2008年7月30日水曜日

石油枯渇対策~色素増感型太陽電池の研究について


http://www.news.janjan.jp/culture/0807/0806149580/1.php
相生竜2008/07/30
 アナターゼ型二酸化チタンはバンドギャップエネルギー(以下B.G.と表記)が 3.2 eVの半導体である。ナノサイズに超微粒子化されたものは、量子サイズ効果によりB.G. は 3.4 eV とより一層大きくなる。これは可視光領域に吸収帯が存在しないことを意味する。実際に可視領域に吸収は観られず、紫外領域(<400 nm)にバンドギャップのエッジが存在するだけである。一方、太陽光の輝線スペクトルは、480 nm 近傍に極大を持ち紫外領域には強度が僅かに存在するだけである。→1) このように太陽光のスペクトルと二酸化チタンの吸収スペクトルの間にはほとんど重なりがなく、太陽光エネルギーの大部分を損失していることになる。この問題の解決策として考案されたものが、色素増感型太陽電池である。これは二酸化チタンの電極表面に、可視光部に吸収スペクトルをもつ色素を吸着させたものである。光吸収した色素の分子内部に発生した励起電子が、二酸化チタンの伝導帯へ電子注入されることで電流となる。原理的には写真の感光材料に用いられているハロゲン化銀に、可視光全域に吸収をもつような色素を吸着させて、パンクロマティクな感光性を発現させているものとよく似ている。ハロゲン化銀も本来青色にしか感光性をもたないが、種々のシアニン系色素において強色増感をおこなっている。このような手法により二酸化チタン電極単体のときにくらべて、太陽光エネルギーを有効に利用できるようになった。しかし色素から電極へと電子が注入されるのは表面の単分子吸着層だけであるので、電極の単位面積当たりの色素分子数でエネルギーの変換効率は決まってしまう。この方法でもセルの光電変換効率は1%未満であったといわれている。スイスのM.Grätzelらは、二酸化チタン超微粒子を堆積させた多孔質膜を形成させ、そこにRuⅡ(2,2’‐bipyridyl‐4.4’‐dicarboxlate)2(NCS)2(以下Ru2とする)を吸着させた新規電極を考案した。→2)この方法では平板電極の受光面積約 1cm2 相当に、二酸化チタン微粒子の表面積にして1000 cm2となるような膜を形成させることができる。すなわち光学距離の観点からは1000倍の能力を有したことになるといえる。彼らはこれにより約10% の光電変換効率を達成した。この数値は当時汎用されていたSiを用いた乾式太陽電池の変換効率に近い値である。この太陽電池の大きな利点は、生産コストの低減である。使用される材料がシリコン型のように極端に高い純度を必要としないということである。具体的には、通常の化学的な合成プロセスで得られる99%程度の精製度で十分であるとされている。結果として生産コストが10分の1に低減されると、アメリカの国立研究機関から報告されている。実際に実用化できれば未来エネルギー技術として革命的であるといっても過言ではない。しかしまだまだ課題は多く残されている。主なものを以下に記す。
(1) 光電変換効率の向上。(最大10 ~ 12%)
(2) 耐用年数の延長。(1年未満)
 このシステムでは色素が光を吸収することから、全ての現象が誘導される。課題(1)、(2)を解決するためには、システム全体の研究は当然重要であるが、増感色素-二酸化チタン界面での電子移動などについてより詳細な研究が不可欠である。
<Reference>
1) 藤島昭、橋本和仁、渡部俊也 : 光クリーン革命, (㈱シーエムシー,1997)
2) Moser, J. E.; Grätzel, M. Chem. Phys. 1993, 176, 493.

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