2008年9月18日木曜日

太陽電池の夜明け 【第1回】FIT制度が普及の推進力に


出典:http://eetimes.jp/article/20605/
 太陽電池が注目を集めている。太陽電池自体は最初期の人工衛星に利用され
てからすでに50年が経過した「古い」技術だ。Si(シリコン)などのpn接合を
利用して発電するという技術の基礎も同じだ。
 その太陽電池市場は、ここに来て急速に膨らんでいる。生産規模の伸びが著
しい。全世界の年産規模は、2002年の500MW(50万kW)に対して、2004年は約
1000MW、2006年は2000MWを大きく超過し、2007年は3733MWに達した。加速度的
な勢いがある。
 市場が膨らんだ主な理由は、政策的な力が働いていることだ。経済的な合理
性によるものではない。従来の火力、水力、原子力発電に比べて太陽電池の発
電コスト*1)は依然として約2倍である。東京電力と契約した場合、基本料金
などを除き、1kWh当たり22.86円で電力を購入できるが、太陽電池を使うと45~
46円かかる。「現在の太陽電池市場は自発的に出現した自由な市場ではなく、
政策主導の人工的な市場である」(資源総合システムで代表取締役社長を務め
る一木修氏)。
 太陽光発電普及の最大の推進力となっているのが欧州を中止に広がる「フィ
ードイン・タリフ」制度(Feed-In Tariff:FIT)である。FIT制度は再生可能
エネルギーを普及させ、技術開発を促すことを意図した制度である。ドイツが
最初に採用し、現在では約50の国と地域に広がっている*2)。FIT制度の目的
は、二酸化炭素排出量の削減と、化石燃料の枯渇を見越して太陽電池などの生
産規模を拡大すること。現在の電力会社が販売する火力発電などの水準まで太
陽光発電の発電コストを下げることを目指す。
 FIT制度の効果は明らかだ。三洋電機によると、2003年に日本市場とほぼ同規
模だった欧州市場は、2007年には日本市場の5倍に成長したという。世界市場規
模が4.5GWに達すると予想されている2010年には日本市場の6倍になる見込みだ。
2010年には、欧州市場は全世界の6割を占めると見られる。
 スウェーデンLund University配下のInternational Institute for
Industrial Environmental Economics(IIIEE)で教授を務めるThomas B.
Johansson氏によると、各種再生可能エネルギーの習熟曲線は、総発電容量と機
器コストを両対数グラフで表現すると直線になるという*3)†1)。太陽光発
電についても発電容量と太陽電池の機器コストは1981〜2000年の期間において、
両対数グラフで直線となっている。この傾向から、全世界の累積設置量が10GW
に達したときに機器コストは2000米ドル弱/kW、そして2007年の約27倍の規模に
相当する100GWでは800米ドル弱/kWを実現できることになる。普及ペースさえ鈍
らなければ、数年以内に火力発電よりも発電コストが安くなる。
 太陽光発電の発電コストと既存の電力会社による従来の電力コストが同一に
なる時点(グリッド・パリティ)はいつだろうか。ドイツのミュンヘンで2008
年6月に開催された展示会「Intersolar 2008」では、2012年や2015年という水
準が話題に上った。「従来の発電方法の電力コストが今後上昇することを考慮
にいれても、2012年は難しいが、2015年はターゲットに入る」(三洋電機のソ
ーラー事業部で事業企画部の担当部長を務める脇坂健一郎氏)。「46円/kWhの
うち、太陽電池モジュール自体の現在の機器コストは半分の23円だ。2010年3月
に稼働する堺工場では、太陽電池モジュールのコストを原価ベースで従来の1/2
に抑える」(シャープで経営管理兼ソーラー事業担当副社長兼堺コンビナート
建設推進本部長を務める濱野稔重氏)。
 ひとたびグリッド・パリティが達成されれば、その後は政府の政策支援がな
くても、従来の発電方法から太陽光発電へと爆発的に置き換わるだろう。
 シャープの代表取締役会長でCEOも務める町田勝彦氏は、「世界の認識は太陽
電池モジュール=石油、太陽光発電所=油田というものだ。太陽光発電所を作
るということは、自国内に油田を掘ることと同じとも言える。海外の政府関係
者から入ってくる商談は、自国に太陽光発電所や太陽電池工場を設置したいと
いうもの。中東からも引き合いがある」と言う(3ページの別掲記事「クリーン・
エネルギー立国目指すアブダビ」を参照)。

【注釈】
*1)太陽電池の発電コストは初期導入費用/耐用年数(約20年)として計算し
 た。なお、太陽電池は導入後にほとんどコストが発生しない。
*2)FITは固定価格買い取り制度とも呼ばれる。ドイツは1991年に
Stromeinspeisungsgesetz制度を開始。2000年に、それを改良したErneuerbare-
Energien-Gesetz制度を導入した。当初は風力発電に力点が置かれていた。2006
年にフランスでの制度改革、2007年にスペインでの導入などを経て現在に至る。
*3)この結果は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)のワーキング・グル
ープでも引用されている。
http://www.mnp.nl/ipcc/pages_media/FAR4docs/final_pdfs_ar4/Chapter04.pdf



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