2008年11月9日日曜日

【22世紀ビジネス】第1部 地球再生 未来映す太陽光発電


出典:http://www.business-i.jp/news/ind-page/news/200810270026a.nwc
■寿命50億年 あふれる“パワー”

資生堂は米国ニュージャージー州の化粧品工場の屋上に3500枚の
太陽光パネルを設置。工場電力の一部を賄っている。

 最も将来性の高い再生可能エネルギーとして各国で実用化が進む太陽光発電。
欧米の先進普及国に比べて後れを取っていた日本だが、赤信号が灯り始めた二
酸化炭素(CO2)削減計画や原油暴騰騒ぎをきっかけに、官民挙げた巻き返
し作戦が動き出した。
 電力業界は2020年度に全国30地点に合計出力14万キロワットの発電
所を導入するほか、電機メーカーも国内外で建設を進める。太陽光発電の普及
が加速すれば、世界のエネルギー需要の9割を支えてきた石油や石炭など化石
燃料に依存したエネルギー構造が大きく塗り替えられる。

 ◆家庭4万戸の電力
 国内のCO2排出の約3割を占める電力10社が導入を予定する出力14万
キロワットの太陽光発電所が完成すれば、一般家庭4万戸の1年分の電力を賄
える。また約1万3500世帯が年間に排出するCO2を削減できる。
 関西電力はシャープと共同で大阪府に発電出力1万8000キロワットの設
備を建設しているほか、単独でも11年度に1万キロワットの設備を建設予定。
九州電力は福岡県大牟田市に出力3000キロワットの設備を10年度に稼働
させるほか、北海道電力も20年度までに道内に出力5000キロワットの太
陽光発電を建設する。
 東京電力は、三井物産と共同で10年10月開業予定の羽田空港国際線地区
貨物ターミナル(東京都大田区)に出力2000キロワットの設備を設置。さ
らに、川崎市と共同で川崎市川崎区の浮島、扇島地区に合計約2万キロワット
の発電施設を建設する。一般向けに電力を供給する大規模太陽光発電施設とし
ては国内最大となる見通しで、09年度に着工し11年度の稼働を目指す。
 国は、一段のCO2排出抑制に向け、太陽光発電の国内導入量を05年度の
約142万キロワットから30年度には40倍へ引き上げる目標を掲げる。電
気事業連合会の森詳介会長(関西電力社長)は「国は導入量の拡大目標を示し
ており、自治体や企業の今後の採用動向を見極め導入拡大の検討を進める」と
説明している。
 一方、シャープや京セラなど太陽光パネルメーカーは、海外での発電所建設
に乗り出している。シャープはイタリアの現地エネルギー大手と連携して合計
出力16万1000キロワットの太陽光発電所を建設。完成すれば現行では最
大のスペインの太陽光発電所(6万キロワット)を上回り、世界最大となる。
 南欧州では太陽光で発電した電気を電力会社が長期間、固定価格で買い取る
ことを義務付ける制度で需要が急拡大。しかし、太陽光発電先進国のドイツで
は、この新規買い取り価格が毎年5%ずつ減額されるなど、優遇措置の減額で
需要が減少する可能性もある。

 ◆エネ構造塗り替えも
 太陽光発電の導入に熱心なのは先進諸国だけではない。原油で潤う中東各国
のほか、中国やインドなど新興国でも太陽光発電が相次ぎ建設されている。残
り寿命70年弱といわれる原油など石化資源に代わる再生可能エネルギーを手
にしたいのは各国同じ。残り寿命が50億年と無限に近い太陽の光は、世界の
エネルギー構造を変え得るエネルギーに満ちあふれている。
                   ◇
 ■普及のカギ握る「変換効率」
薄膜太陽電池パネルの基板投入工程=シャープの葛城工場
 太陽光発電の最大の弱点であり、普及のカギを握るのが変換効率だ。太陽の
光エネルギーをどれだけ電気エネルギーに変換できるかという比率で、半導体
で構成される発電素子(セル)や組み込んだモジュールの変換効率を表すが、
現在は9~20%ほど。熱エネルギーを50%近く電気に変換できる石油に比
べ、効率の低さがコスト高につながり普及の足かせとなっている。研究機関や
メーカーが研究開発に躍起になるのは、画期的な技術で高い変換効率を達成す
れば、未来の需要を独り占めすることも可能だからだ。
 シャープは、結晶シリコンより変換効率こそ低いが低コストの薄膜型太陽電
池の生産能力を2016年までに現在の40倍の6ギガ(1ギガは10億)ワ
ットに拡大する計画だ。変換効率は現在9%だが、09年度稼働する堺工場で
は10%に引き上げる。
 三菱電機は3月、実用的な150ミリ角サイズの多結晶シリコン太陽電池セ
ルで世界最高の光電気変換効率となる18.6%を達成した。受光面の低反射
化や接合面への受光量増大などの独自技術で効率アップを実現した。
 三洋電機は昨年6月、100平方センチ以上の実用サイズの結晶シリコン系
太陽電池セルの変換効率では研究レベルながら世界最高の22.0%を達成。
素材の改質やセル加工技術などを改善。現在、量産品への適用を目指す。
 米ロチェスター大学の研究チームは9日、太陽光を構成するさまざまな色ご
とに最適な変換効率の素材を用いて50%まで変換効率を高めたと発表した。
 1平方メートル当たり5万~7万ドル(482万~675万円)と高価だが、
今後の太陽光発電の可能性を示す成果といえる。
                   ◇
 ■待ったなし 発電コスト低減
 政府は太陽光発電の国内普及目標を2020年に1400万キロワット、3
0年に5300万キロワットに設定した。5300万キロワットの発電量は、
日本最大の柏崎刈羽原子力発電所6基以上の規模。現在の国内総発電料の3分
の1を賄う東京電力の半分が太陽光発電に置き換わる計算だ。
 二酸化炭素(CO2)排出抑制に現在、最も有効なのは可能な限り石化燃料
を太陽光発電に置き換えることだが、発電コストの低減が最大の課題。原子力
発電の発電コストは1キロワット時当たり5~7円なのに対し、太陽光発電は
47円前後とまだ差は大きい。政府は家庭用太陽光発電の導入費用を10%程
度補助する支援策を再開する。普及のすそ野が広がれば量産効果も期待できる
が、本格普及を後押しするには技術革新が不可欠。市場拡大は22世紀まで続
くのが確実。世界の太陽光発電メーカーに伍(ご)して環境技術立国を目指す
なら一層の研究開発推進が急務だ。


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