2008年11月9日日曜日

家庭で使う太陽エネルギー-1本命は太陽光よりも太陽熱!?温水器は潜在能力を生かせるか


出典:
2008年10月27日(月)公開膨大な太陽エネルギーをどう活かす? 家庭で利用できる再生可能エネルギーの代表選手は、やはり太陽エネルギーだろう。太陽が創りだすエネルギー量を電力に換算すると、3.85×1023kWになるという。日本の総発電容量が2.40×108kWほどだから、その1600兆倍という、とてつもなく巨大なエネルギー源と言えよう。そのエネルギー密度を大気圏外に打ち上げた人工衛星が実測したところ1m2あたり1.4kWだったそうだ。これが地上に届くまでに大気に吸収されて、地上では1m2あたり1kWになる。地球に到達した太陽エネルギーのほぼ30%は表面で反射して宇宙に返され、残りの70%が地表や水中に吸収される。そのうちの47%が地表で直接熱となり、われわれがすみやすい気温を保ってくれる。残り23%は海水や氷のなかに蓄積されるそうだ。

 地球に降り注ぐ太陽エネルギーの総量は、われわれが地球全体で消費する全エネルギーの1万8000倍にも及ぶと推計されている。見方を変えると、われわれが1年かけて地球上で消費する全エネルギーをわずか30分間で供給できる計算になる。また、太陽の寿命は少なくとも数十億年といわれており、枯渇の心配のないエネルギーと言えよう。

 地球の生命の源は、すべて、この太陽に依存しているといってよい。また、水力や風力も太陽による水循環・風循環の結果によるものであり、石油や石炭などの化石燃料も、元をたどれば太陽エネルギーが創り出したものである。薪などの植物燃料も太陽光による光合成が生み出したものだ。

 このような太陽エネルギーの利用の基本は、熱と光を利用することにある。光としての利用は、日中の明るさがその第一だが、近年、この光のエネルギーを電気として取り出す太陽光発電システムが、世界中で爆発的な普及段階を迎えている。一方、熱としての利用例は発電よりはるかに歴史が古く、農業用水のプレヒーティング(ため池に水を張って水温を上げてから田畑に供給する)や温室などもその一つに数えることができる。また、温水器としての利用は、住宅でも早くから普及していた仕組みである。

 この太陽エネルギーの活用方法について、まず、太陽熱利用から考えてみよう。

年間販売台数80万台から急落した太陽熱温水器 家庭における太陽熱利用は、かなり以前から見られる「太陽熱温水器」に始まり、集熱器を用いて温水ボイラーとともに利用する「太陽熱利用システム」などに発展していった。変わったところでは、「パッシブソーラーハウス」と呼ばれる、建物自体の構造やさまざまな仕組みによって太陽エネルギーを有効に利用し、快適な居住空間を得ようとする住宅もある。以下、それぞれについて見て行こう。

 太陽熱温水器は最もポピュラーな方式で古くから利用されてきた。そのうちでも最も古くから用いられた方式が、「汲み置き式」と呼ばれるもので1950年ごろには、すでに実用化されており、特に農村部での普及は著しかった。汲み置き式の太陽熱温水器は集熱器と貯湯部が一体構造となっており、金属または樹脂製の筒状集熱部に蓄えた水を加熱する方式である。貯湯容量は200リットル前後で、集熱面積は2m2前後がほとんどである。温水温度は、夏は50℃、冬は20℃程度になるが、保温性能が低いために日没後すぐに使用しないと冷めてしまうという欠点があった。風呂専用の給湯用として使用されることが多かったのは、、農村部における農作業後の入浴時間との適合性がよく、それが普及を高めた要因でもあった。

 汲み置き式の保温性能の悪さという欠点を補った製品が「自然循環式」である。集熱部と貯湯部が分かれており、水の温度差で生じる比重差(温かいお湯は軽く、冷たい水は重い)を利用した自然循環作用により、温水を上部のタンクに貯湯する方式である。貯湯部は断熱材により保温されており、汲み置き式に比べると保温性能が高く、風呂以外の給湯にも利用されている。温水温度は夏は60~65℃、冬でも30~35℃になる。太陽熱温水器は当初、汲み置き式が主流だったが、1980年ごろを境に自然循環式が主流となり、現在では、ほとんどがこのタイプになった。


■現在主流の太陽熱温水器は「自然循環式」

「汲み置き式」温水器の欠点である保温性の改善を図った製品が「自然循環式」温水器。温かいお湯は上に冷たい水は下に沈むという現象を利用し、集熱部と貯湯部を分けている


 太陽熱温水器は、2度の石油危機を契機に急速に普及したが、1980年代半ばを境に一転して普及率が低下傾向になった。販売台数がピークを記録したのは1980年で、年間出荷台数は80万台を超えた。ところが翌年には、年間の出荷台数は50万台に急減し、1988年には年間20万台を下回る水準にまで落ち込んだ。以降、若干の盛り返しはあったものの、現在では、年間出荷台数は5万台程度に落ち込んでいる。


■80万台売れた1980年ごろから急減した太陽熱温水器の販売台数

一気に普及するように見えた家庭用の太陽熱温水器人気が急落し、その後も回復しない背景には、家庭におけるお湯の使われ方や給湯設備の高度化にも原因があると考えられる(出所:経済産業省「鉄鋼・非鉄金属・金属製品統計」より住環境計画研究所が作成)


 このような需要の急減は、家庭における給湯設備の高度化と密接に関係している。家庭における給湯は、お風呂に特化していた時代から、台所や洗面所でもお湯を使える温水供給のセントラル仕様が標準とされる時代に移行した。すなわち、お風呂への給湯落とし込み型の使い方と、温水供給システムによる給湯方式とがうまく整合しなくなったために、太陽熱温水器が衰退したと考えられる。加えて、この時代は、二度の石油危機による価格高騰から一転して家庭用のエネルギー価格が低下傾向をたどったことから、太陽熱利用によるコスト効果が小さくなったことも要因となっているようだ。さらに、自然循環型の貯湯槽のデザインが、消費者から敬遠されるようになったとも指摘されている。

効率では太陽光発電より太陽熱利用に軍配 2000年以降は、潜熱型給湯器やCO2冷媒によるヒートポンプ式給湯器( 家庭の省エネルギーはどう進めるか-第2回参照 )など、省エネルギー型の給湯器が相次いで開発・販売され、太陽熱温水器に対する消費者の関心は、さらに低下していった。この時期は、政府の補助金政策と相まって、住宅用の太陽光発電設備のコスト低下が急速に進み、住宅での太陽エネルギー利用と言えば、熱ではなく太陽電池による発電というのが主流といった状況が生まれたことも大きく影響しているようだ。

 しかし、太陽エネルギーの有効活用という点から考えると、太陽光発電のエネルギー転換効率に比べて、太陽熱利用時の熱利用効率のほうが、実は数倍大きい。太陽エネルギーの大きさは、前述のように、条件のよいところでは1m2あたり1kWである。たとえば年間の日照時間が約2000時間の東京では1m2あたり1年間に2000kWということになる。これは、石油に換算すると、約189リットルに相当する。仮に、住宅の50m2の屋根全面に当たる太陽エネルギーを全部利用できれば、年間9.3キロリットルもの石油を節約できることになる。太陽電池による発電では効率が約15~20%だが、熱としての利用ならば30~70%の効率で利用可能である。ちなみに、家庭での暖房・給湯用の熱利用量は石油換算で1世帯あたり年間約740リットルである。したがって、効率を50%とするならば、計算上は、屋根面積が8m2程度あれば太陽熱ですべてを賄えることになる。こうした事実からも、太陽エネルギーの熱利用が、もっと注目されてよいのではないかと考える。



東京ガスが建築研究所と共同で開発中の集合住宅向けの太陽熱利用温水システム。ベランダ格子に取り付けられている四角の黒い板が太陽熱温水器だ ところが、太陽電池の開発は現在も着々と進められている一方で、太陽熱の利用技術の開発となると、たとえば真空管方式の集熱器メーカーがわが国から消えてしまうなど、停滞が目立つ。真空管方式の集熱器を利用しようとすると、中国からの輸入になるそうだ。太陽熱温水器が時代遅れのような捉えられ方をしているのは大変残念なことである。確かに、より魅力的なデザインや、より扱いやすい設備としての開発が遅れていることは否めない。しかし、ぜひ、太陽熱温水器にももう一度「光」を当ててほしいものだ。

 さて、最近の新しい動向だが、東京ガスと独立行政法人建築研究所が共同で開発中の集合住宅向けの太陽熱利用温水システムがある。これは、首都圏の着工戸数の多い集合住宅での太陽熱利用を目的としたもので、集熱器をベランダに垂直に取り付ける構造となっている。このシステムのおもしろいところは、温水の循環ポンプ用の電力を太陽電池で賄おうとしていることだ。ベランダでは、温水パネル設置面積に制約があるが、この応用として、戸建て住宅など、より広いパネル面積を確保できる住宅への展開が図られるならば、さらなる太陽エネルギーの有効活用が期待されよう。このような開発がより活性化するような施策の展開を望みたいものだ。

 次回は、太陽光発電についてご紹介しよう。


中上英俊 氏 (なかがみ ひでとし)
住環境計画研究所 代表取締役所長 慶應義塾大学教授、東京工業大学特任教授ほか

1945年岡山県生まれ。1968年横浜国立大学工学部建築学科卒業後、横浜国立大学大学院工学研究科建築学専攻修士課程修了、東京大学大学院工学系研究科建築学専門課程博士課程修了。同年、住環境計画研究所を創設し現在に至る。工学博士。

役職としては、日本エネルギー学会理事、ESCO推進協議会副会長。政府機関の委員としては、経済産業省総合資源エネルギー調査会委員として需給部会委員・省エネルギー部会部会長代理・新エネルギー部会委員、環境省中央環境審議会臨時委員として地球環境部会委員・総合政策・地球環境合同部会委員、国土交通省社会資本整備審議会・住宅建築物省エネルギー部会委員ほかを務める。

共著書に『エネルギー新時代─“ホロニック・パス”へ向けて』(省エネルギーセンター)、『地球温暖化問題ハンドブック』(アイピーシー)『地球時代の環境政策』(ぎょうせい)など多数。専門分野はエネルギ-・地球環境問題、地域問題。




0 件のコメント: