2008年8月28日木曜日

太陽電池に足場を築け! 投資を拡大する総合商社



出典:http://www.toyokeizai.net/business/industrial_info/detail/AC/56b6287e3ddec66d114b8bf532123571/
 欧州を中心に太陽電池の需要が急拡大する中で、太陽電池の製造には世界中から200社以上のメーカーが参入。さながら太陽電池バブルのような様相だ。その中にあって、熱くなっているのはメーカーだけではない。日本の総合商社が世界中で着々とビジネスの基盤を固めつつある。この夏、スペインで“一番乗り”をめぐるバトルが静かに繰り広げられた。5月、住友商事はスペイン領カナリア諸島で年間9メガワットのソーラーパークを建設すると発表。大手商社としては、太陽光発電ビジネス参入第1号になるはずだった。しかし、7月31日に三井物産が英国の電力事業者と組み、カタルーニャ地方で稼働中の太陽光発電事業会社の買収を発表したことで、第1号は三井物産に変わった。一番乗りを奪われた住友商事の福原豊樹・新エネルギー事業チーム長は「一番か二番かよりも、現行のタリフ(買い取り価格)の適用を受けられるかどうかが重要だ」と言う。スペインは9月末に買い取り価格を大幅に引き下げる予定。そのため住友商事のカナリアは9月中に稼働、現行価格での適用を目指している。引き下げ後の価格適用となれば、収支見通しが大きく狂ってしまうだ
けに、遅れは許されない。三井物産のプロジェクトも1・36メガワットの本格設備を9月中に操業させ現行価格での適用をもくろむ。両社ともライバル企業の動向を気にしつつも、政府の買い取り価格政策に神経を尖らす。住友商事、三井物産だけではない。伊藤忠商事はスペイン、イタリアでの太陽光発電事業を準備中で、三菱商事も出資交渉中の案件があることを認めている。各社とも固定価格買い取り制度のある欧州の太陽光発電事業で経験を積み、米国や新興国、日本への展開をにらんでいる。
●バリューチェーンの各段階で収入
 総合商社の太陽電池関連ビジネスは長い歴史を持っている。しかし、もともと手掛けていたのは、太陽電池メーカー向けの材料・資機材の仕入れ販売、日本メーカー製の太陽電池販売、製造装置販売など、川上、川中における仕入れ販売業務だった。が、ここに来て強化しているのは川下部分だ。欧米市場の拡大を受け、商取
引にとどまらず、最下流に当たる発電所の経営にまでウィングを広げた。川上から川下まで“バリューチェーン”を築き、各段階で収入を得ていくのが最近の総合商社の必勝パターンだが、太陽電池でもこの戦略を踏襲しているのだ。もっとも、総合商社の全売り上げに占める太陽電池ビジネスの比率は0・01%にも満たない。社運をかけて太陽電池ビジネスに挑むシャープとはこの点で事情が異なる。しかも、目先の急拡大を期待しているわけでもない。住友商事の福原氏は「太陽光発電事業が会社の収益柱になることはないだろう」と断言する。欧州でも大型となる住友商事のカナリア諸島の案件でさえ総事業費は85億円。約70億円をプロジェクトファイナンスで賄い、自己資金は約15億円。同じ発電事業でも中東で計画中の火力発電による造水・発電プロジェクトの総事業費は6000億円超。これと比べると、太陽光発電事業のスケールが小さいこと
は事実だ。
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 ただし、原油・天然ガスといった化石燃料は枯渇やCO2排出などの環境問題がついて回るだけに、安泰とは言えない。遠い将来をにらめば、新エネルギー分野の投資を行わない理由はない。2007年に新エネルギー・環境事業本部を設立した三菱商事の小島信明執行役員新エネルギー・環境事業本部長は、新エネルギーには風力発電やバイオ燃料もあるとしたうえで「2030年以降の成長力を考えれば、太陽光が究極のエネルギー」と期待を語る。太陽電池事業でバリューチェーン構築に走る総合商社で、現状、トップを走っているのは住友商事だ。ノルウェーのリニューアブル・エナジー社(REC)と中国のギガ・エナジーへの出資を通じ、川上の材料分野では多結晶ウエハと単結晶ウエハの両方に足掛かりを構築。REC子会社の多結晶ウエハの販売代理権を取得、シャープに対する07年から5年間の原料供給契約も結んでいる。カナリア諸島の太陽光発電事業では自社で案件開発から地元政府との交渉まで手掛け、ソーラーパークの開発ノウハウも蓄積している。「オセロでいえば四隅は押さえている」と福原氏は自信を示すが、「その中をおカネをかけてやっていくかはまだ悩んでいる」とも。太陽光発電システムの企画や設計、販売を行うシステムインテグレーターやソーラーパークの開発販売を行うデベロッパーといった領域まで参入するか、決めかねているところだ。住商を猛追しているのが伊藤忠と三井物産だ。伊藤忠はもともと繊維関連の製造装置を扱っていた部署が太陽電池の製造装置の販売を、金属関連の部署が太陽電池のフレームや資材の取引を手掛けてきた。06年には太陽電池関連の部門横断組織を立ち上げ、積極的な投資を進めている。06年にはノルウェーのウエハ製造会社ノルサンに出資。今秋にはポリシリコン製造への投資を行う川上領域への投資も行う予定だ。製造装置の販売を通じて太陽電池メーカーとの関係強化も模索しており、薄膜太陽電池の米アセント・ソーラーとは一部出資も含めた事業提携を交渉している。さらにシステムインテグレーターでは07年に米国のソーラー・デポを買収。今年に入って、ドイツ、チェコ、ブルガリアでソーラーパークの開発を行うスカテック・ソーラーにも出資した。ちなみにスカテックとノルサンはRECの創業者ビオセット博士が作った会社だ。伊藤忠は太陽光発電事業もスペインを中心にイタリア、ブルガリアなど複数案件を進めている。「基本的にバリューチェーンを上から下までつなげていく」(金属資源・石炭部門非鉄・金属原料部四居利之部長)と明確な戦略を打ち出している。
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 三井物産は、部材を扱っていた化学品、太陽電池の販売をしていた情報産業、発電所を開発・運営するプロジェクトの太陽電池関連事業を手掛けていた3部門から人材を集め、今年6月にソーラービジネス事業部を設立。このビジネスに本腰を入れ始めた。06年に買収したサンワイズ・テクノロジーズは、米国の住宅向けの太陽光発電システムの卸売りでトップ。07年度の売り上げは100億円を超えており、「サンワイズを米国での事業プラットフォームとして育成を図る。欧州でも同じような機能の会社を持つべく、複数の交渉を進めている」(ソーラービジネス事業部の綱島隆之次長)。手薄な川上領域も「ポリシリコン関連で信頼できるパートナーと組む計画だ」(綱島次長)。 太陽光発電事業では、欧州のみならず日本国内の計画を打ち出しているのも三井物産の特徴だ。 三井物産は同社が運営を受託する羽田空港の国際貨物ターミナルの屋上に薄膜太陽電池を敷き詰めた2メガワットの発電システムを設置、2010年の稼働を目指す。太陽電池設置を前提に建物の設計を行うことでコストを抑制、東京電力をパートナーに加えることで、事業者用価格に対し数円高いだけの料金が実現できる見込み。先行してノウハウをため込むことで、日本国内での太陽光発電の本格普及を見据える。まだ布右の段階 本格化はこれから三菱商事は現状、三菱電機や三菱重工の太陽電池の販売や資機材の調達など売り買い取引が中心。川上の材料から川下の発電事業まで投融資で具体化している案件はほとんどない。太陽電池パネルのJAソーラーへの出資はあるが、数億円、数%の出資でベンチャー投資的な意味合いが強い。 「やや出遅れている」と小島執行役員も認めている。しかし、本音は違うようだ。川上ではシリコン事業への投融資を検討、システムインテグレーションやソーラーパークの開発、発電事業への参入意欲も隠さない。「水面下に案件は多数ある。口で出遅れていると言っているほど出遅れているとは思っていない」(小島執行役員)と追撃に自信を見せる。 伊藤忠の四居部長は「今は仕込みを始めたところ。将来の絵を描きながら布石を打っている段階にすぎない」と現状を表現する。総合商社は、今日も世界中で、虎視眈々と新しい投資のチャンスを探している。(週刊東洋経済)週刊東洋経済 - 情報量と分析力で定評のある総合経済誌(週刊・月曜発売)

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