2008年10月6日月曜日

発電マンの太陽光発電塾 /第9回 緊急回!「補助金復活」で導入は進むのか?


(JPEA調べ)


出典:http://www.nikkeibp.co.jp/style/eco/column/iwahori/080930_hojyo/
2008年9月30日
株式会社 発電マン 代表取締役・岩堀 良弘 氏



08年度で90億円、住宅向け太陽光発電の補助金復活!
果たして導入はすすむのだろうか?
2008年9月28日の日本経済新聞朝刊の一面をご覧になった方もあると思いますが、住宅用太陽光発電への補助金復活がいよいよ本決まりになったようです。29日に閣議決定された08年度補正予算案に盛り込まれました。

今回は「太陽光発電の選び方 パートIII」を掲載する予定でしたが、補助金復活が発表になりましたので、予定を変更し、太陽光発電の補助金とそれをとりまく現状について少し言及してみようと思います。

ニュースの概要をまとめると、以下のようなものです。

・太陽光発電システムを購入する1世帯につき1キロワット当り7万円の補助金をだすことが決まった。標準的な設備(3.5kW)では24万5千円が補助される計算
・08年度補正予算案に90億円を計上し、臨時国会で補正予算が成立すれば、今年中にも補助制度を個人が利用可能になる

・補助制度により、家庭での普及促進とそれにともなう温暖化ガス排出量の削減、さらに機器の量産・価格低下を狙う

・09年度予算でも約240億円を概算要求している

・低価格化を促すため、工事費を含む設置費用が1キロワット当たり70万円以下の機器に限る

標準的な機器(3.5kW 約230万円)の約1割をまかなえるということですので、従来の設置に対する補助金という流れは変わりません。

今回の策が満足のいく方策かどうかは意見の分かれるところではありますが、とりあえずは太陽光発電の普及に向け、政府の具体的な動きが出てきたことは喜ばしいことです。

しかし、これによって日本では太陽光発電の普及がどんどん進み、いずれドイツやアメリカを追い越し再びトップに躍り出るかというと、そう簡単には進まないというのが現実です。

太陽電池は世界中で品不足状態が続いている
6月の福田ビジョン以後、様々な補助金情報が飛び交い、太陽光発電の業界は大変な混乱をきたしました。「補助金が出るならそれまで待つ」という契約の一時キャンセルが相次ぎ、業界関係者は頭を悩ましたのです。では、太陽電池モジュールが国内にだぶついて在庫が膨らんだかというと、そうはなりませんでした。それどころか、今だに国内のモジュールは不足気味で、注文しても納期は1カ月~2カ月待ちがざらなのです。これはいったいどういうことでしょうか。

日本の太陽電池の約8割は海外で売られている
まずは次のグラフをご覧下さい。これはここ10年余りの日本の太陽電池の出荷量の推移を表したものです。

(JPEA調べ)
棒グラフの上の部分が海外への出荷量、下の部分が国内向けです。足したものが総出荷量ということになります。

これを見ると国内向けの出荷が2005年をピークに06年、07年と続けてダウンしていることが分かります。05年で前回の補助金が終わっているので、まさに補助金がなくなると同時に国内出荷がダウンしたということになります。05年のピークから07年にかけて国内需要は2/3に縮小してしまったのです。ならば今年から補助金が復活すればまた国内出荷は増えるのか、というとことはそう単純ではありません。

というのも補助金のない空白の2年間に日本の主要なメーカーは市場を海外に求め、すでに国内需要はあてにしていないのです。

07年の一年間の総出荷量に対する海外出荷比率は、77%でした。今年上半期になるとさらにその傾向は強まり、今や85%が海外に出荷されている状況です。
海外で引きもきらない「メイド・イン・ジャパン」の需要
ご存知のように、今はドイツを中心にヨーロッパでは太陽電池の設置が急ピッチで進んでいます。その旺盛な需要を満たすために、日本の太陽電池が続々と海外に出荷されています。太陽電池に関しても「メイド・イン・ジャパン」のブランド力は非常に強く、ものさえあればいくらでもほしい、といった状況です。一昨年中国のサンテックが日本のMSKを買収したのも、中国製のセルを日本で組立てて「メイド・イン・ジャパン」に仕立て上げたいがためでした。

またヨーロッパでは大量に売れるだけでなく、非常に高く売れます。

海外のサイトでは太陽電池の小売価格を見ることが出来ます。
solarbuzz社のHP

このサイトによるとヨーロッパでの取引価格は現在4.69ユーロper wattとなっています。(2008年9月29日現在)

例えば1ユーロが154円とすると、日本円換算では1ワット当り722円で販売していることになります。日本国内でのモジュールの小売価格はワット当りだいたい450円~500円程度ですから、1.5倍程度高く売れるということになります。これではメーカーが海外へシフトするのも無理もないというものです。

メーカーの苦悩~シリコン価格の高騰~
さらに海外シフトを加速させる要因が原料の高騰です。特にシリコン価格はここ数年極度の品不足から慢性的な高値になっています。05年以降、国内メーカーの総生産量が伸びていないのは、ドイツのQセルズなど新興セルメーカーとのシリコン調達競争に負けたのが大きな原因です。日本のメーカーが、国内需要の低迷のため上がり続けるシリコンを買うのをためらっている間に、Qセルズはドイツ政府の固定買取制度(FIT)を後ろ盾に、集まった潤沢な資金を使ってシリコンを買い占めていったのです。今や「生産量はシリコンの獲得量によって決まる」といっても過言ではないのです。日本のシャープなど薄膜技術で対抗しようとしていますが、充分な量産ができるまでには時間がかかります。太陽電池の政策は、国内だけを見ていたら海外との戦いに負けてしまうということです。

太陽光発電が世界で一番安く
売られている国、日本
世界的な視野から見た場合、実は日本の国内で販売されている太陽電池は、既に最も安くなっています。

メーカーは大きな設備投資費用を早く回収するために、できるだけ高く売れる海外へと販売先をシフトします。各メーカーは順次工場の増設を進めてはいますが、原料となるシリコンの調達などを考慮すると、来年以降すぐに総供給量が飛躍的に増えることは考えにくい状況です。

つまり、政策的に補助金を出して需要が増えても、増えた需要を満たすだけの供給が増えるという裏づけがないのです。メーカーにとってはただでさえ品不足のモジュールを、しかも海外で高く売れるのに、わざわざ儲けの少ない日本に回す理由がないという訳です。

国内の供給量が問題
これらの状況を見ていただければお分かりだと思いますが、日本国内で少しばかり補助金を出して需要を増やしたからといって、それで生産量が増え、価格が安くなるといった単純な話ではありません。

もちろん、だからといって私は補助金が全く無駄だといっている訳ではありません。むしろせっかく出してもらう補助金を無駄にしないためにも、少しでもたくさんのモジュールを国内に振り向けて欲しいと各メーカーにお願いしたいのです。

欲しいと言ってくれるお客さんがいるのに何ヶ月も待たせては、またまたキャンセルを招く事態になりかねません。それどころか補助金総額から予定販売数を計算すると、今の出荷量では絶対的に供給が不足する計算になります。需要があるのに設置できないという状況にもなりかねないのです。そんなことにならないよう、メーカーには十分な供給のために努力をしてもらわなくてはなりません。

ただその時に危惧するのは、「値上げ」の問題です。今年も資源の高騰を理由に国内のほとんどのメーカーが値上げに踏み切りました。そのように原油価格やその他資源の価格の動向に左右はされると思いますが、ここぞとばかりに海外との価格差を埋めようと、安易な値上げに動くことだけはやめてほしいのです。

せっかくの補助金が出たことによる割安感がなくなってしまいますし、それではまるで“メーカーのための補助金”になってしまいます。当然、福田ビジョンの「将来にわたって機器代を安く」という精神にも反することです。そのようなことがないよう、政府にもしっかり監視していただくと同時に、私たちもしっかりと目を見張っていなければならないと思います。


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