2008年9月25日木曜日

特集2050年への革新技術-9豊富なバリエーション武器に/世界一奪還狙う太陽光発電


世界における日本の太陽電池シェアは、およそ4分の1で世界一となる。また、企業別では上位5位のうちの2社が日本企業であるが、日本企業の存在感は大きく低下している(「PV News. 2008.3」を基に資源エネルギー庁が作成)


出典:http://premium.nikkeibp.co.jp/em/report/110/index.shtml

取材・文/岸上祐子

2008年9月22日(月)公開将来性の高い「薄膜系」 低炭素社会の実現に向けて期待が高まる太陽光発電。だが、現在、その発電コストは約46円/kWh(全国平均)であり、経済産業省が2010年の達成目標とする、一般家庭用電力料金並みの23円/kWhと比較すると、まだ2倍の水準にとどまっている。しかも日本は、太陽電池の生産量こそ辛じてトップの座を死守したものの、累計導入量ではドイツに抜かれている。さらなる普及のための技術革新と体制整備が求められているなかで、経産省の「Cool Earth-エネルギー革新技術計画」のロードマップでは、発電コストとして2020年には14円/kWh、そして2030年には7円/kWhをめざすとしている。

 発電コストの低下をめざすなかで現在注目されているのは、第1世代の結晶シリコンの太陽電池と比較して生産コストが低い、第2世代の太陽電池であるシリコン薄膜系太陽電池だ。シリコン薄膜系は単層ではエネルギー変換率が低いが、多層化によって変換率を大きく向上させることが可能となった。

 太陽電池に用いる半導体材料で分類すると、シリコンを使うものとガリウムヒ素(GaAs)などの化合物を使うものに大きく分けられる。また、シリコン系のなかでも、シリコンの結晶をスライス加工してウエハをつくるバルク系と、シリコンをガス化して基板に蒸着させる薄膜系に分けることができる。現在はまだシリコンバルク系が主流だが、「今後、有望視されるのはシリコン薄膜系」と語るのは、太陽光発電研究の第一人者である小長井誠・東京工業大学太陽光発電システム研究センター長だ。

 シリコン薄膜系のエネルギー変換効率はモジュールで10%前後、シリコンバルク系の15%前後に対し変換効率が3分の2程度にとどまっているのが現状。しかし、シリコン薄膜系のシリコン使用量はシリコンバルク系の100分の1にすぎず、急騰しているシリコン価格にも対応できる。また、シリコンバルク系と比べてシリコン薄膜系は製造工程がシンプルで、さらに現状の性能のものであれば、5m2規模の大面積の太陽電池をロール紙のように製造できるという強みもある。

 前出の「Cool Earth-エネルギー革新技術計画」では、超高効率薄膜太陽電池として、2010年の製造コスト100円/W、モジュール変換効率12%に対し、2030年には製造コスト50円/W、モジュール変換効率18%を打ち出している。小長井センター長は、「2050年には変換効率40%をめざしている。材料選択や積層技術の研究余地がまだまだあるが、達成が不可能な値ではない」と力強い。

世界一奪還もくろむシャープ

堺コンビナート太陽光発電施設の最終完成予想図。127万m2の敷地にはシャープの液晶パネル工場などが建設される予定(イラスト提供:関西電力) このシリコン薄膜系に力を入れているシャープは2008年6月、関西電力や堺市と共同で、薄膜型シリコン太陽電池を採用した発電出力約18MW(稼働当初は約9MW)の太陽光発電施設を、大阪府堺市臨海部のコンビナートなどの屋根に設置すると発表した。同じく堺市臨海部に関西電力が建設する発電出力約10MWの太陽光発電所と合わせると、合計28MWで、世界最大の太陽光発電施設となる。この電力は、一般家庭8000世帯で消費する電力にほぼ相当し、年間で約1万tの二酸化炭素(CO2)を削減できる計算になる。シャープは、この発電施設などにシリコン薄膜系太陽電池を供給する新工場を建設、2010年3月までに稼働を予定している。シリコンの入手難から、太陽電池生産量で世界トップの座をドイツのQセルズに譲ったシャープだが、シリコン薄膜系を主力に巻き返しを図り、世界トップを奪い返す意気込みだ。

 太陽光は、紫外線から赤外線に至る広い範囲の波長の光を含んでおり、一つの太陽電池材料でエネルギー変換をしようとすると、熱としてエネルギーを失ったり、透過したりして変換効率があまり高くならない。そのため、それぞれの波長に有効な異なる材料の薄膜を重ねていくことで変換効率をアップさせようと開発が進められている。シャープが力を入れるのも、シリコン薄膜系太陽電池で主流のタンデム型で、ガラスや金属基板にシリコンガスを蒸着させた(アモルファス層)セルに微結晶シリコンの薄膜を重ねることで、これまで利用していなかった赤外線も利用できるようにしたものだ。

 シャープは2008年10月から、葛城工場(奈良県葛城市)でタンデム薄膜系の生産能力を160MWに増強する。さらに2010年4月には、葛城工場や堺工場(大阪府堺市)、そして今後、展開する海外工場をあわせて1GWの生産体制を構築。将来的には、世界全体で6GWのシリコン薄膜系の生産体制をめざす。また、同社は、タンデム型にさらにアモルファスのセルを重ねたトリプル型を開発。この結果、モジュールでの変換効率を8.5%から10%にアップさせることに成功している。

 そして、いま開発が待たれているのが、全ての波長に対応できる太陽電池だ。独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の2008年度「革新型太陽光発電技術研究開発」計画では「変換効率の向上を優先的に取り組む観点から、理論的に40%達成の可能性/筋道が示せる研究開発テーマ」が公募され、東京工業大の「薄膜フルスペクトル太陽電池の研究開発」が採択された。

 「現在の主流であるタンデム型から、重ねる層の数をさらに増やせば、それだけ変換効率アップが期待できる」と小長井センター長。さらに、米国のスペクトロ・ラボ社が、2007年にトリプル型セルでの変換効率40.7%に成功していることを挙げ、「5層のセルで変換効率35%をめざし、加えて太陽光をレンズなどで集める低倍率集光で最終的には40%を達成する」と今後の道筋を示す。

シリコン多結晶系の効率を追求する京セラ 一方、太陽電池を材料で見ると、シリコンの単結晶系、多結晶系、アモルファス(非晶質)系、そしてシリコンを使わない化合物系に分類される。単結晶系シリコンやガリウムヒ素を使った化合物系は、セル単位の変換効率が20%前後と優れる半面、コストが高いのが難点だ。

 そこで、変換効率やコストなどのバランスをはかり、多結晶系シリコンで太陽電池を製造しているのが、世界シェア4位(2007年)の京セラだ。2007年時点でセルベースの生産量は207MWだが、2008年度は年間生産量300MW、そして2011年度には年産650MWをめざす。ソーラーエネルギー事業本部マーケティング部責任者の池田一郎氏は、「日本は住宅用の需要が多いが、海外は大規模発電所などの公共事業用が圧倒的に多い」と語る。製品の約70%は、主にこうした公共事業用として海外へ出荷している。



電極を裏側に設置し、集光面積を拡大した「バックコンタクトセル」を使った太陽電池モジュール(写真提供:京セラ) 京セラでは、現在と同じパネル面積で高い出力を可能にするために、セルの大型化を実現している。従来、150mm×155mmサイズだったセルを、156mm×156mmに拡大。このモジュールで、一定面積でのパネルの設置枚数を減らすことでコスト軽減にもつながった。また、セルの厚みも、昨年度は200μm(1μm=1000分の1mm)だったものから180μmへ薄くすることに成功している。

 さらに同社が力を入れているのが、「バックコンタクト」と呼ばれる技術だ。いままでセルの表面に配置していた電極を裏面に配置することで集光面積を拡大したもので、この技術の導入などによって、多結晶シリコン系のセルの変換効率としては18.5%と、世界でもトップクラスの水準を達成している。すでに、製品の安定性も確保されており、モジュール化に向けて生産性を向上させ、2009年度からの量産開始をめざす。まずは17.5%のものを市場へ投入する予定となっている。

 化合物薄膜系も負けてはいない。昭和シェル石油は、素材に銅(Cu)やインジウム(In)、セレン(Se)を材料としたCIS太陽電池に力を入れる。2011年の年産1GWを目標に、神奈川県の半導体製造装置メーカー、アルバックと共同開発を進めている。すでに2007年には、宮崎プラント(年産20MW)を稼働させており、さらに2009年には同じく宮崎に第2工場(年産60MW)も稼働する予定。着々と化合物薄膜系の増産体制を整え、一気に生産能力を高めようというわけだ。

 また、発電コストを下げる第2世代の太陽電池としては、有機材料を用いた有機系太陽電池などの開発も各社しのぎを削っている。

 小長井センター長は、「シリコン使用量が少ないシリコン薄膜系太陽電池の開発が、現状では最も期待ができるが、化合物系やその他の太陽電池にふさわしい材料の開発も欠かせない」と語る。

過熱する太陽光発電市場 高効率、低コスト化に向け、次々に新しい技術が投入される太陽電池開発だが、普及拡大などを目的に政府も積極策を打ち出している。今年7月に開催された北海道・洞爺湖サミット(主要国首脳会議)に先立って発表された「『低炭素社会・日本』をめざして」と題した通称「福田ビジョン」では、「太陽光発電世界一の座を奪還するため、導入量を2020年までに現状の10倍、2030年には40倍に引き上げることを目標として掲げたい」としている。また、経産省の総合資源エネルギー調査会は今年6月、住宅での太陽光発電の利用拡大に向け、国による設備費用の一部補助や減税の検討を要請する提言をまとめた。さらに先ごろ締め切られた2009年度予算の概算要求では新エネルギー関連として、住宅用太陽光発電システムの導入に対する補助金支給制度を新規事業として盛り込むなど、今年度予算の1.5倍となる約1300億円が計上されている。

 わが国の太陽光発電市場を見ると、「サンシャイン計画」などの技術開発援助や住宅用の補助金制度導入(1994年度~2005年度)で太陽電池の技術を磨き、生産量を大きく伸ばしてきた。1997年に累計導入量で米国を抜きトップに立つと、2004年までの8年間世界一を守っていたが、2005年には急激に市場を拡大したドイツに累計導入量世界一の座を奪われている。とはいえ、日本とドイツ、さらに3位の米国の3カ国で世界の累計導入量の9割(2006年)を占めている。

 一方、生産量を見ると、2007年末時点で日本は920MWで世界シェアの24.6%を占め、世界一を保っている。しかし、同22%(821MW)の中国、同19.8%のドイツ(738MW)と、2位以下の国の猛追により気を抜くことはできない。ここで、トップを守るために求められるのが、変換効率の向上や発電コスト低減と共に、需要拡大策のスピードだ。この数年、世界における、企業別太陽電池生産量の勢力地図の塗り替えはすさまじいものがある。2006年末には上位からシャープ、Qセルズ(ドイツ)、京セラだったものが、2007末年にはQセルズ、シャープ、サンテック(中国)に入れ替わっている。2006年末には10位以内だった三洋電機(5位)、三菱電機(6位)はそれぞれ生産量を増やしているものの順位を下げ、三洋電機は7位に、三菱電機は11位に落ちている。

■日本の生産量は世界の4分の1



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