http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20080718/155007/
問◎太陽電池が発明されて50年,まず歴史についてお聞かせ下さい。
答◎1950年代から1980年代半ばの「黎明期」,1990年から2000年代半ばにかけての「成長期」,グローバル展開が始まった現在の「拡大期」の三つに分けることができます。私は1960年代初めから半導体を研究していたのですが,1973年のオイルショックを契機に,アモルファスSiを使った太陽電池の研究を始めました。当時,エネルギー危機が叫ばれ,ローマクラブは「資源は有限だ」とする『成長の限界』を提言,米国や日本の企業を中心に代替エネルギーの研究が始まりました。しかし原油価格が下がるとともに,日本以外の企業は撤退。日本ではサンシャイン計画があり,変換効率が悪かった太陽電池を家電メーカーがソーラー電卓やソーラー時計に使うという活路を見いだすことで,研究開発を続けました。
問◎1980年代半ばになると,変換効率は10%を超えるようになりました。
答◎それによって,一般家庭の平均電力消費量3kWをまかなえるようになるとともに,オゾン破壊などの環境問題が注目されたこともあり,太陽光発電の出番だという話になりました。当時の太陽光発電システムは発電した電気を蓄電池に貯めて使うものでしたが,直接,電力会社の電力系統に接続し,電力をやり取りすれば,蓄電池は不要になります。しかし,当時,それができる社会的な仕組みがありませんでした。そこで,私たちは社会に訴え,法制度が整備され,1992年には住宅の屋根に装置を設置して家庭用電力をまかない,余れば電力会社に売ることができる「逆潮流ありシステム」が可能になりました。1992年7月,私は自宅に日本初の太陽光発電装置を設置。さらに助成金制度が設立され,1994年から2005年まで個人住宅に助成金が交付されました。その結果,設置戸数が増え,太陽電池の生産量も拡大して,価格も下がりました。
問◎この数年,温室効果ガス削減が人類共通の課題になっています。
答◎1990年代後半までは,日本が世界の太陽光発電のリーダーシップをとっていました。ところが,1997年に京都で開かれた気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)以降,EUがイニシアチブを取り始めました。ドイツでは,2000年に再生エネルギー法が制定され,フィードイン・タリフという制度ができました。これは電力料金を3%高くして,太陽光発電の電力を通常の3倍ほど高い価格で電力会社が購入するものです。これによってドイツでは太陽光発電が急速に普及し,制度はEU全体に広がり,韓国でも始まりました。逆潮流ありや助成金に換えて,高い買い取り価格の設定など,ドイツは日本の経験を踏まえて制度を作っています。
問◎日本の助成金もフィードイン・タリフも政府が資金を投入し,政策的に誘導するやり方です。競争の中で,他よりもコストが安いことで成長していくのが本来の姿のように思いますが。
答◎エネルギー分野は効率化され,成熟した古い競争相手が常に存在するという特徴があります。ですから,新しいエネルギーが出てきても,自然発生的には参入できません。新しいエネルギーが受け入れられるためには,社会政策で導入を促す過渡的な時期が必要です。誘導策が必要なくなる時期は確実に来るので,その段階になれば,助成策を止めればよいのです。
問◎太陽光発電が一気に広がる時代が本当にやってくるのでしょうか。
答◎既に予兆はあります。2020~30年ころには,石油,石炭など化石燃料が枯渇することは明らかです。BRICs諸国の経済発展によって化石燃料の消費は膨大な量になり,今後も増え続けるでしょう。それが原油価格高騰の最大の理由です。今,日本の電力料金は1kWhあたり23円程度で,60%ほどが化石燃料による発電です。今後,原油価格上昇と同レベルで値上がりする可能性が高く,倍近くになっても不思議ではありません。そうすると,1時間で世界中の1年分のエネルギーがまかなえる太陽光発電を使う以外に,社会は今の生活を維持できなくなってしまいます。
問◎今後の課題は何でしょう。
答◎技術面では,低コスト化と長寿命化です。太陽電池システムの寿命を20年として,日本の電力料金と発電コストを比較すると,太陽光発電が割高です。しかし寿命を100年まで延ばすことができれば,現在の火力発電所の発電単価とほぼ同じになります。
問◎寿命100年は現実離れしているのではないですか。
答◎太陽電池は半導体の量子効果を利用しているので,原理的には半永久的で,100年使うことは可能です。問題は電気取り出しのための部分です。例えば電線は金属なので劣化しにくいのですが,樹脂であるシールドが劣化します。ですから,劣化を防いで100年保つ材料を開発すればよいのです。太陽電池は何回も失敗する中で新しい樹脂が開発され,現在,寿命が20年になっているわけですから,できない話ではありません。このように長寿命化は変換効率アップによるコスト・ダウンと同等の価値があるのです。長寿命化という観点に立った技術体系にする。そのために新材料を開発し,質のよい素材を使い,徹底的に寿命を延ばすことを考える。さまざまな紆余曲折はありながら,ここまで発展してきた太陽電池の歴史を考えれば,やる気になれば技術的にできるはずです。
プロフィール
桑野 幸徳 1941年生まれ。1963年,熊本大学理学部卒業。同年,三洋電機入社,技術本部中央研究所配属。1993年取締役,1996年常務取締役,1999年セミコンダクターカンパニー社長,2000年代表取締役社長に就任。2005年から相談役。
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