増感型の量産を目指すペクセル・テクノロジーズの瓦家正英・主任研究員は、「調達先が限られていることが、コストダウンを難しくしている」と指摘する。

 太陽電池関連の特許については、興味深いデータがある。特許情報サービス会社のアイ・ピー・ビーが「IPB特許・技術調査レポート(太陽電池セル技術)」と題する調査結果をまとめた。日本で出願された太陽電池関連の特許の競争力を分析したものだ。「類似特許があるか」「他社が関心を寄せているか」などの観点から個別の特許を点数化し、その得点によって企業を位置づけたのが上のグラフである。

 その結果、“陰の実力企業”が浮かび上がる。キヤノンと松下グループだ。両社は現在、太陽電池事業を手がけていないが、早くから研究開発を進め、技術開発や特許の出願で先行していた。

 この調査で、シャープに次いで2番目に総合得点が高かったのがキヤノン。同社は結晶シリコン型とは違うタイプの太陽電池の研究開発で先行していたが、市場が急拡大する前の2004年に採算の見通しが立たないと判断して、同事業から撤退した。キヤノンの元技術者は、「あと少し我慢すれば、大きな収益源になっていた」と悔やむ。

 松下グループの存在感も際立つ。松下電器産業と松下電池工業を合わせると、総合順位は6位となる。それぞれ化合物型と呼ばれるタイプの太陽電池を開発していた。

 松下電器との連携を強化する松下電工は、太陽電池で発電した電力を家庭内で使いやすくする装置を開発。また、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から補助金を得て、太陽電池の研究を進めている。10月に「パナソニック」に社名変更する松下電器は、グループ会社とエコ商品の開発に注力しており、太陽電池事業に参入する条件が整いつつある。

キヤノンと松下の動向に注目
 過当競争に陥っている国内市場だが、販売事業者の中にはキヤノンや松下グループの市場参入に期待する声もある。両社は電力業界に匹敵するほど、政財界に強い影響力があるからだ。両社の参入で太陽電池メーカーの声が強まれば、フィード・イン・タリフ導入についても、議論が進むかもしれない。

 政策と知財。この2つを味方にできるかどうかが日本の太陽電池メーカーの将来を決める。その突破口は、意外にも松下やキヤノンのような陰の実力企業の参入かもしれない。






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