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2008年7月24日(木)公開「福田ビジョン」の要は太陽光発電の拡大 日本は2020年までに、二酸化炭素(CO2)排出量を現状に比べて14%削減できる──。今年6月9日、福田康夫首相は、日本記者クラブで行ったスピーチ「低炭素社会・日本をめざして」で、いわゆる「福田ビジョン」を打ち出した。現状比14%削減に向けた具体策は、省エネの推進と並んで、全発電量に占める「ゼロ・エミッション電源」の比率を50%以上にするというもの。ゼロ・エミッション電源とは、原子力発電や再生可能エネルギーなど、CO2排出量がゼロの発電方法を指す。福田ビジョンでは、特に、太陽光や風力、水力、バイオマスなどの再生可能エネルギーに力を入れていく方針を明らかにした。福田首相が、なかでも期待を寄せているのが太陽光発電である。2020年には太陽光発電の発電量を現状の10倍に、2030年には40倍に増やす目標を掲げた。福田ビジョンでは具体的な数値を発表していないが、2005年の設備容量である約140万kWを基準に計算すると、10倍なら1400万kW、40倍だと5600万kWで、この数値を目標に、導入量を増やしていくことになる。福田ビジョンで、太陽光発電の発電量を増やすために提言された施策は二つある。一つは、電気事業者などによる世界最大級規模の「メガソーラー発電」を全国に展開すること。もう一つは、新築持ち家住宅の7割以上に太陽光発電を導入することだ。メガソーラー発電とは、発電量が1000~1万kW級のもので、家庭用の太陽光発電装置が平均3kW程度の出力であることを考えると、太陽光発電としては相当大規模なものであることがわかる。実は、CO2排出量を現状比14%削減というのは、今年5月に資源エネルギー庁から発表された「長期エネルギー需給見通し」の「最大導入ケース」で示された削減量とほぼ同じ数値である。最大導入ケースとは、実用段階にある最先端技術を最大限に普及させる場合で、劇的なCO2削減を実現することを前提とした試算だ。水力・地熱発電を含む再生可能エネルギーの導入目標は、全電力比で2005年度の5.9%から2030年度には11.1%に、水力・地熱発電を除いた場合の導入目標は、全電力比で、2005年度の2%から2030年度には6%に高めるとされている。
■2030年に現在の40倍規模をめざす太陽光発電
今年6月に発表された「福田ビジョン」のポイント
日本の中・長期目標
長期目標 2050年までにCO2排出量を現状に比べて60~80%削減
中期目標 今後10~20年で世界全体のCO2排出量をピークアウト(頭打ちに)させる必要があり、日本はここ1、2年のうちにピークアウトさせる
日本のセクター別積み上げ方式によってCO2削減量を分析し、2008年12月に行われる国連気候変動枠組条約第14回締約国会議(COP14)で結果を報告するよう各国に働きかける
2009年中に日本の国別総量目標を発表
具体的な政策
革新技術の開発 革新的な太陽電池やCCS(炭素隔離・貯留)、次世代原子力発電などの技術開発ロードマップを世界で共有し、技術開発を進める
「環境エネルギー国際協力パートナーシップ」を洞爺湖サミットで提案
既存先進技術の普及:再生可能エネルギー 2020年までに、再生可能エネルギーや原子力などの「ゼロ・エミッション電源」の比率を50%以上に引き上げ、新車の2台に1台の割合で次世代自動車を導入
太陽光発電の導入量を2020年までに現状の10倍、2030年に40倍にするため、導入支援策や新料金体系を検討
既存先進技術の普及:省エネ 2012年までに白熱電球を省エネ電球に切り替え、省エネ住宅・ビルの義務化や200年住宅の普及を促進
国全体を低炭素化へ動かすしくみ:排出量取引 2008年秋に、排出量取引の国内統合市場の試行的実施を開始
「福田ビジョン」では、太陽光発電などの再生可能エネルギーを軸に低炭素社会の実現をめざしていく方針を打ち出した
「太陽光社会」実現に向けた施策 福田ビジョンの発表を受けて、資源エネルギー庁・総合資源エネルギー調査会新エネルギー部会は、6月24日、新エネルギーの導入拡大に向けた緊急提言を発表。「新エネ・モデル国家」を構築し、新エネ文明を日本から世界に向けて発信していくことを提言するとともに、福田ビジョンを具体化する方法を示した。この提言によれば、2020年に太陽光発電の発電量を現状の10倍に、2030年に40倍に増やして「太陽光社会」を実現するには、2020年に新築持家の約7割、2030年には新築戸建住宅の約8割に、3kW級の太陽光発電パネルを設置する必要がある。また、工場やオフィスビルなどの産業用や学校・駅などの公共施設でも、全体の約8割に太陽光発電装置が設置されている状態が必要だ。福田ビジョンや新エネ部会の緊急提言が太陽光発電に注目するのは、素材から加工、組立まで、太陽光発電は裾野が非常に広い産業であり、雇用創出効果が期待されるという理由もある。もともと日本は、太陽電池産業で他国に先行しており、生産量では世界一を誇る。太陽光発電の累積導入量では、2005年度の補助金打ち切りをきっかけに、世界一の座をドイツに明け渡したが、産業の国際競争力そのものは依然として高く、日本にとっての強みとなっている。課題は、住宅用太陽光発電システムの導入コストだ。日本では、ドイツのように、電力事業者に対して通常の電力価格より大幅に高い値段で再生可能エネルギーの買い取りを義務付ける「固定価格買い取り制度」を導入していない。結果として、普及させるためには、量産などによりシステム自体のコストを下げる必要がある。そのためには需要増が不可欠だ。新エネ部会の緊急提言では、技術開発と需要創出で機器の高効率化と価格低減を図り、現在の1戸あたり約230万円という導入費用を、3~5年以内(2011年~2013年まで)に半額(約115万円)程度まで低減するという目標を掲げている。具体的な施策として、住宅用太陽光発電に対する国の支援措置を再開する。補助金を打ち切った結果、導入量の伸び率が停滞したことを重く見た福田首相からの指示で再開が決まった。一方、緊急提言では、公的支援に加え、太陽電池メーカーと住宅メーカー間の連携を強化する必要性を訴えている。住宅の設計段階から太陽光発電を組み込むことや、屋根や壁材と一体型の太陽電池パネルを普及させることに加え、各家庭での太陽光発電のCO2排出量削減効果を住宅メーカーなどが取りまとめ、グリーン電力証書化する事業も提言している。グリーン電力証書とは、グリーンエネルギーで発電された電力について、CO2排出量削減という付加価値を証書化する取り組みだ。さらに、電気事業者に新エネルギーなどの電気を一定割合以上利用することを義務付けた「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法(RPS法)」では、2011年から、太陽光発電に特例措置が設けられる。電力会社が再生可能エネルギーの割り当て量を満たす際に、太陽光発電による発電量は、他の発電方式の2倍として扱われることになる。コストのハンディを克服するためのインセンティブの導入が進められているわけだ。
■再生可能エネルギー導入率11%をめざす日本
「長期エネルギー需給見通し」では、実用段階にある最先端技術を最大限普及させることで、再生可能エネルギー(水力・地熱を含む)の比率を2030年度に11.1%に高めることができると試算している(出所:資源エネルギー庁総合資源エネルギー調査会需給部会「長期エネルギー需給見通しのポイント」を基に作成)
日本でも始動する「メガソーラー計画」 産業・公共分野でも太陽光発電の導入が進められている。ビルの屋上や工場の屋根、ビルや高速道路の側壁、駅舎・ホームの屋根などが設置場所だ。例えば堺市(大阪府)と関西電力、シャープは、今年6月23日、堺市の臨海部2カ所でメガソーラー発電を行う「メガソーラー計画」を発表した。1カ所目は、産業廃棄物埋め立て処分場の跡地。出力1万kWの「太陽光発電所」を設置する。もう1カ所は臨海コンビナート。工場の屋根などに太陽光発電装置を設置する計画で、こちらは当初、9000kWの発電から始め、最終的には出力を1万8000kWまで増やし、コンビナート内の電力需要にあてる。2009年度に計画に着手し、2011年度に運転を開始する予定。太陽光発電装置を設置するうえでネックとなるコストについては、建設費の3分の1を国が助成し、強力に支援する。太陽光発電普及のもう一つの課題は、天候条件により発電量が変動することだ。発電量が少なければ既存の電力系統でも吸収できるが、発電量が多くなると系統に大きく影響を与えてしまい、周波数や電圧などを安定させることが難しくなる。そこで、安定化のために、太陽光発電による電気を蓄える「蓄電池」が必要となる。一方、太陽が出ていないときは発電しないため、火力発電所などのバックアップ電源が必要になることも悩みのタネ。大規模導入のためには、安定化技術や蓄電池システム、バックアップ電源などの計画的な整備が必要となるが、そのためにはコストがかかる。今後、メガソーラーを全国的に展開して発電量が増えてくると、コストもかさむようになる。こうした費用を電気事業者が負担するのか、電力料金に転嫁し消費者が負担するのかなど、費用負担のあり方も検討していかなければならない。系統との連携ルールやバックアップ、費用負担などの問題は、今後、国の審議会などで議論していくことになるだろう。
>>後編に続く
十市勉 氏 (といち つとむ)財団法人日本エネルギー経済研究所 専務理事・首席研究員
1973年東京大学理学系大学院地球物理コース博士過程終了、理学博士。同年日本エネルギー経済研究所に入所。米国のマサチューセッツ工科大学エネルギー研究所客員研究員を経て、日本エネルギー経済研究所第1研究室室長に就任。理事・総合研究部長、常務理事・首席研究員などを経て、2006年に専務理事(最高知識責任者)・首席研究員に就任。主な著書に『21世紀のエネルギー地政学』(産経新聞出版)、『エネルギーと国の役割─地球温暖化時代の税制を考える』(共著、コロナ社)、『石油─日本の選択』(日本能率協会マネージメントセンター)、『第3次石油ショックは起きるか』(日本経済新聞社)などがある。内閣府経済財政諮問会議・日本21世紀ビジョン・グローバルWG委員、総合資源エネルギー調査会臨時委員を務めるなど、エネルギー分野での論客として知られる。
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