出典:http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPJAPAN-34496620081024
「太陽電池ビジネスの主導権はパネルメーカーから製造装置メーカーに移った」
という指摘が、業界周辺から多く出ている。
材料を入れると太陽電池が製造できる「ターンキー」と呼ばれる一貫製造ラ
インがでてきたことで、資金さえあれば比較的容易に太陽電池製造への参入が
可能になりつつある。研究開発と製品化で先行してきた日本メーカーにとって、
製品やビジネスモデルの一層の高度化の成否が生き残りを左右する。
<一貫製造ライン、世界各地に導入>
「当社の顧客が前週末、薄膜太陽電池の量産を開始した。画期的な出来事だ」
──。10月17日日本時間朝。国際電話での取材に応じた半導体製造装置で
世界最大手の米アプライド・マテリアルズ(AMAT.O: 株価, 企業情報, レポー
ト)のジョン・アントン・ヴァイスプレジデントは声を弾ませた。アントン氏は
アプライド社製の薄膜太陽電池一貫製造ラインを導入した米太陽電池メーカー、
シグネット・ソーラー社がドイツ・ドレスデン近郊の工場で量産を始めたこと
をロイターに明らかにした。
アプライド社の薄膜太陽電池一貫製造ライン「SunFab(サンファブ)」
は面積5.7平方メートルのガラス基板を使う。他社の薄膜太陽電池の製造ラ
インに比べ4倍近い大型サイズだ。基板サイズが大型ならば、製造が軌道に乗
れば生産効率を高めやすくなるが、製造の難易度は高まる。サンファブから薄
膜太陽電池は本当に量産されるのか。世界中の業界関係者が注目する中で、シ
グネットはサンファブを用いて量産を開始した初のメーカーとなった。太陽電
池製造装置分野に昨年本格参入したアプライドは、既に8カ国11社からサン
ファブの受注を獲得。アントン氏によると、これまでに30億ドル(約300
0億円)分の製造装置を受注したという。
日本にも注目の装置メーカーがある。神奈川県茅ヶ崎市に本社を置くアルバ
ック(6728.T: 株価, ニュース, レポート)だ。半導体や液晶パネルの製造装置
で成長してきた同社は、太陽電池製造装置を今後の成長戦略の柱に置く。注力
するのはアプライド同様、一貫製造ライン。08年6月期は約400億円だっ
た太陽電池製造装置の受注が、09年6月期は700億円に伸びる見込みだ。
アルバック関係者によると、受注の伸びが目立ってきたのは08年4─6月
期。アルバックの製造装置を導入した台湾の太陽電池メーカー、ネクスパワー
社が5月から生産・出荷を開始。アルバック関係者は「ネクスパワーが5月に
量産を始めたことで、(アルバックの装置が)信用できるとの認識が広まった」
と力説する。08年6月期には一貫製造ラインを8ライン受注。09年6月期
は15ライン受注する見込み。半分は中国からの受注で、残りが台湾、韓国、
欧米、日本だという。
<性能、信頼性で日本勢はリードを保てるか>
一貫製造ラインという武器を手にした新興の太陽電池メーカーに対し、日本
の太陽電池メーカーは、太陽光を電気に変える変換効率の高さや、数十年にわ
たる製造実績を踏まえた製品の信頼性や耐久性の高さで差別化を図る構えだ。
変換効率が実用レベルで19.7%と業界最高の「HIT太陽電池」を製造す
る三洋電機(6764.T: 株価, ニュース, レポート)の前田哲弘執行役員は「変換
効率が18%以上の高効率タイプがプレミアム市場。世界で10%から15%
のシェアを確保できるだろう」と話す。設置面積が小さくてもより多くの電気
を取り出せるのが特徴で、住宅の屋根に設置するといった利用方法に適してい
る。三洋のほか米サンパワー(SPWRA.O: 株価, 企業情報, レポート)の製品な
どがこのカテゴリーに入るとしている。
太陽光発電所など大規模施設向けとして期待される薄膜太陽電池は、現在主
流の多結晶シリコン太陽電池に比べて変換効率が低いため、これをどのように
高めていくかという競争が世界で始まっている。今月新しいラインからの出荷
が始まったシャープ(6753.T: 株価, ニュース, レポート)の葛城工場(奈良県
葛城市)で製造する薄膜太陽電池は、変換効率が9%で業界最高水準。アモル
ファスシリコンと微結晶シリコンと重ねた「タンデム型」(2層構造)により
同効率を実現している。2010年3月までの操業開始を目指して建設中の堺
工場では、アモルファスシリコン2層と微結晶シリコン1層による3層構造を
採用し、約10%の効率を実現する計画だ。シャープは東京エレクトロン
(8035.T: 株価, ニュース, レポート)と共同開発した製造装置を堺工場に導入
し、コスト競争力の強化を図る。
太陽電池は実際の使用場面では20年から30年といった耐久性が求められ
る。国内最大手のシャープは1959年に太陽電池の開発に着手し、63年に
量産に成功。同社の濱野稔重副社長は1日、葛城工場で記者団に対し「シャー
プが最初に設置した灯台用太陽電池(1966年、長崎県尾上島)はまだ動い
ている」と長年の実績があることを強調する。
<性能は市場が決める>
アプライド社製の製造ラインを用いて量産開始した米シグネット・ソーラー
が製造する太陽電池は、アモルファスシリコンによる1層構造で変換効率は6
%。アントン氏はロイターに対し、タンデム型を可能にする装置の追加設置な
どで「2009年に9%、2010年には10%に変換効率を引き上げるロー
ドマップを描いている」と述べた。アルバックの装置を使って薄膜太陽電池の
量産を始めた台湾ネクスパワーの変換効率は7%。アルバックはタンデム型太
陽電池の製造が可能になる装置を開発中だという。
アプライド、アルバック両社の関係者はともに、日本の太陽電池メーカーの
技術力の高さを認めており、両社のような一貫製造ラインの装置メーカーが市
場の支配権を握りつつあるといった見方には否定的な反応を示す。一方で、ア
ルバック関係者は、太陽電池メーカーの競争力を分けるポイントについて「投
資規模、判断のタイミング、コストダウンの技術。半導体、液晶と同じだ」と
語った。
ソーラービジネスのダイナミックな市場成長を象徴するような企業のひとつ
が、インドの新興太陽電池メーカー、モーザーベア・フォトボルタイック(モ
ーザーベアPV)だ。同社の数野忠雄副社長は、東京に構えたオフィスでロイ
ターの取材に応じた。モーザーベアPVは、CDやDVDといった光ディスク
製造の世界最大手であるモーザーベア社が06年に設立。アプライド社の一貫
製造ラインをニューデリー近郊の工場に導入し、年内にも薄膜太陽電池の出荷
を開始する計画だ。
数野副社長は「マーケットが何を望んでいるのか。国・地域によって性能や
コストの要求が違う。それに合わせていけばモノは売れる」と語る。日本では
想像しにくい非電化地域が今でも多く残るインド。同氏は「こうした地域では
わずかな変換効率の差よりもよりも、低コストな太陽電池が求められる」と強
調する。
<システム提案、一段の高度技術で差別化を>
ハイテク分野の調査・コンサル会社、ジェイスター(東京都中央区)の豊崎
禎久社長は、半導体や液晶、携帯電話といった分野で起きた日本企業の「負け
パターン」を回避するには、太陽電池単品ではなく、システム提案が重要だと
語る。例えば、企業などが情報を蓄積するデータセンターに太陽光発電、高効
率インバーターなどを組み合わせるといった方法だ。
「システムモジュールとして輸出すると、全てのテクノロジーが一体化され、
(外部が真似できない)ブラックボックスになる。こうしたことをやならいと
シェアやビジネスモデル、技術を守れない」(豊崎氏)という。データセンタ
ーは、企業による情報セキュリティー強化の流れで今後の需要拡大が見込まれ
るが、データを蓄積するサーバーなどのIT機器の電力消費とCO2排出をい
かに抑えるかが課題となっており、太陽電池との組み合わせはそうした課題の
解決につながる。
変換効率が40%から60%と飛躍的に高まる「量子ドット型太陽電池」と
いった革新的なテクノロジーの追及も必要だと豊崎氏は語る。量子ドット型は、
ナノ(10億分の1)メートルレベルの超微細なドット(点)を三次元上に並
べその配列を様々に変えることで変換効率を自在に変えていく技術。シャープ
や新日本石油(5001.T: 株価, ニュース, レポート)などが東大先端科学技術研
究センターと共同開発を進めている。経済産業省によると、欧米でも研究開発
が行われているという。
豊崎氏は「日本は、世界がまだ追従できない最先端分野の技術で追及してい
くしかない。量子ドット型は難易度が高いが、変換効率が高まれば自動車用な
ど新しい用途が出てくる」と語った。商品化すべき時期は2015年ごろがめ
どだとしている。
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