2008年7月11日金曜日

ニッポン太陽電池産業が地球を救う?



http://monoist.atmarkit.co.jp/feledev/articles/siliconeswatch/12/siliconeswatch12a.html
豊崎 禎久 ジェイスター株式会社 代表取締役 2008/6/30
半導体やエレクトロニクスに関係したトピックは、その背後に企業や国家の世界的な駆け引き、覇権争い、長期戦略が複雑に絡み合っており、国際的な視野なくして理解できない。ハイテク産業で第一人者のアナリストを筆者に迎え、最新ニュースの裏を読むコラムを毎月お届けする。(編集部)
今回の半導体ウォッチは、地球温暖化と密接に関係している食糧危機の問題をニッポンのハイテク技術によって、これらをいかに克服するかという壮大なテーマを、これから2回にわたって読者の皆さんと真剣に考えてみたい。
●地球規模で発生している気候変動
 この数年、巨大台風や竜巻などのニュースをよく目にするようになった。地球温暖化による環境の変化が、これらの大きな気候変動を引き起こしているともいわれる。2004年に製作された「デイ・アフター・トゥモロー」やノーベル平和賞を受賞した元アメリカ副大統領アル・ゴア氏の「不都合な真実」などは、地球温暖化問題に対する警鐘である。これらの映画で描かれた世界を、単なる「映画の中の話」として見るか、それとも地球の未来像の一つとしてとらえるのとでは大きな差がある。事実を事実としてとらえて将来を見通す力が、いまわれわれには必要だ。2005年、米国南東部を大型ハリケーン「カトリーナ」が襲った。このハリケーンでは多くの被災者を出した。2007年6月、欧州で異常気象が発生したことも記憶に新しい。また、2008年5月には、ミャンマーに大型サイクロンが上陸。災害による死者・行方不明者は13万3000人に上るという。2008年6月には、アメリカ各地に連続的なトルネードが発生し、世界各国でさまざまな気象変動の現象が表れ始めている。
●関連情報
ハリケーン「カトリーナ」被災者、仮設住宅閉鎖でホームレス化の恐れも(AFPBB Newsより)
http://www.afpbb.com/article/disaster-accidents-crime/disaster/2368663/2768206
欧州各地で異常気象、英国では洪水で死者(AFPBB Newsより)
http://www.afpbb.com/article/disaster-accidents-crime/disaster/2244836/1722788
ミャンマーのサイクロン被害、死者・行方不明者13万3000人超(AFPBB Newsより)
http://www.afpbb.com/article/disaster-accidents-crime/disaster/2392036/2933928
暴風雨に竜巻、熱波、降雪 米国各地で異常気象(CNNより)
http://www.cnn.co.jp/usa/CNN200806120017.html
人類存亡の危機を救うのは日本のテクノロジー
 地球温暖化の問題は、エネルギーだけでなく、食糧問題にまで飛び火している。食糧と水に関する問題は、人類が生存するうえで避けては通れない。当社(ジェイスター)の世界半導体予測シナリオどおり、穀物価格の急騰を受け、パンや米を買えなくなった市民たちの抗議デモや暴動がアフリカやフィリピンなど、世界各地に広がっている。現在の穀物価格の高騰は、世界食糧計画(WFP)が行う食糧支援にも、大きな影響を与えている。食糧自給率が39%(エネルギー自給率は4%)である日本も無関係ではいられない。食糧問題は、国家安全保障に直接かかわる問題である。仮に、第三国に海上封鎖をされた場合は、どうなるのか? 現在の日本は強いリーダーシップがあるとはいえないし、強い外交力があるともいえない。同じ小国でありながら、クラスター爆弾全面禁止の交渉に臨んだフィンランドは対照的に外交能力が非常に高いことが分かる。日本国の未来は果たしてあるのか? 結論を先に述べてしまうが、これらの地球的規模での人類存亡に問題を克服するには、日本の技術者とテクノロジーであるとジェイスターでは考えている。
●関連情報
食糧危機:きしむ世界/1(その1) 暴動で政権倒れたハイチ(毎日jpより)
http://mainichi.jp/select/world/news/20080602ddm001030082000c.html
クラスター爆弾「全面禁止」 日本も条約案容認へ(asahi.comより)
http://www.asahi.com/international/update/0529/TKY200805290033.html(現在は閲覧不可)
目指すべきは「偉大なる小国ニッポン」(本連載6回目より)
http://monoist.atmarkit.co.jp/feledev/articles/siliconeswatch/06/siliconeswatch06a.html
低炭素社会作り実現こそが日本産業復活につながる2007年5月日本政府は、「クールアース50」において、世界全体の温室効果ガス(CO2)排出量を現状に比較して、2050年までに半減させるという長期目標を掲げた。
●その基本理念は、次の3つである。
1.カーボン・ミニマムの実現
2.豊さを実感できる簡素な暮らしへの志向
3.自然との共生
 この社会実現をするためには、イノベーションの促進や産官学の協力体制の確立が必要になる。ビジネスを絡めたテクノロジー開発は政府政策であり、産官のスキーム作りは必須である。低炭素社会を実現するために、産業分野では、環境負荷の少ない商品の提供、環境負荷を削減するための新サービスの提供など、日本企業が果たす役割は大きい。このようなスキームを促進するためには、個別の企業(業界)でのCO2削減の対策だけでなく、産業セグメント(事業ごと)規模でも、社会全体のCO2削減に寄与する側面について正しく評価し、産業界を支援する仕組みを構築していく必要がある。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書では、気温上昇による生態系の変化や、農業や林業、水資源に与える影響などが指摘されている。日本政府の地球温暖化問題に関する懇談会が2008年6月16日にまとめた提言では、低炭素社会の実現を目指して、「技術、エネルギー、資金、社会(制度)それぞれにおけるイノベーションが不可欠である」としている。2050年の温室効果ガス半減に向けて、低炭素社会転換の必要に迫られている。その一端を担うのが太陽光発電だ。経済産業省は2030年までに発電効率40%超を目標に、産学連携で太陽光発電の研究開発拠点を新設するという。また、太陽光発電の普及に向け、補助金制度や優遇税制の検討など新エネルギー政策をまとめた(ドイツの太陽光発電市場拡大の理由は、フィード・イン・タリフ(FIT)政策による)。福田康夫首相が2008年6月9日に発表した地球温暖化の総合対策(福田ビジョン)を受け、2008年6月24日に総合資源エネルギー調査会の新エネルギー部会で提言が発表された。太陽光発電の導入量を2020年までに、現状の10倍、2030年までに現状の40倍に引き上げるべく、太陽光発電の導入を促す補助金を検討している。これは、われわれを含めたロビー活動の成果が表れているのかもしれない。この政策は、日本の太陽光発電産業を強力に後押しするものである。しかし、この政策に甘えてはいけない。日本のエレクトロニクス企業の習性は、「引きこもり型」であるので国内のビジネス基盤を固め、テクノロジーを磨きつつ、グローバル市場に進出しないと、日本の携帯電話のようにガラパゴス携帯電話(太陽電池)になってしまう。この政策はあくまでも、国際競争力強化の秘策ということを産業界と企業、消費者は理解しておくべきである。
●太陽電池産業はバブルの最中、今後は競争が激化する
 すでに世界の太陽光発電産業は、バブルの中にある。このバブルは弾けないが、新規参入による企業競争が激化する。日本の太陽光発電産業の急成長の抑制要因と考えられるのが電気安全環境研究所(JET)の存在である。JETは日本国内向けの電化製品などを認証する機関である。試験、検査を行うがそこで出現した不具合などの問題を製造元にフィードバックできていない。製品開発のスピードを向上させるには、このフィードバックが不可欠である。ジェイスターの提案としては、同研究所は太陽光発電など商品(半導体デバイス含む)の評価を迅速に行い、仮に認定試験の評価に問題が発生した場合は、企業側に不具合モードの情報開示と改善アドバイスを行い産業を強化する立場に立っていただきたい。図1は、ジェイスターの世界電力/太陽光発電の予測である。太陽電池による発電量を世界電力生産量の1%、10%、100%という3つのシナリオを軸にしている。太陽電池による発電量は2040年まで、右肩上がりで成長する。2040年には、世界全体の発電量のうち約20%を太陽電池が占める見込みである。30年間リセッションがなく、経営リスクの少ない魅力的な市場である。しかし、革新的な技術を生み出せない戦略なき企業はコスト競争力という面で淘汰されていくことになる。

図1.世界電力生産量/太陽光発電生産量の予測(出典:ジェイスター)
「太陽光発電業界は、5年以内にグリッドパリティ(発電と送電に掛かるコストと電力売上が同等)を達成するだろう」との予想を米Deutsche Bank Securities社のシニアアナリストStephen O'Rourke氏が発表したという。加えて同氏は、「太陽光発電はいまでは自立した産業であり、グリッド電力コストと一致する地点に達すれば爆発的な伸びを見せるだろう。太陽光発電は約半世紀も存在している最も古い新産業だ」と話したという。太陽光発電に採用される技術は、半導体・液晶技術の応用であり、微細化を必要としない。微細化こそハイテクという日本の技術者が信じている常識を覆すものである。これはローテクこそ、成長するハイテク産業であることを証明している。
関連情報:IPCC 第4次評価報告書(気象庁Webサイトより)
http://www.data.kishou.go.jp/climate/cpdinfo/ipcc/ar4/index.html
「低炭素社会実現」提言受け 首相が行動計画策定を指示(北海道新聞より)
http://www.hokkaido-np.co.jp/news/politics/99170.html
太陽光発電:5年後にグリッド電力と競合へ(Semiconductor International Japanより)
http://www.sijapan.com/issue/2008/05/lo86kc0000001bh8.html
「太陽光発電のコストを半分に」(EE Timesより)
http://www.eetimes.jp/contents/200803/32365_1_20080319194926.cfm
太陽光発電の研究開発拠点、6月にも新設――経産省(NIKKEI NETより)
http://eco.nikkei.co.jp/news/nikkei/article.aspx?id=MMECn1984629042008
太陽光発電、3―5年で価格半減へ 経産省が新政策発表(NIKKEI NETより)
http://eco.nikkei.co.jp/news/nikkei/article.aspx?id=AS3S2302K%2024062008
電気安全環境研究所
http://www.jet.or.jp/disclose/index.html
●大きく様変わりしようとしている、太陽電池市場の動向
 2004年までは、セル生産量も太陽光発電の導入量も世界一であった日本だったが、ここ数年はドイツのQ-Cellsを筆頭に海外メーカーに圧倒され、日本メーカーのシェアは急速に低下している。2006年の世界太陽電池生産量は、2520MWであった。図2は、太陽電池シェアデータで最も精度の高いPV Newsの2007年の太陽電池生産シェア(速報値)である。シャープは2007年累計値でついに世界第1位のポジションをQ-Cellsに追い抜かれ、中国Suntech、台湾MOTECHにも太陽電池ビジネスをキャッチアップされ、京セラや三洋電機など日本勢は総崩れの状況である。これは、半導体や液晶産業と同じ負け組の構図である。

図2 2007年太陽電池生産シェア(出典:PV News公のデータを基にジェイスター作成)
太陽電池市場におけるドイツの成長要因は、2004年に導入した固定買取制度(FIT)である。事業所や家庭が太陽電池で発電した電力を、電力会社が決まった期間(長期)固定料金で買い取るよう義務付けた制度だ。通常この制度で買い取られる電力は、市場価格より高く値付けられている。このモデルは「太陽光発電」が投資となっている。海外メーカーの強さとして、資材調達が優れていることが挙げられる。これは携帯端末のNokia社と同じ負け構図がこの市場でも日本企業に顕著に表れている。筆者が何をいいたいのか? 本連載でも取り上げているが、戦略的資材調達が重要なのである。資材調達には、取引先に関して戦略パートナーとしてのポジショニングを明確にすること、相手側にも適切な利益を渡すことが必要であるということである。日本メーカーは原材料である多結晶シリコンの調達でつまずいた。シリコンの需要が増えたため、シリコンメーカーへ前払い金支払いや長期契約が行われるようになったが、日本メーカーはこのスキームについていかなかった。そして、シリコンの価格が高騰、十分な量を確保することができなかった。現段階では、発電効率競争の技術で負けたわけではないのである。よって、巻き返すチャンスはある。しかしながら、日本の技術者は良いもの作りたいという技術志向が強く、グローバル視点の戦略マーケッターの視点が完全に欠如している。日本市場は、設置面積の制限があり、特に狭小住宅の場合、発電効率は重要であるが、欧州や中東など地域は、多少の品質低下分はシリコンの面積で発電量を増やせばよいのである。日本メーカーは発電効率をあまりにも重視してしまった。ここに、日本勢がシェアダウンした理由が隠されている。品質重視というよき日本企業の常識的考えが、世界では通用しない非常識となっている。ジェイスターでは、グローバル市場でのビジネス獲得のためには、非常識の中にこそ、企業成長の材料があると考えており、読者の皆さんも一度時間を取って考えてみてほしい。しかし、日本太陽電池メーカーのシェアダウンは、企業のみの問題ではない。そこには国の失策がある。2003年、住宅向け設置補助金の打ち切りを決めた。これによって国内の需要が落ち込んでしまった。ここにも原因の一端がある。先に述べたようにようやく日本も再度補助金を導入する方向で調整している。電力グリッドは、社会インフラの基幹電源であり、国の政策と産業活動が連動しなければ、グローバル市場の中で国際競争力を維持しつつ企業存続はすることは難しい。後編では、拡大する太陽電池市場で日本が進むべき道を解説する。
●関連情報
日本の太陽電池メーカー自滅の原因はエネルギー政策の失敗(diamond.co..jpより)
http://diamond.jp/series/industry/10015/
松下と三洋が提携案、将来の経営統合も(YOMIURI ONLINEより)
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20080427-OYT1T00715.htm(4月26日の記事、現在は閲覧不可)
混沌とする2008年世界半導体市場その先行きは?(本連載11回より)
http://monoist.atmarkit.co.jp/feledev/articles/siliconeswatch/11/siliconeswatch11a.html
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http://monoist.atmarkit.co.jp/feledev/articles/siliconeswatch/13/siliconeswatch13a.html
●急速に進む太陽電池市場の拡大
 前回述べたように、太陽電池市場を巡る状況は大きく様変わりし、日本内外でめまぐるしく市場動向は変化している。主だった動きを見てみよう。Q-CellsがシリコンメーカーのノルウェーREC Scanwaferに出資。そして、REC Scanwaferは2006年に住友商事と長期大型売買契約を締結した。ここで調達された多結晶シリコンはシャープに販売される。また、三洋電機は、太陽電池事業が他社に買収される可能性が出てきたとの声もある。松下電器と三洋電機の経営統合の噂話もこれが背景にある。筆者が皆さんに知っていただきたいのは、いま、太陽電池ビジネスは「資金さえあれば、太陽電池を大量生産できる」状況であり、それゆえに市場に次々と新たなプレーヤーが参入してきているということである。米Applied Materialsやアルバックなどの製造装置メーカーによる手厚いサポートもある。太陽電池(薄膜系)製造装置一式を納入するだけでなく、製造技術のコンサルテーションのサポートもある。新興企業が大躍進している理由はここにある。資本と安い労働力があれば、世界のどこでも高品位な太陽電池が作れるのである。2011年まで半導体市場は、ダイナミックな成長がなく低迷する。半導体・液晶と太陽電池の製造工程は共通点が多く、技術を転用しやすいため、リソースも共通化できる。従って、製造装置メーカーは激戦区の液晶に次ぐ高い収益源として、環境ビジネスに大きくシフトをするだろう。
●関連情報
REC Scanwaferとの太陽電池用シリコンウエハーの長期大型売買契約締結について(住友商事Webサイトより)
http://www.sumitomocorp.co.jp/news/2006/20060919_124518.html
●知的財産の分析から見る太陽電池
 IPB社は、太陽電池市場に参入する日本企業の技術競争力を特許の質と量の両面から総合的に評価した「出願人スコアランキング」を発表している。図1のバブルチャートは、この分析結果である。この報告書は、「IPB特許・技術調査レポート -特許の質と量から見る競合企業分析:太陽電池-」内に分析されており、この出願人スコアは、各出願人が出願した特許の総合力を測るための指標で、同社が独自開発した特許自動評価システム「IPBパテントスコア」により算出し、出願人ごとに抽出/合算したものである。同社の分析によれば、出願人スコアランキングでは、1位はシャープ、2位はキヤノン、3位は三洋電機となった。IPB社によれば、シャープは結晶シリコン型太陽電池や化合物型太陽電池、有機型太陽電池など幅広い分野での技術競争力が高く、中でも結晶シリコン型と有機型の出願人スコアがトップであった。また、キヤノンはすでに太陽電池事業から撤退しているものの、アモルファスシリコン型太陽電池における出願人スコアが高く、三洋電機はアモルファス型および結晶シリコン型において高い技術競争力を示しているという。グラフを見ると分かるように、材料メーカー3社、特に信越化学工業/信越半導体の出願人最高スコアの高さは顕著であり、同社がこの市場参入を狙っていることが分析できる。ジェイスターでは、企業の知的財産の価値を正しく評価し(または、特許情報から将来の競合企業の事業戦略を読み解く)、特許を経営戦略の一部として組み込む必要があると考えている。そして、海外太陽電池メーカーを戦略的特許で、先制攻撃することが日本の太陽電池産業を守ることになるだろう。

図1 出願人スコアマップ:全体(出典:IPB社)
●関連情報:IPCC 第4次評価報告書(気象庁Webサイトより)
http://www.data.kishou.go.jp/climate/cpdinfo/ipcc/ar4/index.html
「低炭素社会実現」提言受け 首相が行動計画策定を指示(北海道新聞より)
http://www.hokkaido-np.co.jp/news/politics/99170.html(現在リンク切れにより閲覧不可)
太陽光発電:5年後にグリッド電力と競合へ(Semiconductor International Japanより)
http://www.sijapan.com/issue/2008/05/lo86kc0000001bh8.html
「太陽光発電のコストを半分に」(EE Timesより)
http://www.eetimes.jp/contents/200803/32365_1_20080319194926.cfm
太陽光発電の研究開発拠点、6月にも新設――経産省(NIKKEI NETより)
http://eco.nikkei.co.jp/news/nikkei/article.aspx?id=MMECn1984629042008
太陽光発電、3―5年で価格半減へ 経産省が新政策発表(NIKKEI NETより)
http://eco.nikkei.co.jp/news/nikkei/article.aspx?id=AS3S2302K%2024062008
電気安全環境研究所
http://www.jet.or.jp/disclose/index.html
●太陽電池市場に参入しない日本半導体企業
 2008年6月に東京応化と米IBMが非シリコン系のCIGS(銅(Cu)・インジウム(In)・ガリウム(Ga)・セレン(Se))太陽電池モジュールの製造プロセス技術、材料および装置の共同開発を行うことを発表した。米Intelも社内の新規事業部門を分社化し、太陽電池開発ベンチャーの設立を発表し、この分野への事業拡大を狙っている。独Qimondaは独Centresolarと合弁企業を設立。多結晶シリコンの太陽電池事業へ乗り出した。米CypressはSunPowerを子会社化、米National SemiconductorはSolar Magic技術で太陽電池市場に参入する。また、米Nanosolarが太陽電池モジュールを年間1GWの規模で製造する装置を開発したと明らかにするなど、米国の環境市場の拡大と技術開発は急速に進んでいる。それだけではない。アジアでも動きが見られる。NexPower Technologyは台湾United Micro-electronics Corp社(UMC)ファンドリー企業の子会社である。20億台湾ドルを投じて、薄膜シリコン型太陽電池の製造ラインを台湾の新竹市に構築した。

多くの企業が、太陽電池産業に参入しているが、日本の半導体メーカーは残念のことに1社も参入をしていない。ソニーが製造コストの安い色素増感太陽電池を開発したと発表している程度である。ソニーは、いまのところは太陽電池の事業化は未定である。太陽電池には、いま非常に強い需要があり、なおかつ高い利益が確保できる。このリセッションの無い市場に参入しない。これが日本の常識論なのであろう。課題となっている多結晶シリコンなど材料メーカー各社が増産計画を打ち出している。チッソ、新日鉱ホールディングス、東邦チタニウムの3社が設立した合弁会社は、2010年度から太陽光パネルの主要原料の1つである多結晶シリコンを年間400トン製造することを発表した。2012年度には3000トン体制、将来は1万トン体制を目指す。シリコンウェハメーカーのSUMCOも佐賀に新工場を設立し、太陽電池向けウェハの大幅増産を行う。エム・セテックやJFEスチールも増産する。半導体向けで世界最大手の信越半導体は、太陽電池向けを手掛けていないが、将来の有望市場として調査・研究しているとしており、参入してくる可能性もある。

表2は、各社シリコン増産発表をまとめたものである。ジェイスターの最新多結晶シリコンの予測では、多結晶シリコンの世界は、各社増産体制により供給と需給のバランスは取れるものと見ている。ジェイスターの最新の調査では、2010年の多結晶シリコンの市場勢力図は、下記のようになると予測する。
米国 4万2900トン/年
欧州 3万6000トン/年
中国 12万5800トン/年
韓国 5万8000トン/年
日本 1万9100トン/年
出典:ジェイスター(2008年3月)
2006年生産実績は3万3300トンで、2010年以降の稼働中・工場着工済みの生産量は15万4700トン、計画中ものを含むと28万1800トンとなる。半導体用途は2010年以降の需要も30000トン/年である。日本のトクヤマなど有力企業も2010年以降には、トップ10外となり、結果的に、日本の予測シェアは、5.8%程度となるだろう。この供給量に対して、安易に薄膜系太陽電池に技術をシフトさせることは日本太陽電池メーカーが世界と差別化ができなくなることになる。経営陣には、慎重に判断し欲しい。
●関連情報
SUMCO、太陽電池ウェハ4倍に増産――佐賀に新工場(NIKKEI NETより)
http://eco.nikkei.co.jp/news/nikkei/article.aspx?id=MMECn1039910092007
“イケイケ”の太陽電池業界、洞爺湖サミットが追い風となるか(diamond.co.jpより)
http://diamond.jp/series/inside/06_14_005/
キマンダとCentroSolar Group、太陽電池の製造で合弁会社設立(キマンダWebサイトより)
http://www.qimonda.jp/about/press/releases/CentroSolar_J.html
サイプレスCEO:「エネルギー問題の解決には戦略の転換が必要」(CNET Japanより)
http://japan.cnet.com/interview/biz/story/0,2000055955,20200328,00.htm
ナショナル セミコンダクター 太陽光発電の性能を最大限に高める新技術により 太陽光発電システム市場に参入(ナショナル セミコンダクターWebサイトより)
http://www.national.com/JPN/news/item/0,4140,719,00.html
コマツ、多結晶Si事業の米国子会社ASiMIを売却へ(Semiconductor Internationalより)
http://www.sijapan.com/breaking/0506/30bu_komatsuseisakusho050629.html
●日本の行くべき道とは
 今後、日本にとって、戦略上重要なのは、資源外交である。シリコン系・化合物系太陽電池(半導体、液晶、自動車など全産業で必要となる)の原材料となるレアアースやレアメタルは海外からほぼすべてを輸入に依存しており、特に多結晶シリコンの原材料のケイ石は中国から約80%輸入している。中国はすでに戦略物資であるレアアースなどの輸出制限を始めており、自国産業育成の名のもとに、日本のエレクトロニクス産業を一掃することも可能であるということは十分理解しておく必要がある。よって、日本の取るべき道は、中国をアジア圏経済産業戦略パートナーとポジショニングし、中国国家元首(胡錦濤国家主席)が来日した際のメッセージである日中「戦略的互恵関係」を早期に拡大をすべきである。中国は、資源大国であり、資源調達の大国でもある。隣国との無益な争いは極力避け、アジアの発展とともに日本の成長を見い出す必要があるだろう。
●ハイテク王国ニッポン復権のシナリオ
 日本は、2008年7月に開催された主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)の議長国である。世界の温室効果ガスの排出量を2050年までに半減させるには、先進国は60~80%の大幅削減が求められている。最新の国際エネルギー機関(IEA)のエネルギー技術予測の報告書によれば、世界各国の政府が現行の経済・産業政策を維持した場合、2050年までに世界のCO2排出量は130%、原油需要は70%増加する可能性があるという驚くべき見通しを示した。この報告書には2050年までに、CO2排出量を半減させるためには総額45兆米ドルの投資が必要とある。CO2排出量を減らすため各国政府は、地球温暖化に対する取り組みの協調と地球規模のエネルギー技術革命を実現しなければならない。地球温暖化という地球規模のピンチは、環境ハイテクの先進国である日本には、大きなビジネスチャンスとなろう。日本が世界に貢献できる事は何か? これは、日本のハイテク産業界にも問われている命題でもある。地球温暖化を改善するためには、当然ながら、太陽電池を採用した次世代自動車、次世代統合型ポータブルデバイス(iPhoneを超えるような)、環境半導体(SiC・GaNパワーデバイス)など環境テクノロジーに期待が高まることになる。北海道洞爺湖サミットは、地球環境サミットと銘打っている。サミット開催に合わせ、前もって噂されていた税制や電力買い取りといった、太陽光発電への優遇策「福田ビジョン」が打ち出された。これは日本国、産業界には必ずプラスに働くことになる。しかし、われわれは肝に銘じなければならないことがある。過去の歴史が物語るように巨大文明は必ず滅んだということである。テクノロジーが万能でなく、テクノロジーにおぼれるものはテクノロジーに滅ぼされるということである。 自然への崇拝や恐れの喪失、自然を軽視すると、必ずしっぺ返しを受けることになる。これがいま、地球規模で現れている気候変動なのかもしれない。エネルギーや食糧の消費もある。ジェイスターが予測する「未来は暗い」。これが冷徹な現状分析なのである。しかし、多くの困難を乗り越えてきた日本国(人)は、自国の経験した公害や環境問題、省エネなど技術により、世界に尊敬され貢献できるだろう。日本の環境テクノロジーを世界に配信しつつも、企業としてきちんと収益を上げるモデルを日本企業は確立しなければならい。そのためには、日本政府に対する産業界の正しきロビー活動も必要となる。
●関連情報
世界のCO2排出量、現行政策継続なら2050年までに倍増=IEA(ロイターより)
http://jp.reuters.com/article/worldNews/idJPJAPAN-32138920080606

筆者紹介:ジェイスター株式会社 代表取締役豊崎 禎久(とよさき よしひさ)
米フェアチャイルド社、ソニー セミコンダクター社、米シグネティックス社、蘭フィリップス・セミコンダクタ社などを経て、米LSIロジック社では開発戦略を立案するストラテジック・マーケティングとして活躍。米ガートナー社の日本半導体市場およびロジック、マイクロコンポーネント、IP市場とマルチメディア機器の主席アナリストに着任。米調査会社で日本法人代表を務め、2006年4月エレクトロニクス・半導体・エネルギー分野における調査・研究・戦略コンサルティング事業を行うジェイスター株式会社を設立し、代表取締役就任。現在、産業アナリスト、エコノミストとしてブルームバーグTVや日経CNBCなどに定期的に出演、講演多数。元NEDO(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)技術委員、元東京工業大学精密工学研究所パテント評価委員、福岡先端ハイテクLSI開発クラスター外部評価委員会委員、神奈川県知事のプライベート・アドバイザー、自由民主党本部にて参議院議員 岸信夫氏と共に「これからの日本産業を考える会」を発足。座長を務める。

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