2008年8月27日水曜日

太陽電池・世界大バトル!お家芸が一転窮地に、日本メーカー逆転のへ一手



出典:http://www.toyokeizai.net/business/industrial_info/detail/AC/2b82f43f7f699215f4b6e6c10d03d2cd/
 アフリカ大陸の北西沿岸に近い大西洋上に位置し、欧州の代表的なリゾート地として知られるスペイン領カナリア諸島。その一つであるテネリフェ島で、巨大な“ソーラーパーク”が誕生する。日本の住友商事が85億円の事業費を投じた太陽光発電施設だ。東京ドーム2・8個分に相当する広大な用地に設置された大量の太陽電池パネルが生み出す電力は、年間9メガワット。同社によると、現地の3500世帯分の電力需要を賄える規模に相当するという。 欧州では近年、こうした巨大なソーラーパークの建設が各地で相次いでいる。その背景にあるのが、「フィード・イン・タリフ」と呼ばれるクリーン再生可能エネルギーの普及促進策だ。フィード・イン・タリフを日本語に訳すと「固定価格買い取り制度」。国の法律によって、太陽光発電などによる電力を電力会社が長期間にわたって高い固定レートで買い取る制度だ。現在、欧州で20以上の国が同制度を採用し、韓国など他地域にも広がりつつある。 2000年に先鞭をつけたドイツでは、04年の買い取り価格引き上げを機に太陽光発電システムの国内導入量が急増。05年にはそれまで累計導入量でトップだった日本を抜き去り、太陽光発電の最大普及国へと躍り出た。06年に制度を充実させたスペインも導入量の伸びが著しく、単年度の導入量は07年に日本を逆転。「昨年の太陽光発電量は500メガワット以上。2010年に400メガワットとする目標を掲げていたが、3年前倒しで達成した」(スペイン大使館)。 導入が進むのも当然である。ドイツを例に取ると、電力会社による買い取り金額は電力料金の2~3倍に相当する。しかも、20年間にわたって同じ価格で買い取ってくれる。スペインに至っては、買い取り期間が25年で、その間は物価上昇率に連動して買い取り価格も引き上げる手厚い内容だ。現在のドイツやスペインでは、この制度を活用すると初期導入費用が10年程度で回収でき、その後の発電分はまるまる儲けになる。 こうした“うまみ”に着目した一般家庭や事業会社が、こぞって自宅の屋根や空き地などに太陽電池を設置。さらには世界的なカネ余りの中で投資ファンドなどの資金まで流れ込み、各地で広大な敷地を利用した大規模なソーラー発電施設の建設が相次いでいる。冒頭で紹介した住商のケースもその一つである。 つまり、欧州では太陽光発電が高い利回りを生む投資対象となり、「そうした投資マネーが太陽電池の急激な需要拡大をもたらした」(ゴールドマン・マックス証券アナリストの渡辺崇氏)のだ。同証券の調査によると、07年の世界需要は前年比1・5倍の約3ギガワットにまで拡大。ドイツ、スペインを中心とする欧州がその6割以上を占め、わずか2年で世界需要は倍にまで膨らんだ。
急激に勢力増した海外新興メーカー
 欧州の固定価格買い取り制度に端を発した太陽電池の需要急拡大。その中でメーカーの勢力図はガラリと変わった。一気に勢力を伸ばしたのが、ドイツのQセルズや中国のサンテック・パワー、米国のファーストソーラーなどをはじめとする海外勢。シャープや京セラ、三洋電機など日本を代表する太陽電池メーカーは軒並みシェアを落とし、一時5割あった日本企業の市場占有率は2年の間に2割台前半にまで落ち込んだ。シャープを抜いて生産量で世界首位になったQセルズは、会社設立から今年でわずか9年目。地元欧州での需要拡大を追い風に驚異的な成長を続け、04年に75メガワットにすぎなかった生産量は07年に389メガワットにまで拡大。売上高も円換算で1400億円を突破した。同様に急成長を続けるサンテックやファーストソーラーにしても、会社設立から10年に満たない新興専業メーカーだ。そもそも、太陽電池は日本で育ち、日本で開花した技術である。オイルショック後、国内では旧通産省の「サンシャイン計画」が始動し、官民協力の下で太陽電池の技術研究が進められてきた。1994年には一般家庭での太陽電池導入を対象とした国の補助金制度も始まり、世界に先駆けて国内の市場が立ち上がった。そうした経緯から、太陽電池は日本が世界をリードし続け、「日本のお家芸」とも称されてきたはずである。では、なぜ日本メーカーは、かくも短期間に海外の新興企業にシェアを奪われたのか。「短期間で市場環境が劇的に変わり、対応が後手に回ってしまった。甘かったと言われれば、それは認めざるをえない」。ある国内メーカー幹部はこう漏らす。欧州で太陽電池の需要が伸び始めると、千載一遇のチャンスと見たQセルズやサンテックなどは、株式市場で調達した多額の資金を投じて積極果敢に生産能力を増強。さらに、原材料の調達面でも、「海外の新興企業の動きは素早かった」(京セラの川村誠社長)。現在主流の結晶系太陽電池は大量のシリコンを使用するため、太陽電池の需要急増でシリコン需給が徐々に逼迫。海外勢は増産投資したラインを動かすために、有力なシリコン業者への出資や数年にわたる長期契約を結び、大量のシリコン確保に走ったのである。機動力で商機をとらえた海外勢に対し、増産投資と原料争奪戦に出遅れた国内メーカーは短期間で大幅なシェア低下を余儀なくされた。中でもシャープはシリコン調達で大失敗し、07年の生産量が389メガワットと前年実績(434メガワット)を割り込む事態に直面。7年連続で守り続けてきた世界シェア首位の座をQセルズに明け渡したのみならず、工場の稼働率低下で太陽電池事業が赤字に陥った。作りさえすれば欧州で高く飛ぶように売れるため、高値で仕入れたシリコンを使っても軽く10%の儲けが出るのが最近の太陽電池業界。業界大手シャープの赤字転落は、異例ともいえる出来事だった。 長かった日本メーカー優位の時代を太陽電池産業の「第1幕」とするならば、今は欧米やアジアの新興専業メーカーが機動力などを武器に勢力を拡大する「第2幕」といえる。こうした中、日本勢は巻き返しに必死だ。昨年夏に大阪・堺市での巨大新工場建設を発表したシャープをはじめ、国内大手各社は相次いで能力増強に向けた投資計画を表明。三洋は経営再建中にもかかわらず、今年度から3カ年で700億円を太陽電池事業に投じ、生産能力を現在の260メガワットから600メガワットに引き上げる。今年4月には次世代技術の戦略開発拠点を設立し、3年間で研究開発に75億円の予算を組んだ。同社は現在の結晶系で業界トップの発電性能を誇り、設置面積が限られる住宅の屋根用途などで優位性を持つ。「住宅用分野で今の強みを維持しながら、より低コストで作れる次世代太陽電池の研究開発を進め、3年以内の事業化を目指す」(前田哲宏・三洋電機執行役員ソーラー事業部長)。京セラも3年間で能力を500メガワット(現在は240メガワット)に増やす計画で、「日本企業の武器である製品の長期信頼性をきちんとアピールしつつ、生産能力増強とコストダウンを着実に進めていく」と同社の太陽電池事業を率いる前田辰巳・取締役執行役員は語る。シェア低下に危機感を募らせ、能力増強に動き始めた国内勢。しかし、日本の太陽電池メーカーが直面する問題は、何も足元のシェア低下だけにとどまらない。実は、国内勢のみならず、Qセルズなど第2幕の主役たちをも脅かすような、新たな異変が起きつつあるのだ。
液晶装置メーカーが製造ラインを丸ごと販売
 「本当にモノが出てくるのか」――。インドの首都デリーから南東へ車でおよそ1時間。海外企業の工場も数多く集まるノイダに作られた太陽電池の新工場が、日本をはじめとする世界の業界関係者から熱い視線を集めている。工場の主はモーザーベアPV。インドに本社を置く光ディスク製造の世界最大手、モーザーベアが05年に設立した太陽電池の製造会社である。太陽電池の新規参入企業が相次ぐ中で、同社が注目を集めるのには理由がある。 まず第一に、新工場で製造するのが、薄膜と呼ばれる新タイプの太陽電池である点だ。シリコンの塊をスライスして作る従来の結晶系太陽電池とは違い、薄膜はガス状のシリコン(モノシランガス)をガラス基板に積層して作る。製造原理自体は液晶と同じである。高価なシリコンの使用量が現在の100分の1で済むうえ、生産工程数も非常に少ない。このため、薄膜太陽電池は量産が成功すると大幅なコストダウンにつながる可能性があり、今後の太陽電池市場の中心になると言われている。もう一つの理由が、新工場立ち上げを後ろで支える巨大企業の存在だ。半導体・液晶用製造装置の世界最大手、米アプライド・マテリアルズ(AMAT)である。AMATは昨年から太陽電池の製造装置ビジネスに本格参戦し、「サンファブ」と称する薄膜太陽電池用の一貫製造ラインの販売に乗り出した。最新の大型液晶製造装置を応用したもので、畳3・5枚分相当の巨大なガラス基板を使って生産する。モーザーベアPVはその最先端製造ラインを導入した最初の企業の一つであり、それゆえに新ライン立ち上げの成否が注目を集めているのだ。モーザーベアPVが導入したラインの生産能力は年40メガワットで、装置一式の値段は推計で100億円。新工場は6月から実際にラインを動かして試作を開始しており、AMATは100人近くもの技術者を派遣してライン立ち上げを技術面で全面的にサポートしている。「歩留まりや変換効率等の課題点を完全に解消し、9月以降には実際の商品を出したい」とモーザーベアPVの技術部門トップ、G・ラジスワラン氏。同社では早くも2番目の薄膜太陽電池工場の建設に取りかかっており、再びAMATの一貫製造ラインを導入するという。AMATはこの1年間で、米シグネットソーラーやスペインのTソーラー、独サンフィルムなど10社前後の企業と契約を締結。その大半が新興の太陽電池メーカーで、モーザーベアPVをはじめとする4社が量産開始を目前に控えている。AMATのソーラー関連事業のマーケティング担当幹部、ジョン・アントン氏によれば、「サンファブの昨年からの累計受注額は、すでに30億ドルに達した」。半導体・液晶の装置メーカーにとって、液晶技術が応用しやすく、高い成長率が期待できる薄膜太陽電池の製造装置はうまみのある商売だ。国内大手のアルバックも昨年から太陽電池事業を本格化。薄膜用の製造装置を組み合わせたライン丸ごと販売する点はAMATと同様で、昨年6月設立の台湾企業などに納入した。「去年は必死に売り込む立場だったが、今年に入って状況は一変した」(アルバックの砂賀芳雄・専務取締役FPD事業本部長)。現在、同社には中国、台湾などのアジア企業を中心に、海外からの相談や問い合わせが殺到しているという。「こんなに早く、薄膜(太陽電池)で市販の製造装置が出てくるとは……」。ある国内の業界関係者は驚きを隠さない。
 現在の主流である結晶系の太陽電池は、すでに参入企業が世界で200社を超えた。「結晶系の太陽電池に関して言えば、設備の投資負担が比較的に軽いうえ、ずいぶん前から専用の製造装置も市販されている。単に作るという意味では、もはや結晶系太陽電池の参入障壁は消えたに等しい」(野村証券金融経済研究所アナリストの和田木哲哉氏)。日本勢が薄膜など次世代太陽電池の技術開発を急ぐのも、そうした切実な事情があるからだ。ところが、AMATやアルバックをはじめとする半導体・液晶装置メーカーの本格参入により、その薄膜太陽電池の一貫製造ラインが、早くも世の中に出回り始めたのである。次世代の薄膜まで市販の装置で簡単に作れてしまうなら、日本の太陽電池メーカーにとって、今後の差異化による反撃のチャンスは狭まる。太陽電池業界に起きつつある新たな異変。それはAMATをはじめとする大手製造装置メーカーが主役を演じる、第3幕の幕開けでもある。実は、「第2幕」のきっかけとなった、欧州の固定価格買い取り制度にも異
変が起きつつある。ドイツはこれまで太陽光発電の新規買い取りレートを毎年数%ずつ引き下げてきたが、今年6月には、その下げ幅を10年から1割程度に拡大することを決定した。スペインも9月から買い取りレートを下げる方針で、実に3割以上の引き下げを検討中。いずれも太陽光発電の国内導入量が増え、消費者や国が負担する制度維持コストが増加したことが背景にある。買い取り価格引き下げの動きが広がれば、今の「高くても作れば売れる」状況が一変し、本格的な価格競争が始まるのも時間の問題だ。勢力を増す海外の新興専業メーカー、大手装置メーカーの本格参戦、そして目の前に迫りつつある壮絶なコスト競争――。冷静に眺めれば眺めるほど、日本の太陽電池産業を取り巻く環境は厳しい。はたして、日本勢はこの強烈な逆風を乗り越え、勝ち残ることができるのか。 そのカギを握るのが日本のトップメーカー、シャープだ。来年秋稼働を目指し大阪・堺市で建設を進める薄膜太陽電池の新工場が反撃の舞台になる。堺の新工場は、09年後半にまず160メガワットのラインを稼働。10年春までに総額720億円を投じて480メガワットの生産体制を整え、最終的には世界最大級となる1ギガワットへと生産能力を引き上げる。「堺には当社の技術を総動員し、どこにも負けない最先端工場にする。堺の稼働でコストを今の半分にまで下げたい」とソーラー事業担当の濱野稔重副社長は言う。その自信の根拠は二つの仕掛けだ。一つは、同じ敷地内に建設するテレビ用大型液晶工場との相乗効果。堺のコンビナートには液晶の部材業者の進出も決まっており、薄膜太陽電池と液晶の共通原材料であるモノシランガスのインフラ設備が共有できる。そして、同社が新工場の最大の切り札と位置づけるのが、独自に開発した製造装置である。薄膜太陽電池は製造装置、中でも実際に膜を形成する「プラズマCVD」と呼ばれる装置がコストや変換効率などの性能を規定する。シャープはそのプラズマCVD装置を独自に開発した。関係者らによると、一つのCVD装置で同時に複数のガラス基板を処理できる画期的なものだという。ラインに流すガラスサイズ自体はAMATより小さいが、独自技術による複数枚処理により、ラインの生産効率はAMATに勝るというわけだ。堺では性能を示す変換(発電)効率でも、薄膜太陽電池で業界トップとなる10%を実現する計画だ。「まずは今秋に葛城工場(奈良)で立ち上げる薄膜の新ラインで装置の精度を高め、改良版を堺に持ち込む。堺が当社の薄膜太陽電池のモデル工場になり、それを今度は海外などに横展開する」(濱野副社長)。そこから浮かび上がるのは、これまでのような「日本企業」対「海外の新興メーカー」という単純な構図ではない。次世代の薄膜太陽電池を舞台にした、AMATをはじめとする世界的な大手製造装置メーカーとシャープの全面対決である。


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