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2008年7月30日 水曜日 服部 哲郎
洞爺湖サミットに合わせて開催された主要排出国会議では、G8諸国にブラジル、中国、インド、インドネシア、南アフリカ共和国などの16カ国が参加し、温暖化ガスの削減について議論された。しかし、削減の数値目標導入の必要性を主張する先進国に対して、ブラジル、中国、インド、インドネシア、南アフリカなどの新興国は、排出量の枠設定に対する警戒感が強く、先進国と新興国間の意見の相違が目立った。今後も国連と主要排出国会議で、2013年以降のポスト京都議定書の枠組みに関して協議が続けられる。意見の相違はあるものの、地球温暖化対策が喫緊の課題であるという問題意識は、先進新興主要国の間で共有されている。欧州をはじめとする先進国だけではなく新興国も、環境問題への意識の高まりに加えてエネルギー価格の高騰もあり、再生可能エネルギーの拡大を急いでいる。
●2007年の風力発電能力、インドは4位、中国は5位
例えば、風力発電を例に取ると、世界の風力発電能力(設置ベース)は、2007年末に94.1ギガワット(ギガは10億)と前年比27%増となった。先進国だけではなく、新興国でもインドが前年比28%増で世界第4位、中国は同132%増で同第5位となっている。温暖化ガス削減に関する先進国と新興国の議論は噛み合っていないものの、政策面、エネルギー確保の観点から再生可能エネルギーに追い風が一段と強まっている。また環境対策で主導権を取ろうとしている欧州では、EU(欧州連合)が地球温暖化ガス削減の数値目標導入に前向きで、EU内の数値目標を掲げている。その骨子は、
(1)EUの同ガス排出量を2020年までに1990年比で20%削減する、
(2)EU内のエネルギー消費に占める再生可能エネルギーの比率を2005年時点の8.5%から2020年までに20%に引き上げる、などである。
●実態に合わせた対策を打ち出す欧州
この目標を達成する具体策として、EUの行政執行機関である欧州委員会は2008年1月に温暖化対策包括案を発表し、排出権取引制度の改善、長期的な技術開発(CCS=二酸化炭素の回収・貯蔵)、再生可能エネルギーの拡大を打ち出した。同案における再生可能エネルギーに関して、欧州委員会は全加盟国に一律の目標を課してはいない。過去の実績、経済規模などに基づく負担能力を踏まえて、各加盟国別の目標を設定している。各加盟国は風力発電、水力発電、バイオ燃料、太陽光発電などの再生可能エネルギーを組み合わせ、目標達成を求められている。同案が欧州議会の承認を得てEU指令になった際には、達成の義務を負うことになっている。このようなEUレベルの枠組みの下で、再生可能エネルギーへの期待が強まると同時に、限られた期間内、コストで目標達成を可能にする再生可能エネルギーを選別し、優遇しようとする動きがEU加盟国の間で表面化している。優先順位が最も高い再生可能エネルギーは、(1)技術的に成熟している、(2)コスト競争力が向上している、(3)海上など立地面で成長余地が大きい、などの強みを持つ風力発電である。英国やドイツでは風力発電の優遇策が相次いで打ち出されている。
●英国では王室も一役買う
英国は、欧州委員会からエネルギー消費に占める再生可能エネルギーの比率を2006年の1.5%から2020年までに15%に引き上げることを求められている。引き上げ幅では、EU加盟国の中で最大であり、達成への危機感が強い。英国は、今年6月末に発表した再生可能エネルギー戦略リポート(Renewable Energy Strategy Consultation Document、以下RESCDリポート)において、発電における再生可能エネルギーの比率を2020年までに30~35%に引き上げることで、この目標を達成する青写真を描いている。再生可能エネルギー拡大の動きは既に具体化している。同国海岸の55%、さらに12海里以内の領海を保有する王室の不動産管理機関が、英国政府の意向に沿って、オフショア風力発電所建設を支援する計画を発表した。その内容は、不動産管理機関が管理する海域をオフショア風力発電にリースし、関連する許認可取得を支援するというものである。英国政府は上述のRESCDリポートにて、オンショア(陸上)に4000基、海上に3000基の風力発電機を設置し、風力発電能力を現行の10倍に拡大する方針を示している。この計画では、2020年時点における再生可能エネルギーのうち、オンショア、オフショアの風力発電が32%に達する見通しである。英国は目標達成に向けて、風力発電を中心に再生可能エネルギーを拡大させる戦略を鮮明にしている。
●ドイツでも海上風力発電に重点
ドイツは、欧州委員会からエネルギー消費に占める再生可能エネルギーの比率を2005年の5.8%から2020年に18%に引き上げるように要求されている。この目標を達成するため、ドイツはオフショアなど風力発電の拡大などから2020年までに発電に占める再生可能エネルギーの比率を30%に引き上げる意向である。ドイツの風力発電能力は、設置ベースで2007年に22.2ギガワット(前年比8%増)と世界最大で、再生可能エネルギーの有力市場である。急成長した再生可能エネルギー市場の起爆剤の役割を果たしたのは、フィードインタリフ(再生可能エネルギー発電システムからの電力に対する最低保証買い取り価格の設定)制度であった。同制度では、電力会社は、再生可能エネルギーの事業者などの発電する電力を買い取ることが義務づけられている。その価格設定は、
(1)再生可能エネルギーごとの発電コストを勘案する、
(2)コスト削減やエネルギー効率の改善を促すために、毎年引き下げられる
――といった形式になっている。同制度は再生可能エネルギーに対する優遇策として多くの国でモデルになっている。ドイツでは、オフショア風力発電に対するインセンティブをフィードインタリフに反映させようとしている。2008年6月に2004年改定の再生可能エネルギー法(EEG)の改正案がドイツ連邦下院において可決された。それによると、新規稼働のオフショア風力発電に対するフィードインタリフは、2008年現在のメガワット(メガは100万)時当たり89.2ユーロから引き上げられた。また2009年から2015年まで同150ユーロに固定される。一方、オンショアの風力発電は2008年現在の同80.3ユーロから2009年に同92ユーロに引き上げられるものの、その後は毎年1%引き下げ(従来は同2%引き下げ)となるなど、相対的にオフショア風力発電が優遇される見通しになっている。太陽光発電は、EEG改正案において、フィードインタリフを約10%引き下げ(価格レンジは同330~440ユーロへ)、毎年実施するフィードインタリフの削減率を、従来の年5%から2010年まで年8~10%に拡大する見通しで、優遇策の縮小を図っている。また、スペインもフィードインタリフの引き下げなど優遇策の削減を検討している。このため、太陽光発電量の伸びに対する不透明感が台頭している。しかし、ドイツの太陽光発電は、相対的に経済発展の遅れている旧東独地域に、成長産業として根づいているため、国策的な観点でも重要度を高めている。削減率は、報道によると当初案で示された30%から大幅に縮小されており、削減そのものは太陽光発電の成長を阻害するものではないとの安堵感が広がっている。フィードインタリフの引き下げは継続されるが、その優先順位は引き続き高い。反面、バイオ燃料には慎重論が拡がっている。世界的なインフレ上昇は、バイオ燃料向け需要の増加に伴う食料品価格急騰に起因すると見なされている。英国では、輸送に占める同燃料の比率を2008年の目標2.5%から2010年までに5%に引き上げる目標を法制化した。しかし、その実施を担当する政府機関が、土地利用や食品価格などへの悪影響を緩和するために、その目標達成時期を2013年に先送りする提言を発表した。今後は、食品と競合しない原材料によるバイオ燃料開発が加速すると見られるが、バイオ燃料の優先順位が低下するリスクが高まっている。
●調整局面は再生可能エネルギー投資の好機
再生可能エネルギー関連産業は、中長期的な見通しが良好であるが、5月中旬以降の株式市場の下落に伴って、風力発電・太陽光発電関連銘柄も調整局面を迎えた。今般の株価調整は再生可能エネルギー銘柄への投資の好機と捉えたい。再生可能エネルギーの主要プーイヤーは、日本のシャープ(太陽電池)、京セラ(同)、三菱重工業(風力発電機)などに加えて、米国のゼネラル・エレクトリック(風力発電機)、ドイツのシーメンス(同)などの世界の有力大企業である。さらに、欧州では再生可能エネルギーに特化した専業企業が急成長している。
代表的な企業は、風力発電関連では、ガメサ(タービンメーカー、スペイン)、ベスタス・ウインド・システムズ(同、デンマーク)、EDFエナジー・ヌーベル(風力発電、フランス)、イベルドロラ・レノバブレス(風力発電、スペイン)などがある。また太陽光発電では、Q-セルズ(太陽電池、ドイツ)、ソーラーワールド(同、ドイツ)といった企業が挙げられる。加えて、高成長が見込まれる新興国の企業も台頭している。スズロン(風力発電、インド)、米国上場のサンテック・パワー(太陽電池、中国)なども注目に値する。
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