2008年9月4日木曜日

発電マンの太陽光発電塾:第7回住宅用太陽光発電システムの選び方(パートI)


出典:http://www.nikkeibp.co.jp/style/eco/column/iwahori/080902_select01/2008年9月2日
株式会社 発電マン 代表取締役・岩堀 良弘 氏
~まずは太陽電池の種類と特徴を知ろうの巻~
「住宅用太陽光発電システムのメーカーは色々ありますが、一体どこのメーカーがいいのでしょうか?」よくこんな質問をいただきます。でもなかなか答えにくい質問です。自動車でも「このメーカーが一番良い」とはなかなか答えられませんよね。グレードや用途によって自分に最適な車は違ってきます。太陽光発電システムも同じです。どんな屋根に設置するのか、何に力点を置くのかによって選択は違ってくるのです。最大発電量を重視するのか、あるいはコストパフォーマンスなのか、はたまたデザイン重視なのか…。もちろん屋根の条件によっては、選択肢がほとんどないという場合だってあります。ですから、実際の場面では、専門家にアドバイスをもらいながら、自宅の屋根の状態と自分の好みの各メーカーの特徴などを考慮して、総合的に判断するというのがベストなのです。それを踏まえたうえで、ここでは皆さんがある程度自分で判断する際の参考になるような事柄について、「住宅用太陽光発電システムの選び方」として数回にわたってじっくり勉強していきたいと思います。まず太陽光発電システムを選ぶ際に基本として知っておかなければならないことがあります。それは太陽電池にも色々な種類があり、それぞれ違うということです。一言で太陽電池と言っても、実用化されているだけでも数多くあります。住宅用で主に使われているものはその中の3~4つほどですが、それぞれ特性が若干違います。そこで今回は、そんな太陽電池の特性の決め手となる、“素材について詳しく解説しましょう。
太陽電池の歴史はシリコンの歴史
太陽電池の素材といえば、有名なのが「シリコン」でしょう。世界初の太陽電池も、やはりシリコンでできていました。ここで突然ですがクイズを出します。
【問】 世界で初めて太陽電池が作られたのはいつでしょう?
   (1)18世紀  (2)19世紀  (3)20世紀
答えは、(3)番20世紀です。正確には1954年です。つまり、今から54年前です。
光発電の原理そのものは19世紀に発見されていますが、初めて発電に成功したのは1954年、アメリカのベル研究所のピアソン、シャピン、フーラーといった研究者たちです。当時のニューヨーク・タイムズが「砂の成分から電池を作った」と報道しました。“砂の成分”というのがシリコンのことです。それからわずか半世紀後に住宅の屋根に太陽電池が設置され、家一軒の電気をまかなうことになろうとは、当時の人たちは思いもよらなかったことでしょうね。この太陽電池が1950年代に発明されたことは歴史的必然でもありました。というのも1947年にトランジスタが発明され、トランジスタやダイオードといった半導体産業が産声をあげたまさにその時だからです。当時、半導体は新しい技術として多くの研究者が技術開発にしのぎを削っていました。日本ではそのころテレビの本放送が始まり、また1955年に東通工(現在のソニー)が日本で初めてトランジスタの展示会を開催しています。まさにシリコン時代の幕開けとなる革新的発明が、20世紀半ばに相次いだ訳です。少し余談になりますが、この時の出来事として、「太陽電池」の名前にまつわる面白いエピソードがあります。日本人は太陽光を電気に変えるセルのことを「太陽電池」と呼んでいますが、実はこれは本来なら「誤り」なのです。初めて太陽電池が出来た時、報道発表で、ベル研究所のスポークスマンは専門知識がなく「solar battery」と発表しました。そして日本でもそれをそのまま「太陽電池」と訳したのですが、その後これは“電気を蓄える”のではない、ということで欧米では「solar cell」という呼び名に変更されました。ところが日本ではなぜか訂正されずに、そのまま「太陽電池」という呼び名が定着してしまったという訳です。電気を蓄えないのに「電池」と呼ぶのはおかしいなと疑問に思っていた方もあるかもしれませんが、そんな事情があったのです。さて、話を戻すと、1954年に初めて作られた太陽電池は「単結晶シリコン」という素材を使ったものでした。その後最近まで長い間、太陽電池の研究はこの「単結晶シリコン」を中心に進化してきました。初めて太陽電池が作られた当時は 変換効率は6%程度でしたが、その後約1年後には12%程度まで効率は上がりました。ただし、価格は1Wあたり2万円~3万円もしていたようです(現在の約100倍です!)。この太陽電池、ちょうどそのころ盛んに打ち上げられた人工衛星用として、大いに開発が進みました。しかし価格の高さがネックとなって一般民生用に発展することは困難でした。ところがその後1973年のオイルショックをきっかけに、石油エネルギーの限界が見え始め、再び各国の研究機関から注目を集める存在になっていったのです。
長い実績と信頼性に自信あり!長老ともいうべき単結晶シリコン
では具体的に、それぞれの素材の話に移ります。まずは先に述べたように、最初に太陽電池の素材として使われた「単結晶シリコン」について。“単結晶”とはシリコンの原子と原子が規則正しい結合によって配列しているもので、ごく最近まで単結晶シリコンは太陽電池の研究の中心であり続けました。その理由は単結晶シリコンの特徴にあります。単結晶シリコンは多結晶と比べ発電効率が高く、非常に信頼性が高いのです。そして何よりも耐久性が高く、太陽電池の開発以来、長年培った実績があります。また、その製法がICやLSIといった集積回路の製法と同じ工程のため、作りやすいということもありました。しかも太陽電池の純度はICやLSIほどの純度は必要ないため、以前はこれら半導体用の端材を使って太陽電池をつくっていました。そういう意味で、太陽電池は半導体の発展と共に成長してきたといえます。しかし、太陽光発電システムがいよいよ普及段階に入ってきますと、やはりコストが優先されてきます。単結晶シリコンの太陽電池はこの面でどうしても後述する多結晶シリコンには勝てないのです。というのは単結晶の場合、製造工程が多結晶よりどうしても複雑になるからです。またこの頃になると、それまで単結晶と比べて見劣りしていた多結晶シリコンの発電効率も、様々な技術開発によって向上し、その差が縮まってきました。もともと多結晶のほうがコスト競争力はありますので、今や主役は単結晶から多結晶に取って代わられています。ただ1998年頃を境に単結晶から多結晶へと次第に生産量のメインは移っていったものの、私が太陽光発電システムと関わりが深くなった2000年頃までは、まだまだ単結晶シリコンが主流の一角を占めていました。実際わが家に設置してある太陽電池も単結晶シリコンです。見た目も黒っぽく高級感があって、個人的には大変気に入っています。
コストパフォーマンスならやっぱりコレ!多結晶シリコン
続いては、今や押しも押されぬ主役に躍り出た「多結晶シリコン」の太陽電池です。“多結晶”とは、結晶方位が無秩序で微小な結晶の集合体を意味します。その特徴は何といっても単結晶に比べて安い製造コストです。セル単位での発電効率は単結晶にかないませんが、モジュールに隙間無くセルを並べるなど、様々な技術革新により、モジュール単位での発電効率は単結晶と遜色ないものになってきました。その結果シャープ、京セラ、三菱といった主だったメーカーがこれを主に生産し、もっともポピュラーな太陽電池となっています。ただし、後述するサンヨーの高発電タイプHIT太陽電池への需要の変化や、ここ数年のシリコン高騰によるコスト優位性の下落などから、やや曲がり角にきている感はあります。そこでシャープは薄膜化によるさらなるコストダウンの追及に進み、京セラはデザイン性に特徴を持つなど、それぞれ差別化にしのぎを削っています。まだまだ当分は多結晶シリコンの王座は続くでしょう。
可能性を秘めるアモルファスシリコン
単結晶、多結晶以外のシリコン系素材に、「アモルファスシリコン」があります。アモルファスシリコンは結晶系の素材とは異なり、まったく結晶を作りません。発電効率は結晶系シリコン太陽電池に比べると見劣りします。ただ、製造工程におけるコストが安い、薄膜化が可能、加工がしやすいといった特徴から、安価に量産ができると大きく期待されています。また、一度に大面積の太陽電池を作りやすいという特徴もあります。弱点としては紫外線が当たることによって、発電効率が経年劣化するという不安定さを持っていること。また、まだまだ発電効率が低いため、結晶系シリコンに比べ1.5倍程度の面積を必要とするといわれています。アモルファスシリコンの太陽電池の代表的なメーカーとしては、カネカなどが挙げられます。
実質発電量で勝負!HIT太陽電池
続いて紹介するのが、「HIT太陽電池」。これは単結晶シリコンとアモルファスシリコンを積層形成した、新しいタイプの太陽電池です。1997年、三洋電機によって実用化されました。特徴としては比較的簡単な構造で高い発電効率が得られ、温度上昇による出力の低下が結晶系シリコンに比べ低いということがあります。前回、太陽電池の定格出力は25℃の標準状態の出力というお話をしたのを覚えているでしょうか。カタログ上での太陽電池の性能表示は、あくまで25℃の時のもの。実際の使用場面では、それよりも高い温度で使用されることのほうが多いものです。事実夏場などは、屋根の温度は70度以上の高温になります。HIT太陽電池はこのような高温時の発電効率が比較的高いため、多結晶シリコン太陽電池と比べた場合に、実際の発電量が多くなるのです。多結晶と比べ1日で8.8%多いという実験結果があります。また両面発電が可能であるという特徴もあります。ただし同じ定格ワット数で比べると、価格は若干割高になります。製造メーカーは三洋電機です。
ようやく登場! 化合物系 あのホンダが太陽電池業界に殴りこみ!?
太陽電池の半世紀の歴史のなかで実用化された太陽電池は、ほとんどすべてシリコン結晶系、またはその応用型でありました。しかしようやくここへ来て、“化合物”という新しい素材が実用化されたことは大変喜ばしい限りです。その一つが「CIGS化合物太陽電池」というもので、何とあの自動車メーカーのホンダの製品です。このような他業界からの太陽電池業界への参入には、私たちの期待も膨らみます。この“CIGS”とはC(Cu:銅)、I(In:インジウム)、G(Ga:ガリウム)、S(Se:セレン)という化合物の頭文字をとったものです。シリコンは使っていないので、シリコン価格に左右されることはありません。ただし原料のインジウムは資源量が少なく、そこが今後の製造においてネックになってきます。特徴は数μmという極薄にできるため、省資源で、量産が可能になればコスト的にもメリットが出てきます。また発電素子の構造上、影の影響を受けにくいという特長があります。見た目は真っ黒で当然結晶もなく、結晶系を見慣れた私たちは最初なんとなく違和感がありましたが、若い人はむしろ格好良い感じを受けるのかもしれません。化合物系の仲間では昭和シェルがG(Ga:ガリウム)が入らない「CIS太陽電池」を発売しています。以上、現在太陽電池に使われている、主な素材をご紹介しました。太陽光発電システムを選ぶ際に、これらのどの素材が太陽電池に使われているのかをチェックしてみるのも良いかもしれません。次回は「住宅用太陽光発電システムの選び方(パートII)」として、パワーコンディショナー、表示モニターについて解説する予定です。(2008年9月16日に公開予定のパートIIに続く)

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