2008年8月19日火曜日

発電マンの太陽光発電塾 第6回 環境で変わる!太陽電池の発電効率(後編)


「エアマス(Air Mass)」とは太陽の光が地上に入射するまでに通過する大気の量


http://www.nikkeibp.co.jp/style/eco/column/iwahori/080819_kouritsu02/index.html
2008年8月19日株式会社 発電マン 代表取締役・岩堀 良弘 氏
●太陽電池に罪はない?日射環境で変化する発電量
さて、前回は温度や天候、屋根の形状や向きなどの条件によって、月々の発電量が変わってくるという実例を見ていただきました。このほか地形、傾斜、緯度など様々な条件で発電量も変わるといいます。そして最後には、月々どころか瞬間瞬間で発電量がめまぐるしく変わる様子も見てもらいました。太陽電池そのものは半導体であり味も素っ気もないものなのです。しかしこの太陽電池、これまでの話を聞いていると、「何と気難しいヤツなんだ」と思ってしまいますよね。とらえどころがなくて、何やら不思議なモノに思えるのですが、実際は太陽電池の本来の性格はとても「律儀」です。ある一定の条件の下に置いてあげれば彼は黙々と電気を作り続け、しかもその量もほぼ確実に決められた量であり続けます。では、なぜ発電量はあれだけ細かく変化するのでしょう? 実はその最も大きな原因は、太陽電池そのものよりも、そこに入ってくる日射量の変化にあるのです。雲や大気中の物質など様々な影響を受け、空の明るさは刻一刻と変化しています。そのように、モジュール表面に届く日射量も、大変不安定です。その結果、それが発電量の目まぐるしい変化となって表れているのです。
●定格発電量を測定する時に基準となる環境とは
自然環境の中では目まぐるしく変化する日射量のため、太陽電池の性能を比較することができません。そこで太陽電池を測定・比較し、性能評価としての「発電量」を測定するための基準は次のように定められています。「モジュール表面温度25℃、分光分布AM(エアマス)1.5、放射照度1000W/平方メートル」の状態での発電量。(JIS規格JIS C 8914)
ではこの基準について、一つずつ見ていきましょう。まず、太陽電池は原料となるシリコンの特質が原因で、温度によって性能が変わります。“温度が高くなると発電効率が低下し、反対に温度が下がると効率が上昇する”ということは、前回にも書きました。そのような事情のため、発電量の正しい評価測定のためにモジュールの表面温度を標準状態(25℃)と定めています。次に聞きなれない言葉が出てきました。
「エアマス(Air Mass)」とは太陽の光が地上に入射するまでに通過する大気の量を表します。太陽を真上から受けた時の日射は「AM1」。大気圏外では「AM0」朝日や夕日などのように入射角が低くなると、AMの数値が大きくなります。またAMの数値が大きくなるほど、赤い光が多くなるのが特徴です。これは短い波長の光が大気に吸収されてしまうからです。逆にAMが小さくなると青い光が強くなります。太陽電池にはそれぞれ個性があって、種類によって光の波長に対する感度が違います。発電量を正しく評価測定するためにはこのAMを一定にする必要があるのです。ここで基準になっている「AM1.5」という値は、光の通過距離が1.5倍になる、太陽高度42度に相当します。日本ではこの「AM1.5」という値が標準で使われています。そして最後の「放射照度」というのが、まさに問題の日射量のことです。簡単に言えば「光のエネルギーの強さ」で、「1000W/平方メートル」だと、“1平方メートルあたり1000Wの光エネルギーが入ってくる状態”を指しています。つまり“温度25℃で「AM-1.5」の状態で1000Wの光エネルギーから取り出せる電気エネルギーの量”が太陽電池の定格出力と決められています。そしてこの基準値に準じた状態で150Wの電気がもし取り出せる太陽電池なら、その太陽電池の光エネルギーから電力への変換効率は150W/1000W=15%ということになる訳です。
●「発電量」そのままには発電しないもの
この基準の状態は、極めて理想的な状態であり、自然界でこのような環境を作り出すのはまず不可能です。先にも申し上げた通り、「放射照度」すなわち日射量は雲や大気の状態で大きく変わります。時間帯や屋根の状態により「AM」も変わってきます。気温だって常に25℃である訳がありません。そこで、このような測定を行うにはソーラーシミュレータという特殊な測定器を使います。このソーラーシミュレータで基準となる状態を作り、その中で対象となる太陽電池の性能を調べるのです。各メーカーの太陽電池のカタログには、この基準に基づいて測定された数値が掲載されています。つまり、太陽電池のカタログに「発電量」として記載されている数字は、ある特殊な環境の下で測定された数値に過ぎず、実際の数値は設置の条件によって様々だということです。規定の「発電量」より多く発電する場合も少なく発電する場合もあり、常にカタログに記された「発電量」を発電し続ける訳ではないのです。少し難しい話をしてきましたが、ここまでの話は太陽電池と長く付き合っていくのに大切な話です。長く付き合うには相手の性格を良く知っておかなければいけないのは人間でもモノでも同じです。例えば自宅のメーターで発電量が目まぐるしく変化していても、それは日射量がそれだけ変化しているということですから、基本的には心配はいりません。また、時折こんな相談をしてくる方もいらっしゃいます。「近所のお宅にも太陽光発電システムがついているのですが、わが家のシステムよりもよく発電しているようなんですよ。うちのは不良品なんでしょうか?」こんな時も太陽電池の性が分かっていれば冷静に判断ができますね。まず“近所”ということは、大気や気温の状態についてはそれほど大きな差はないと考えてよいかもしれません。そうなると、その方のお宅と近所のお宅との屋根の形状の違いや、勾配の具合などが原因と考えられます。その結果、「AM」や「放射照度」が違ってきて、それが発電量の違いに結びついてきているのだと想像できるのです。太陽電池と長く付き合ううちに、「あれ? この発電量はおかしいぞ」とか「これは正常なのか? 故障なのか?」など判断に迷うこともあります。そんな時にこそ、太陽電池と温度の関係や、日射量の関係、そもそもカタログに記載してある発電量はどのような基準で測定されているのか…などといった知識があれば、色々と役に立つのではないでしょうか。

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