表1 主な太陽電池方式 *A)GaInP/GaAs/Geという3接合時。
出典:http://eetimes.jp/article/21091/
(2008/09/22公開)
畑陽一郎:EE Times Japan
FIT制度をうまく利用し、太陽電池の普及を進めるには大きく分けて2つの手法がある。まずは大面積/低コストの太陽光発電機器を量産することだ。
もう1つは太陽電池の変換効率、すなわち単位面積当たりの発電量を増やす努力を重ねることである。FIT制度においても、農耕地など有効利用できる土地のタリフは小さく、住宅の屋根などほかの利用形態が見つからない土地のタリフは大きく設定されている。個人住宅の所有者にとって、屋根の面積は貴重な資産だ。太陽電池は屋根の面積を電力(金銭)に変える装置と考えられる。
変換効率が高ければ高いほど、より小さい面積で大きな電力が得られる。このように考えると、「他社製品に比べて変換効率が1/2でも、その製造コストが1/2なら十分競争できる」という考えは通用しにくいことが分かる。「変換効率が太陽電池の命だ。その点は、日本の一般住宅向けにしても、FIT向けにしても同じだ」(三洋電機の脇坂氏)。「大面積製造を売り物にした装置があるが、高い変換効率を実現するために必要な多層膜構造を量産できるのか疑問だ」(シャープの濱野氏)。
変換効率を上げる
このように太陽電池が火力発電と競合するには、製造コストを下げると同時に、変換効率の向上が避けて通れない。
変換効率を上げる手法は様々だ。手法は大きく分けて2つある。(1)変換効率の高い材料や構造を開発すること、(2)多接合(タンデム)を形成することで光を有効利用すること、である。
太陽電池は、材料となる半導体のバンド・ギャップよりもエネルギーが高い(波長の短い)光子を吸収し、電子と正孔の対を生成することで電流を取り出す装置だ。従って、太陽光スペクトルに合致したバンド・ギャップを持つ材料を利用することが前提となる(表1)。単一の化合物では現時点で最も適した材料が、単結晶SiとGaAs(ガリウム・ヒ素)、CdTe(カドミウム・テルル)だ。理論変換効率はいずれも25%を超える。CdTeはCd(カドミウム)、GaAsはAs(ヒ素)という毒性のある元素を使うことなどが理由で、あまり使われていない。現在はSiを使う太陽電池が全生産量の95%を占める。残りの5%弱を占めるのは、First Solar社が採用しているCdTeだ。
Siを利用する場合、変換効率だけを考えると単結晶Siが望ましい。しかし、単結晶Siの製造コストがかさむ。このため単結晶Siを採用した太陽電池は、2007年に全生産量の4割を下回った。
一方、多結晶Siの弱点は変換効率が単結晶Siよりも低いことだ。結晶界面で一部の電子と正孔の対が失われることによる。単結晶Siの25%に対し、試作レベルでは最高変換効率が18.5%(京セラの150mm角セルの場合)、商品では16.5%(同)である。
多結晶Siの変換効率向上のペースは鈍ってきており、20%が1つの山だと考えられている。「多結晶Siは今後、変換効率20%を達成できたときに大型投資を実施する。20%以下の時点で投資するのは意味がない」(シャープの濱野氏)。
三洋電機の太陽電池は、単結晶Siとも多結晶Siとも異なる独自のHIT(Heterojunction with Intrinsic Thin-layer)構造を採る。n型の単結晶Si基板上に、プラズマCVDを用いてアモルファスSiからなるi層とp層を形成する。i層は電子と正孔の対が界面で再結合することを防ぐ役目を担う。
HITではp層とn層の間に不純物を含まないi層を形成することで、22.3%の変換効率を達成したとする(100 mm角セルの場合)*5)。2010年には研究レベルで23 %、量産レベルで22%という目標を掲げる。
そのための手法として、単結晶Si界面の清浄化と、光閉じ込め技術の最適化を進める。HITでは単結晶Si上にアモルファスSi層を成膜する。原子の配列が異なるため、どうしても汚れや欠陥が発生し、電子と正孔の対が失われる。これを低減する。HITでは、i層を追加したことだけでなく、n層表面に製造時に形成される、すきまなく並ぶ直径10μm程度の円すい状の構造を利用する。垂直に入射した光が、n層で斜めに長距離移動すること、n層に入った光が内部で反射したとしても再度乱反射することを利用する。
「円すいの頂上には膜が付きにくく、すそ野には成膜中の余分な材料が残留しやすい。これを防ぐようプロセス技術を改良する。円すい頂点の角度にも工夫の余地がある」(三洋電機の脇坂氏)。
【注釈】
*5)温度特性が良いこともHITの長所だとする。太陽電池の変換効率は国際基準(STC、JIS)に従って表面温度25℃で測定する。しかしながら、屋根に設置した太陽電池の表面温度は70℃を容易に超える。温度が上がることでバンド・ギャップが変化し、多結晶Siでは変換効率が2割低下する。「HITは70℃でも1割しか変換効率が低下しない」(三洋電機の脇坂氏)。
多接合で60%を目指す
太陽電池では、半導体のバンド・ギャプよりも低いエネルギーを持つ光子(波長の長い光子)は全く利用できない。例えばGaAsでは867nm、Siでは1117nmが限界になる。
従って性質の異なるごく薄いpn接合を複数層重ねる多接合が役立つ。最上位にバンド・ギャップが大きく短波長を受ける層、次にそれよりもバンド・ギャップが小さく長波長側を受ける層というように積層すれば、単位面積当たりの変換効率を上げられる。アモルファスSiだけであっても、バンド・ギャップを調整することで多接合化は可能だ。「現時点でもコストを度外視すれば、変換効率40%を実現できる。この値は、太陽電池自動車が実現できるほど高い変換効率だ」(シャープで技術担当取締役専務執行役員を務める太田賢司氏)(図3)。
図3 ソーラー・カー「アポロンディーヌ号」
シャープが製造した変換効率17%の単結晶Si太陽電池セル(出力480W)と水素燃料電池を組み合わせた。走行距離4004kmとなるオーストラリア大陸横断に成功した車体。全長4000mm、重量220kg。玉川大学が製造した。
低コスト化を進める
低コスト化を進めるには、(1)Si原料の安定調達、(2)Si以外の材料の採用、(3)使用するSi材料の低減、という3つの手法がある。
日本企業では、京セラが(1)の手法を採った。同社は2007年にSi材料メーカーと多年度にわたる長期供給契約を結んだ。一方で、「長期契約は材料のコストを下げられず、例えばFIT制度に追従できないと判断した。当社は多結晶Siの長期契約を一切止めた」(シャープの濱野氏)というメーカーもある。
(2)のSi以外の材料では、化合物系として実用化されているCIS(銅インジウム・セレン)やCIGS(銅インジウム・ガリウム・セレン)が有力である。いずれも光吸収層の膜厚は数μmであるため、希少なIn(インジウム)の使用量も「同サイズの液晶パネルの電極に使われる量よりも少ない」(産業技術総合研究所太陽光発電研究センターの化合物薄膜チーム研究員である石塚尚吾氏)。
CIGS系材料を使った太陽電池は、ホンダが量産を開始している。「2007年12月から一般住宅向けに出荷を開始し、現在までに200件を受注した」(本田技研工業の汎用事業本部ソーラーシステム事業企画室で室長営業主幹を務める古川潤一郎氏)(図4)。
図4 ホンダのCIGS系太陽電池モジュール
本田技研工業の子会社であるホンダエンジニアリングが太陽電池セルを製造し、ホンダソルテックがセルを組み合わせたモジュール製造と販売を手掛ける。変換効率は12%である。
CIS系材料を使った太陽電池は、昭和シェル石油と昭和シェルソーラーが、成膜装置メーカーであるアルバックと共同で、2008年7月に量産技術の共同開発を開始した。CIS太陽電池の現在の年産規模は20MWであり、2009年には80MW、2011年には1000MWを目指すとした。ただし、昭和シェル石油の発表は、他社には意外感があるようだ。「発表が唐突であり、量産規模もコメントできないくらい多いと感じる」(三洋電機の脇坂氏)。
一方、上記(3)に挙げたSi材料の低減手法は、さらに2つに分かれる。多結晶Siの基板厚を薄くする方法と、薄膜化を進める方法である。
基板厚の論理は単純だ。Si基板を薄くできれば、部材コストを下げられる。「現在のウエハー厚は180μm。これを薄くすればコスト・ダウンになる。実験室レベルでは50μm厚も可能だが、まだ量産できない。次は160 μmがめどになる」(シャープの濱野氏)。
薄膜化はメーカーによって判断が分かれた。製造コスト自体は多結晶Siよりも薄膜系が下回る。Si利用量自体が薄膜化によって1/100に抑えられるからだ。ただし、成膜装置に多額の投資が必要になる。
このため京セラとシャープ、三洋電機では判断が分かれた。京セラは従来の多結晶Si以外の薄膜Siの計画について何も明らかにしていない。これに対して三洋電機は、現在のHITを継続しながらも、岐阜県にある同社の先進太陽光開発センターで2008年4月に実証研究を開始しており、薄膜Si系ビジネスに参入するとした。一方のシャープは、現在多結晶Siと薄膜系を両立させてはいるが、多結晶Siが中心である。しかし、2010年4月に稼働を開始する堺工場では薄膜Siを量産する。
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