2008年7月24日木曜日

太陽光発電の高効率化技術「SolarMagic」,ナショセミが実現技術を明らかに


SolarMagicモジュールの外観。外形寸法は10cm×12cm程度である。


http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20080724/155303/
2008/07/24 10:39
米National Semiconductor Corp.は,太陽光発電システムの発電性能を高める技術「SolarMagic」を開発し,米国カリフォルニア州において実地試験を開始した(Tech-On!関連記事)。この技術を適用すれば,既存の太陽光発電システムに比べて,発電量を最大で45%も高められるという。どのような手法で発電量を高めるのか。同社の日本法人で代表取締役社長を務めるJeff Waters氏に,SolarMagicの技術内容などを聞いた。
--SolarMagicでは,どのような手法で太陽光発電システムの発電量を高めているのか。その詳細を具体的に説明してほしい。
Waters氏 SolarMagicは,当社のアナログ半導体技術を駆使して実現していおり,形状はモジュールである。単体のICではない。モジュールの中に,インテリジェンスなアナログICなどを収めてある。このモジュールは,太陽電池モジュール(太陽電池セルを複数枚搭載したモジュール)に1個接続して使用する。従って,3直2並で太陽電池モジュールを接続したシステムであれば,SolarMagicモジュールが6個必要になるわけだ。SolarMagicモジュールの役割は,建築物や樹木などによって作られた日陰によって太陽光発電システムの発電量が低下してしまうことを防止する点にある。既存のシステムでは,日陰ができてしまった太陽電池モジュールを,ダイオードを使ってバイパスさせることで,システム全体の発電を可能にしていた。つまり,バイパスさせた太陽電池モジュールは,ほとんど発電に寄与していない。SolarMagicを使えば,こうした太陽電池モジュールも,発電に寄与させることが可能になる。このため発電量が高まるわけだ。さらに,太陽電池セルのミスマッチによる悪影響を最小限に抑える効果もある。ミスマッチとは,太陽電池セルの発電能力のばらつきである。太陽電池モジュールでは,セルを直列に接続して使うため,その中に発電能力が小さいセルがあれば,ほかのセルの発電性能が制限を受けてしまう。SolarMagicモジュールを接続すれば,太陽電池モジュールの発電能力を最大限に生かすことが可能になる。
--SolarMagicモジュールでは,どのような制御を実行しているのか。
Waters氏 太陽電池セルから得られる発電電力は常に一定ではない。セル電圧によって,発電電力は大きく変化する。すなわち,発電電力が最大となるセル電圧が存在する。その発電電力をMPP(Maximum Power Point)と呼ぶ。SoalrMagicモジュールは,太陽電池モジュールの単位で,常にMPPで動作するように制御している。ただし具体的な制御方法については,現時点では明らかにできない。量産出荷を予定している2009年第1四半期(1~3月)には,詳細を話せるようになるだろう。
●外形寸法は10cm×12cm
--SolarMagicを適用することで発電量はどの程度高まるのか。
Waters氏 現在,米国の太陽光発電システム施工会社であるREgrid Power, Inc.と共同で,実地試験に取り組んでいる。その試験によると,ダイオードによる対策のみの既存システムに比べて,発電量を最大で45%高められるという結果が得られている。
--SolarMagicモジュールの外形寸法はどのくらいか。価格はどの程度に設定する予定か。
Waters氏 外形寸法は10cm×12cm程度である。太陽光発電システムであれば,問題なく搭載できる大きさだろう。価格は,現時点では明らかにできない。しかし,SolarMagicモジュールを採用することで,太陽光発電システムの発電コスト(1kWh当たりの発電コスト)が下がる価格に設定する考えだ。
--太陽光発電システムは,20年や30年といった長期間使用される可能性が高い。こうした長期間の使用に耐えられるように,半導体チップを収めたモジュールの信頼性を確保することは可能なのか。
Waters氏 大きなチャレンジであることは間違いない。しかし,当社には,産業用電子機器用途に向けた半導体チップ開発でたくさんの経験がある。これらの経験を活用すれば,信頼性を確保することは可能だろう。ただし結論は,量産出荷を開始する予定の2009年第1四半期まで待ってほしい。
●ギガ・トレンドに乗る
--なぜ,太陽光発電システムに向けたアナログIC市場に参入したのか。
Waters氏 当社は確かに,扱う電力が比較的小さいアナログ/電源ICを得意としている。太陽光発電システム市場への参入は奇異に映るかもしれない。当社がこの市場への参入を決めたのは,2~3年前のことだ。その当時,今後世界全体で大きな問題になりそうなトピックスについて話し合った。その際に登場したのがエネルギー問題であり,代替エネルギーをいち早く実用化しなければならないという結論に至った。そこで当社の技術者が検討し,取り組んだのが太陽光発電システムの発電コストを低減する技術の開発である。エネルギー問題のほかには,ヘルスケアやセキュリティといったトピックスが登場した。当社ではこうしたトピックスを「ギガ・トレンド」と呼んでいる。これらの問題を解決する技術を開発すれば,大きな市場機会があるのは間違いない。
--SolarMogicモジュールの販売先はどのような企業になるのか。
Waters氏 太陽電池モジュール・メーカーが主な販売先となる。既に,日本のメーカーとも協議を始めている。SolarMagicは,日本市場に合った技術だと考えている。日本は住宅が密集して建っており,住宅の周囲に樹木が多いからだ。米国のカリフォルニア州では,太陽電池モジュールに日陰を建物や樹木は多くない。従って,米国市場では,太陽電池セルのミスマッチによる影響を最小限に収めることを理由に普及が進む可能性が高いと見ている。ただし,現在,日陰を作る樹木が多くないカリフォルニア州でも,太陽光発電システムの上にできた日陰を巡って論争が起きている。日陰を作る木を切るべきか,切らぬべきかという論争だ。太陽光発電システムの発電量は,高ければ高いほど環境に優しい。そのためには木をきらなければならないが,そもそも木を切る行為自体は環境に悪い。果たして,どちらの方が環境に優しいのだろうか。しかし,SolarMagicモジュールが実用化されれば,こうした論争に終止符が打たれるだろう。

SolarMagicモジュールの使用方法。太陽電池モジュールに対して,1個のSolarMagicモジュールを接続して使う。

SolarMagicモジュールを使うことで,発電量を最大で45%高められる。グラフの青い線が日陰が全くないときに得られる発電量。ピンクの線は,日陰がある状態でSolarMagicモジュールを使わなかった場合に得られる発電量。緑の線は,SolarMagicモジュールを使った場合の発電量である。
山下 勝巳=日経エレクトロニクス

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