出典:http://www.business-i.jp/news/flash-page/news/200810130058a.nwc
環境問題への関心の高まりとともに需要が拡大している太陽電池。現在、
世界の主流である結晶系太陽電池に対し、原材料のシリコンを節約できる
「薄膜太陽電池」をめぐる動きが活発になってきた。平成21年度の稼働
に向け、世界最大級の薄膜太陽電池工場を堺市で建設しているシャープは
葛城工場(奈良県葛城市)に増設した新ラインを今月稼働させたほか、三
洋電機も、新日本石油との合弁会社設立に向けて協議に入った。異業種参
入も交えた、“太陽電池バトル”の様相をみせている。
◆
残暑に見舞われた10月1日。シャープ葛城工場の新ラインで生産され
た薄膜太陽電池の出荷式が行われた。できあがったばかりの薄膜太陽電池
パネルが50枚ごとに重ねられ、束がひとつずつフォークリフトによって
大型トラックに積み込まれていく。担当役員の濱野稔重副社長ら約40人
の出席者はハンカチで汗をぬぐいながら、工場を後にするトラックに向か
って手を振って見送った。
薄膜型の新たな生産ラインは、面積がこれまでの2・7倍に相当する1
メートル×1・4メートルの大型ガラス基板を採用したのが特徴だ。葛城
工場の太陽電池の生産能力は結晶系695メガワット、薄膜型15メガワ
ットだったが、薄膜型を160メガワットと10倍強に増強した。出荷式
後の記者会見で、濱野副社長は「これまでの結晶系を主力とした戦略から、
薄膜型を加えた『両輪』で事業を強化していく」と語った。
堺市では最大1000メガワットまで拡張できる薄膜型新工場の建設が
進む。今後、葛城工場で薄膜型の生産技術やノウハウを確立し、堺工場に
移植。堺工場をモデルとして薄膜型の工場進出を検討している欧州など世
界展開につなげるシナリオだ。
シャープは将来的に薄膜型の年産能力を6000メガワットまで高める
構想を掲げている。葛城工場での増産はそのキックオフで、同社の太陽電
池事業の世界展開の成否を占う試金石となっている。
◆
薄膜型が台頭してきた背景には、ここ2年の間に2割以上も価格が上昇
したとされるシリコンの需給逼迫(ひっぱく)がある。高純度のシリコン
は太陽電池のほか半導体向けにも使われるため、争奪戦となっており、脱
シリコンの動きを後押ししているわけだ。
シャープと同様に、結晶系と薄膜型の“両輪作戦”をとるのは、三洋電
機も同じだ。太陽光を電気に変換できる割合を示す「変換効率」で世界ト
ップレベルの「HIT太陽電池」を擁する三洋は、岐阜県安八町で技術開
発を進めてきた薄膜型の量産に向けて動き始めた。新日石と年内合意を目
標に、来年4月をめどとする合弁会社設立の協議をスタートし、22年度
の商品化を目指す。
三洋は、HIT太陽電池にも22年度までに700億円を投じて年産能
力を600メガワット(20年度は340メガワットを予定)に高めたい
考えだが、「HITは三洋単独で、薄膜型は合弁事業化でいく」(駿田和
彦副社長)と割り切っている。
HITは設置面積の狭い住宅屋根向け、薄膜型は広大な遊休地を生かし
た太陽光発電事業向けと「住み分け」を図り、多くのニーズに対応する考
えだ。
9月30日に東京都千代田区のホテルで開かれた記者会見。新日石と設
立する合弁会社への出資比率をめぐり、三洋が過半数を取れるのかどうか
をただす質問が相次いだ。
他社との共同出資は自社の投資負担を軽減できるメリットがある半面、
出資比率次第で合弁会社への発言力が弱くなりかねない。駿田副社長は
「出資比率は今後の協議で検討したい」と繰り返したが、「太陽電池事業
の主権を放棄するわけではない。合弁会社を大きく育てて、事業の柱にし
ていく」と強調した。
携帯電話機事業を京セラに売却するなど“聖域なき再編”を加速させ、
三洋は20年3月期連結決算で4期ぶりの最終黒字を達成している。20
年度から3カ年の中期経営計画で、太陽電池は収益の根幹をなす位置づけ
となっている。
◆
薄膜太陽電池に熱い視線を注ぐのは電機メーカーだけではない。昭和シ
ェル石油やホンダが子会社を通じて、シリコンを使わずに銅やインジウム
といった金属化合物を主成分とした薄膜太陽電池の量産を行うなど異業種
参入の動きも進んでいる。
昭和シェルは、1000億円程度を投じて23年に年産能力1000メ
ガワット態勢を築く方針。三菱重工業も、長崎県諫早市で微小なシリコン
結晶を使った薄膜太陽電池の量産を始めた。
乱戦模様の薄膜太陽電池だが、関係者の間に「22年以降、シリコンの
供給量が増えて価格が下落する」との見方も浮上している。結晶系との変
換効率の差をどれだけ縮められるか、が薄膜型の普及拡大のカギを握りそ
うだ。
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