出典:http://www.business-i.jp/news/special-page/jidai/200811130004o.nwc
■独自技術を堅実に展開
「太陽電池事業を熊本から世界に向けて発信したい」
昨年11月12日、熊本県大津町のホンダ熊本製作所。ホンダの全額出資子
会社で太陽電池事業を手がける「ホンダソルテック」の開所式で、福井威夫社
長は力強く宣言した。同事業にはシャープや京セラなど、世界に冠たる国内メ
ーカーが顔をそろえる。自動車メーカーとして初めて太陽電池を事業化したホ
ンダだが、最後発だけに他社との差別化が大きなカギとなった。
ホンダの太陽電池との「出会い」は20年近く前。豪州を縦断する世界最大
のソーラーカーレース「ワールドソーラーチャレンジ」への参戦だった。19
93年、96年と連覇を果たすが、肝心の太陽電池は他社製だった。その当時、
本田技術研究所の基礎技術研究センター(埼玉県和光市)で、将来技術として
航空機やロボットと並んで模索されていたのがエネルギー分野。「他社とはま
ったく違う太陽電池を作ろう」。そんな機運が芽生え、高まっていった。
◆CO2排出量も半減
「世界初」「独自技術」…。ホンダのDNAともいえるこうしたキーワード
が太陽電池事業でも遺憾なく発揮されることになった。太陽電池の素材として
選んだのは、主流となっているシリコンではなく、銅やインジウム、ガリウム
などの金属化合物「CIGS」。電池の厚さを従来の80分の1に抑え、材料
使用量を減らすとともに、製造工程での二酸化炭素(CO2)排出量も半減で
きる点が売り物だ。
基礎研究のスタートからおよそ10年もの年月を経て事業化された太陽電池。
もう一つのカギは慎重さだった。「まずは市場を勉強して、量より質を追求し
ようと考えた」。ホンダソルテックの数佐明男社長は手堅い戦略の理由を明か
す。ホンダの年産能力は27.5メガ(1メガは100万)ワット。07年の
世界の太陽電池生産量が約2800メガワットだったことを考えれば、規模は
0.1%にも満たないというごく小さなものだ。さらに当初の事業展開は日本
国内、それも個人住宅向けのみにとどめた。
需要だけを考えれば工場や公共施設などの産業用のほうが引き合いが強いう
え、利益率も高い。さらに、欧州は日本より環境意識が高く、太陽電池導入に
積極的だ。それでも、新興市場に進出する際にまず二輪から始めて、市場の
“クセ”をつかみ、後に四輪に進出するという「ホンダ式」を太陽電池でも貫
いた。個人向けのほうが顧客のニーズを把握しやすく、品質やアフターサービ
スの力も磨かれるからだ。
こうして地道に事業基盤を固めたホンダ。先月24日からは産業用にも進出
し、本格販売をスタートした。陸上の三段跳びでいえばようやく「ホップから
ステップ」に移行したことになる。今後は発電能力20~100キロワットと
いった大型システム(戸建て住宅は1軒3キロワット程度)を企業などに販売
する。
◆ステップからジャンプへ
さらに、「ステップからジャンプ」も視野に入ってきた。数佐社長は「価格
競争力と発電効率なら負けない。海外でも競争力があるかを今後検証する」と
意欲を見せており、近い将来は欧米へ輸出する公算が大きい。
日本国内でも、太陽電池の導入規模を2030年に現在の40倍に引き上げ
る目標を盛り込んだ政府の地球温暖化対策(福田ビジョン)が大きな後押しに
なりそうだ。
「当社は毎年2000万基ものエンジンを生産している。化石燃料を使わな
いエネルギーの開発は自動車会社の責務だ」(福井社長)
将来は太陽電池で作った電気エネルギーで水を分解し、取り出した水素で
「CO2ゼロ」のクルマを走らせるという壮大な“未来予想図”も描いている。
◇
【メモ】
ホンダの太陽電池には主流のシリコンでなく、「CIGS」という金属化合
物が使われる。銅、インジウム、ガリウム、セレンの頭文字をとったもので、
昭和シェル石油も量産を開始した。半導体と太陽電池の双方に使われるシリコ
ンは品不足が続いており、供給不安の少ないCIGSの注目度は高い。ただ、
シャープなどはシリコンの使用量を減らせる「薄膜型」も展開する。太陽電池
市場は大きく飛躍する可能性が高いだけに、各社が素材や技術を競う。
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